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『とばせ鉄拳!ロケットパンチでの逆転打!まずは毘沙門館のくろがねの城が1勝だーっ!!』  遠藤の実況でスタジアム内は更なる歓声が沸き起こる。  観客席では礼華と麗奈が抱き合っていた。 「パパが勝ったね!!」 「本当に諦めの悪いヤツなんだから」  礼華は自然と目から涙がこぼれる。  試合前、伊藤をバカにしていた若者は拍手を送っている。 「イヤ……そのすいませんでした。あんたの旦那さん強いわ」  若者はペコリと礼華に頭を下げる。  礼華は涙を拭い、笑いながら若者に頭をパンとはたいた。 「うげ……」 「やっとわかったかバカヤロー!」 「その……暴力はやめて……」 「アハハ!ごめんごめん」  たじろぐ若者の背中をバシバシと叩く礼華であった。  一方のセコンド席。角中が自然と拍手を叩いていた。  それは、元同門であり親友だった伊藤への賛美である。 「オホン!」  中台は咳ばらいをしながら角中を見る。  何が言いたいかは直ぐにわかった。苦笑いをする。 「ハ、ハハ……いや申し訳ありません」  その頃、操縦用ルームに救護班が向かい伊藤を介抱していた。  救護員の男性は意識を確認する。 「大丈夫ですか?」 「ああ……ちっと頭がクラクラするがな」  伊藤は少し首をひねっている。  ギリギリの勝利だった。  試合は勝つには勝った……だが正直、伊藤自身少し納得のいく試合ではなかった。 「あんなもん空手じゃねえわな……」  救護員に肩を担がれながらポツリと言った。  ASUMAトレーニングセンターで初めて砕波に乗った時だ。  山村より砕波に搭載されたロケットパンチの説明を受けた。 「ロケットパンチって――もうそれ格闘技じゃねーぞ」 「同じことをゲオルグさんが言ってましたね。だから崩山に実装しなかったんですが」 「そりゃそうだろ。だいたい一発飛ばしたらそれで終了なんだろ?」 「ハハ……それも指摘されました」  結局は使うつもりがなかった切り札を使ってしまった。  出来る事ならば純粋な空手……格闘能力で倒したかった。  伊藤は神妙な面持ちで呟いた。 「実質の勝者はお前だぜ――南米の喧嘩十段」 ・ ・ ・ 「ハラハラさせられたが、まずは1勝か」  ルミはホワイトボードに書き出されている伊藤の横に丸印を書いた。 「どうですかロケットパンチ。かっこよかったでしょう?」  山村は誇らしげな顔をしている。  ロケットパンチを崩山のプロトタイプに搭載したが、操縦者であるゲオルグの申し出で却下された。  スーパーロボットを彷彿とさせるロケットパンチを、山村は気に入っていたので完成品に搭載されていないと聞いた時は結構ショックだった。  そのお蔵入りとなったロケットパンチ機能が、今回のBU-ROADバトルで見ることが出来たのが嬉しかったようだ。 「アンタも趣味人だね」 「ロケットパンチは男のロマンですからね」 「男のロマンってやつはドリルじゃないのか」 「フフフ……」  ルミのドリルという言葉に対し山村は不気味に微笑んでいる。  何やら意味深い表情であった。  さて次の試合であるが、続いての次鋒にはこう記されている。  アルギルダス・モリカと。 「……」  その頃、一人格納庫に向かう青年がいた。  次鋒戦で闘うアルギルダス・モリカことアルーガだ。  操縦用のメットやプロテクターを装着し準備は万端。指を軽く握ったり柔軟運動をしている。  彼は目の前にはこけ色と黄土色に塗装されたBU-ROADが立っていた。  人体骨格を模した形状……蒼が操る朧童子のプロトタイプ機をカスタマイズした『骸童子むくろどうじ』である。 「怖くデザインされたね。最初に乗った時はヒトの顔をしてたんだけどね」  アルーガが振り返ると蒼がいた。  僅かに微笑みながら歩を進める。 「俺がそういう風に頼んだからな」 「そうなのかい?」 「日本のサムライに稽古着の背中にドクロを刺繍した話があるらしいじゃないか。それにならっている――決死の覚悟というやつか」  その言葉に尋常ならぬ想いが秘められていた。 「これは試合さ。もっとリラックスして――」 「爽やかな顔をしているが、あんたも俺と同じ匂いがするぞ」  アルーガがそう述べて操縦ルームへと入った。 「同じ匂い?」 「あんたの練習試合を見てて思った。闘いでは残酷になれるってな」  部屋が閉まると骸童子の眼が赤く光る。  