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 毘沙門館選抜メンバーの集合。  特別コーチには伝説的空手家、高橋夏樹の就任。  いよいよ準備は万全。後は団体戦を待つのみ。 「蓮也さん……いえ紫雲社長。暫くルミさんを貸して頂きますね」 「アホだが宜しく頼む」  蓮也と小夜子はガッチリと握手をする。  一時的な共闘である。 (世界のASUMA――そのオフイスに我が社のエアコンと空気清浄機を置いてもらうのは良い宣伝になるぞ)  蓮也は笑みを隠せないでいた。  ルミを毘沙門館のメンバーに引き抜く代わりに、シウソニックの機器をASUMAのオフィスに設置する契約を結んだからだ。 (は、蓮也さんと握手を……そして笑っている……)  小夜子は無表情であるが、心の中はウキウキである。  憧れの蓮也さんと握手だ。それに彼は笑っている。  私と組むことが嬉しくてたまらないのだと、都合よく解釈していた。 「二人で初めての共同作業だな」  ルミが静かにそう言うと小夜子の顔が赤くなった。 「ちょ、ちょっと!何変なこと言ってんのよ!!」 「恥ずかしがるな」 「恥ずかしがってなんかいない!」  ルミと小夜子を見ながら周りのメンバーは呆然としていた。  小夜子の素の顔が出ていたからだ。  クールなイメージとは違い女性としての一面を覗かしていた。 「えーっ……では皆さん宜しいですね。早速ですが明後日から10日間の強化合宿がスタートです」  山村は仕切り直すようにそう言った。なんと10日間の強化合宿を行うという。 「突然過ぎねぇか。礼華れいかになんて言えばいいんだよ」  伊藤が困った様子だ。ルミは聞きなれない名前を指摘する。 「れいか?誰だよ」 「俺の嫁だ」 「……結婚してたのか」 「それにタロウの散歩も……」  山村は待ってましたと言わんばかりの表情だ。 「奥様の許可はとっております。『気合入れて参加してこい』とのことです」 「マジかよ……」  一方の蒼は渋い顔をしている。  亜紅莉のことを気にしていたのだ。 「亜紅莉を一人にするワケには……」  謙信はそんな蒼を見て言った。 「それならオヤジに頼むよ」 「いいのかい?」 「その方が喜ぶ」  毘沙門館選抜メンバーで一人黙する男がいる。  アルギルダス・モリカ、アルーガだ。  ルミはアルーガのことが気になった。 「さっきから黙りこくっているけどアンタは?」 「問題ない」 (素っ気ないね)  全員の強化合宿への参加は決まった。  小夜子はクールな表情に戻り全員に伝える。 「強化合宿は我がASUMAが誇るトレーニングセンターで行います。それぞれ準備するように」  続けて蓮也はルミに言う。 「いいか。団体行動だから勝手な行動は慎めよ」 「アンタは学校の先生か」 ・ ・ ・  強化合宿が明後日に決まった。  岡本家は一家団欒で夕食をとっている。 「てな感じで決まったんだが」  謙信はアジのフライを食べながら言った。 「俺が葛城信玄と戦うらしい」 「そらお前が毘沙門館の館長だからな」  父、多聞は味噌汁をすすりながらそう言った。  母、のか子は多聞に醤油を渡す。 「ケン坊のところで負けるのは想像がつくわね。ハイあなた醤油」 「ありがとうよ」  多聞はアジのフライに醤油をかける。 「負けるって……俺もそれなりに」 「ちょいとあなた、醬油をかけ過ぎよ。血圧が高いんだから」 「そうか普通だけどな?」 「あ、あの、お二人さんとも聞いてますか?」  一方のいさみは黙ったままだ。  のか子は、久しぶりに帰って来た娘の異変に気付いた。 「いさみ、ご飯食べないと冷めちゃうわよ」 「う、うん……」 「家に帰ってくるというもんだから用意したのに」  いさみは謙信の顔を見ながら言った。 「絶対負けちゃダメだからね!」 「な、何だよ姉ちゃん急に」 「負けたら口きかないんだから!」 「は、はぁ……」  いさみは信玄の戦いぶりを目の当たりにした。  かなりの実力だ。弟もあれから多少は強くなったが勝てるかどうか……。  深く考えてはいけない。  弟のことを信じなければならない、いさみはそう思った。 「ところで亜紅莉ちゃんはまだ来ないのかい?」  かの子は夫に尋ねた。 「あの子か」  蒼に頼まれて10日間ほど面倒を見ることになった。  