Wheel Of Fortune
3章 焔編 1 プロローグ―追憶(前編)

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 焔には、大まかに言ってふたつの側面がある。  ひとつは優しき導の焔。生きとし生けるものを温め、照らし、導く光の側面。  ひとつは破壊の焔。総てを焼き尽くし、灰燼に帰す闇の側面。  故に。  炎の竜は双子で生まれた。  竜と言っても、いわゆるドラゴンや東洋の龍の形をしているわけではない。  ユアリーという古代世界において、「竜」とは、「界軸四祖」と共に界軸石を守る者たちの尊称だった。 「竜」は穏やかに、世界を護り続けてゆけるはずだった。  しかし。  下された「終末予言」はエリス王国とエリノス帝国の戦争を呼び、「界軸四祖」はエリス宮廷騎士団となり「竜」の力もまた利用されようとしていた。 「界軸四竜」は強大な力の悪用を恐れ、エルクローゼンという「理竜」の双子の片割れに葬竜剣アスカロンを渡し、全ての「界軸四竜」を葬らせた。エルクローゼンはのちに大罪人とされて、悠久の檻に囚われたと聞く――  だが、すべての「竜」が滅びたわけではない。  炎の竜の闇の片割れ、すべてから迫害され、戦争の道具にされて狂い、のちに「闇の真竜」と呼ばれた竜は、ユアリーの黒の海の近くの小島に身を潜めていた。 (五月蠅い……)  耳を塞いでも聞こえてくるのは、蘇るのは、自分が殺した者たちの怨嗟の声。  体は傷だらけで、彼が歩いた後には血の道が出来ていた。 (ああ、俺も、葬ってもらいたかった。殺したくなどなかった)  闇の焔を、破壊の力を司りながらも、彼の心は皮肉にも冷酷にはできていなかった。 「……闇の焔なんて世界の害だろ。俺が死ねばよかった……よかったんだよ……」  疲れ果てて倒れ込む。体の傷はほんの少しだが塞がり始めていた。 「竜」は尊称であると同時に、もうひとつ意味がある。  それは、「竜」は「葬竜剣アスカロン」と呼ばれる剣やそれに準ずる特別な剣でしか傷つかないし死ねない。  厳密にいうなら「竜」は体が滅ぶ瞬間に、半身ハルプ と呼ばれる存在を生み出すので、死ぬことはないのだが。 「傷が癒えたら、アスカロンを探し出さなければ……戦争は終わった。破壊の化身のような俺は、存在していてはいけない」  彼はそう呟いて、目を閉じる。  次に目を開いた時、運命を変える出会いが待つとも知らずに。

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