ASUMAの整備員が試合場へと誘導する。女性スタッフが通信機で連絡する。 「骸童子スタンバイOK!これより試合場へと向かいます」 ・ ・ ・ 『エルデ選手が威風堂々と登場!対戦相手を今か今かと待ちわびています!!』  スタジアムの試合場では、青春切なポップが流れている。  ――それは草原を駆け巡る狼のような音楽。  既に星王会館の次鋒エルデが入場していたのだ。  搭載する機体は『ベルウルフ』人狼を彷彿させる機体。  紫、茶、草色のトライアド配色がなされる。  フラットが開発したネオシュライカーのデータを元に開発された。 『“蒙古の空手魔術師”人は彼をそう呼びます!今宵はどのような技を見せてくれるのでしょうか!!』  エルデ・ガラグメンデ……齢34歳。モンゴル・ウランバートル出身。  彼が初来日したのは16歳。所謂いわゆる『相撲留学』である。  力士として期待されていたのだ。それに応えるように高校を卒業すると角界に入門。  『狼雷』の四股名で、長い手足を活かした突っ張りの押し相撲でトントン拍子に出世。前頭2枚目まで昇進する。  だが、運命が彼を狂わせる。  酒席での一幕である。同じ部屋の大関が、若い店員のか細い白い手を引っ張っていた。 「キミ可愛いねェ。ちょっとこっちへ来なよ」 「や、やめて下さい!」 「いいじゃないか少しくらい」 「助けて……誰か助けて下さい!」  周囲の店員、客は誰も止めに入らない。  相手は大関だ。一般人が止めれるほどの力はない。  一緒に来ていた関取衆や付け人でさえもだ。  元々この大関は、酒乱と女癖の悪さで有名で度々週刊誌を賑わせていた。  いつものことだと流し、見て見ぬ振りを決め込んでいた。 「大関……いい加減にして下さい」  そんな中、狼雷……つまりエルデが注意した。流石に我慢の限界だった。  横綱の品格ではないが、自分達力士は品格が求められる。 「何だ水差し野郎。こっちはいい気分だってのに」 「若い娘さんが嫌がってます。我々力士には品格が……」 「生意気を言うな!モンゴル人風情に何がわかるってンだよ!」  大関はそう述べると、バカリとビール瓶で頭部を殴打した。  エルデの額から血が流れる。 「大関の俺に意見たァ偉くなったもんだな!ええコラ?!」  酔った勢いもあったのか、大関の暴行は止まらない。  顔を叩かれ、あるいは蹴倒され、また壁に叩きつけられた。  やられる一方のエルデであるが……。 ――ゴキャッ!  大関の巨体が倒れた。顔面に右フックを叩き込んだ。  よく見ると、エルデの右手は固く握られている。  彼は持ち味の突っ張りを活かすため、密かに空手道場に通っていたのだ。  この事件を協会は、大関の酒乱と今までの不祥事を隠蔽するため、エルデの暴行として処理。  強制引退させた。  大相撲廃業後、彼は一旦プロレスラーとなった。  ライジングプロレスにスカウトされたのだ。  しかし、プロレスラーも僅か一年で引退。理由は空手家になるためだ。  ライジングプロレスと関係の深い正火流との出会いがあったからだ。  元々はカンフーギミックとして売り出すため、本格的な空手を学ばされた。  以前学んだ空手道場は、技も何もない殴り合いに近いフルコンだった。  キックもどきの空手とは違い、掌底や貫手等変化がある精妙な技に彼は夢中になったのだ。  そして、空手にのめりこんで十数年……何時しか‟蒙古の空手魔術師”と呼ばれるまでになる。 『打投極のリアル空手家オールラウンダー!どのような『技のデパート』を見せてくれるのでしょうか!!』  遠藤の言葉と共に一層スタジアムは盛り上がる。  そんな観客席に一際大きな巨人が立ち見していた。  大きな体躯たいくなため、普通人の席には腰かけられないでいた。 「み、見ろよ……威場がいるぞ」 「マジ?何でいるんだよ」  既に何人もの観客が異変に気付いていた。  その男はゴリアテ威場。  身長208㎝体重148kgの大巨人。日本マット界のビッグネームである。 『続きまして毘沙門館の次鋒!アルギルダス・モリカの入場です!!』  毘沙門館側の選手名がコールされる。  スタジアムの照明が消されると、幻想的ファンタジックでおどろおどろしい音楽が流れた。  スモークが焚かれ、僅かな照明が当てられると頭蓋骨を模した顔が浮かび上がる。  骸童子……里都亜尼亜リトアニアの魔拳士が登場したのである。

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