作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 静まり返る試合場。  なんと試合は無効試合ノーコンテストだという。  場内にはブーイング或いは罵声がぶつけられる。 「ふざけんな!無効ってどういうことだよ!!」 「説明しろーッ!!」  血の気の多い観客の何名かは、暴れだしそうな勢いである。  それに対し、実況の遠藤がなだめるかのような放送を流す。 『ご静粛に!ご静粛にお願いします!!』  一方、双方のセコンド席。  まず、ハンエーの中台は『無効』という意外な結果に半ば安堵、半ば驚いていた。 「な、何がどうなってるんだ?」  中台はチラリと横に座る角中を見る。 「フム……どういうことでしょうかね」  眼鏡をカチャリとかけ直した。何やら彼はわかっているらしい。  椅子から立ち上がると中台を見て言った。 「中台さん。次は昴が出るので、彼女のところに行って参ります」 「え、ええ……ちょ、ちょっと!?」  角中はそう述べると、そのまま部屋から出て行った。  中台は呆気にとられた顔になり、角中の背中を見るより他なかった。  さて、今度はASUMA・シウソニック側である。  蓮也、小夜子はお互いにきょとんと顔を見合わせていた。 「ど、どういうことですかね?」 「さァ……私にもわかりませんわ」  不穏な空気に包まれる中、審判のリリアンはざわめくスタジアムの観客達に説明する。 「ご説明します」  その一声に観客達は固唾呑むもの、怪訝な顔になるもの、様々であるがリリアンの声にしっかりと傾けている。 「この試合、シーム選手が故意による場外に出た為、一度は減点もしくは反則負けの宣言をしようとしました」  試合は途中、シームが場外に故意に出たのだ。  この場合、試合規定において審判は減点もしくは反則負けのどちらかを宣言しなければならない。  だが……。 「先程、私のモニターでスローVTRを確認したところ、壁の激突寸前に藤宮選手が投げによる攻撃を加えたことを確認しました。こちらも場外での攻撃とみなします。従いまして、両者共に反則行為を実施。更にはシーム選手が試合続行不可能と見なし、この試合を無効試合ノーコンテストということにさせて頂きました」  リリアンの説明を大まかに説明すると、両者反則行為による痛み分けのようである。  また、シーム選手が試合続行不可能となったので、この中堅戦は無効試合ノーコンテストという判定を下したようだ。  一部観客達からはそれでもブーイングは鳴り止まないが、ルミの方は仕方がないという顔だ。 「まっ……しゃーないわな」  その言葉と共に体力を取り戻し、ルミの立ち上がるモーションに合わせて旋風猛竜サイクラプターが立ち上がったことだ。 「待つべ!!」  野太い声だった。 「この試合はオラの負けだべ」  声の主はシーム・シュミットだ。半壊するキングゴラスが立ち上がったのだ。 「お、お前……」  ルミは彼のタフネスぶりに驚いていた。  あれだけのダメージを受けたのならば、倒れてもおかしくないのだ。  巨人は息を大きく吸うと、こう述べた。 「試合場に最後まで立っていたものだけが勝利者だべッ!!」  巨人が咆哮する。  その声は試合場に響き渡り、観客達の体を揺らした。 「勝者はルミ・フジミヤ!!」  最後にそう述べると、キングゴラスの巨体は地にドシャリと臥せた。  ようやく試合……否、死闘が終わった合図である。  審判のリリアンは動揺する中、通信機から声が入った。 「リリアン……無効試合ノーコンテストの結果を取り消せ」 「えっ……バオさん?!」  声の主はMr.バオ。  次鋒戦の事故で倒れたが、何とか体を張って通信機に手を取っているようだった。 「安静にしなければ……」 「何を申しておるか!こんな死闘を見届けてジッとなどしてられるかッ!!それよりも、この無効試合ノーコンテストの結果を取り消すのだ!!」  リリアンは動揺していた。  バオの負傷退場で代理を務めているとはいえ、今の審判は自分である。  試合規定を反して判定など下すことは出来ない。 「審判は私です!これはORGOGLIO公式ルールに乗っ取り……」 「そんな杓子定規の判定でどうする!これはORGOGLIO審判長である私、Mr.バオの命令である!!」 「しかし……」 「一人の格闘士ファイターが自らの負けを認めたのだ!それで十分!!何かあれば私が……」  その言葉と共に通信の声が切れ、バタバタと足音が聞こえて来る。 「試合の中継を見て興奮したかと思うとこんなところに……」 「バオさん!