絵を教えているといっても、多聞が教えたのは基本的な事だけで自由に絵を描かせている。  その方が彼女の個性が活きると思ったからだ。 「ふーむ……」  父の毘沙門から最初紹介されたときは不思議な子だと思った。  理由があって言葉を発することが出来ないと聞いた。訳は聞かないでいる。  亜紅莉が描いた絵を見た時に驚愕した。  華奢で儚げな印象が強い亜紅莉とは正反対の絵を描いたのだ。 「今集中して絵を描いてるからな」 「どんな絵なの」 「『龍と女』といったところか」  亜紅莉は多聞のアトリエで一人絵を描いていた。  それは、龍と女の絵であった。  龍は女を睨み、女は龍を睨む。女の手には刀が握られている。 「……」  絵を凝視する。 「……」  筆に絵の具を乗せて描く。 「……」  その表情は何かと戦っているようだった。 ――ベキッ……!  筆圧が強すぎたのか筆が折れた。 「……!」  龍の絵が乱れた。  それは何かを暗示しているようであった。 ・ ・ ・  スターダストバックスで昴は男と会話していた。 「間宮と柚木は一本の線でつながる」 「鬼塚亜紅莉でか」 「そうだ」  男は週刊文旦の田宮記者である。  彼は星王会館の会員で黒帯でもある。  昴に依頼され蒼達の周辺を調査したのだ。 「その裏に益田京介と粕谷隼人……そして葛城暁だ」 「館長の息子さんがね」 「調べたら評判悪かったぞ」 「評判?」  田宮は周囲を見渡す。何やら秘密事のようだ。 「暴行など悪さを起こして大学中退だ。相当な悪童といったところか」 「今は何を?」  田宮は注文したケーキをフォークで一口サイズに切り口に運ぶ。 「アメリカへ留学してから消息不明だ」  調べによると暁は父の計らいでアメリカへ留学。  短大に通いながら、現地の格闘ジムに入門し腕を磨いたようだ。  地元紙で総合格闘技の大会で優勝する暁が紹介されている。  現在の消息は掴めていない。噂によると機闘士マシンバトラーになったと言われるが詳細は不明である。 「しかし昴よ……これ以上は深入りしない方がいいぞ」 「どういうことですか」 「益田と粕谷が逮捕されたのは知ってるよな?」 「ええ……」  スターハンターの関連で警察が調べるうちに、二人が違法キャバクラと売春の斡旋していたことが判明した。  その件で二人は正式に逮捕されたのだ。 「特に粕谷は星王会館うちのコーチで格好のゴシップネタだ。現にウチの編集長から事件を追うように言われている」  そう述べると、田宮は今週号の文旦を取り出した。  そこには、このように書かれてあった。 『星王会館の闇。格闘コーチが売春を斡旋?!』 「何れ芋づる式に館長の悪さもバレるかもな」 「悪さ?」 「脱税だ」  田宮はホットコーヒーを一口した。  昴は信玄が『詮索せずに黙っておけ』と言った意味を理解した。  あまり騒ぎすぎると、星王会館が潰れかねない事態になる。  昴は黙って椅子から立ち上がった。 「田宮さん。ありがとうございました」  そう述べ厚みのある封筒を渡した。  封筒を受け取った田宮は昴に言った。 「これ以上は勘弁してくれよ」 「わかってますよ」 「お前もあまり詮索するんじゃないぞ。組織を星屑にしたくなかったらな」  田宮は信玄と同じことを言った『詮索するな』と。  言葉の意味を理解しつつも、彼女の心根は納得をしていない。 「ご忠告ありがとうございます」  昴はニコリと微笑んだ。  それは心の内を読ませないための愛想笑いだ。  田宮はその不自然な笑みを見て戦慄を覚えた。 「大丈夫か」 「何がです?」 「目が笑ってないぞ」 「……」  昴は不自然な笑いを浮かべそのまま店を出た。  寒い夜道を歩く、彼女の瞳は黒く輝いている。 (間宮……いや鬼塚蒼。理由はどうあれ報いは受けてもらう)  昴はポケットに入れている両の手が固くなるのを感じた。 (翼さんの腕を折った……)  彼女は夏樹より武道家……否男性のように育てられた。  その教育はされるに等しいものだった。  それは彼女の人格を作るうえで歪みをもたらした。  角中翼という男性への異常なまでのである。 (必ずあいつを潰す!)

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