まだ動いちゃダメって言ったでしょう!!」  リリアンは暫く思い悩むも、深呼吸するとこう述べた。 「先程、緊急の通信が入りました。審判長よりこの試合、無効試合ノーコンテストを取り消しまして、勝者は藤宮ルミ選手の勝利と致します」  二転三転する審判の判定。  判定結果に納得いかないのは星王会館側だ。  中台は審判機に通信をつなげ抗議する。 「お、おい!ふざけるんじゃない!!試合は無効試合ノーコンテストだろォ?!」  それと同時に星王会館応援団からは野太いブーイングや抗議の声が聞こえて来た。 「判定を覆すんじゃない!」 「ルール通りにしろ!へっぽこ審判!!」  またもや混沌カオスとなるスタジアム。  毘沙門館と星王会館、互いの面子をかけた試合なのだ。  抗議、怒声、批判は最もであった。 『そこまでッ!!』  枯れているものの深みのある声が響く。  オーロラビジョンに老人の顔が映る。  映像に映し出された部屋は豪勢なVIP席である。 『観客の皆様。この団体戦を主催した飛鳥馬不二男です』  場内は静まり返った。老人の名は飛鳥馬不二男。  知る人ぞ知るASUMAグループ名誉会長でもあり、WOA理事でもある。  その発言権はASUMAグループだけでなくWOA組織内部でも大きいと言われる。 『この試合……規定上は無効試合ノーコンテストですが、この試合の勝者を藤宮ルミとしたい』  不二男はそう述べるも場内はざわめく。  いくら飛鳥馬不二男の言葉だろうが納得がいかないのは星王会館側だ。  傍から見たらASUMAがスポンサーを務める毘沙門館の贔屓ひいき判定にしか見えない。 「ASUMAの横暴だ!」 「そんなインチキが許されるか!!」 「ルールを守れ!ルールを!!」  ブーイングと野次が鳴りやまない。  血の気のある星王会館側の応援団は、今にも試合場に乱入しそうな勢いであった。  その時である。  「やめとけ!情けねぇぞ!!」  ケガ明けであろうか首に頸椎カラー、左腕をアームホルダーという出で立ちの男が止める。  男の名は砂武天翔。星王会館重量級のエースである。 「シームの言葉を思い出せ『試合場に最後まで立っていたものだけが勝利者』だ!」 「す、砂武さん……でもルールは……」 「ルールがなんだ!試合規定がなんだ!」  本来であれば、団体戦の選抜メンバーに選ばれてもおかしくない実力者だがルミに敗北し負傷。  今回は応援団員と言う形で星王会館側に参加している。 「俺達はスポーツマンじゃない格闘者だ!武道家だ!!ルールに乗っとればいいってモンじゃあねえだろ!?」  砂武、魂の叫びを応援団……否、星王会館の同門達にぶつけた。  その言葉により、星王会館の空手家達は振り上げた拳をそっと降ろす。  不二男はその光景を見て静かに感謝の弁を述べる。 『すまねェな……我儘わがまま言っちまって。ただこれだけは言っておきたい。コレは贔屓ひいきじゃない、そこに倒れるシームの武道家としての心意気を汲んでの判定だ』  救護班にストレッチャーで運ばれるシームを見ながら不二男はそう述べた。  試合場のルミは、運ばれるシームや観客席にいる砂武を見て静かに頭を垂れていた。  それは敬意、あるいは感謝。  本来であれば無効となる結果であるが、敵から勝ちを譲ってもらう形となった。  勝負への心遣い、潔さにルミはただ頭を下げていたのだ。  その姿を見て、審判のリリアンは一息吐く。そして、改めて試合結果を宣言した。 「WINNER!藤宮ルミ!!」 ○ BB級(ダブルバトル)団体戦:毘沙門館VS星王会館・中堅戦 “強襲の巨人” シーム・シュミット スタイル:星王会館空手 パワー型BU-ROAD:キングゴラス スポンサー企業:ハンエー VS “美しすぎる古武道娘” 藤宮ルミ スタイル:古武道藤宮流 スピード型BU-ROAD:旋風猛竜サイクラプター スポンサー企業:シウソニック 勝者:『藤宮ルミ』 「何とか体裁を保たれたな」  不二男は額の汗を拭う。試合判定を覆したのだ。  砂武がいなければ、大バッシングされかねないものだ。  だが、シームの武道家としての矜持が不二男達の心を揺らしたのだ。  彼の想いを蔑ろにしたくはなかった。それが大会主催者としての選手に対する敬意、心遣いである。 「さてと……次は蒼だな」 「……」  チラリと隣に座る亜紅莉の顔を見た。  彼女は試合場を凝視するのみである。  その力強い眼は、結果がどう転ぼうとも受け入れる覚悟があった。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません