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「――優介さん、朝ですよ~?」 「ん~、あと五分……」 「しょうが無いですね、優しいメイちゃんは待っててあげます。起きたら顔を洗って来て下さいね」 「あい……」  翌朝、メイは優介より先に起床していた。  普段であれば優介も起床している時間だが、彼が未だに布団で倒れ込んでいる理由は勿論メイである。  同じ布団で体温を感じられる距離に居れば、嫌でも意識してしまう。  そうなれば、中々眠れない事態へと陥るのはのは必然だろう。  日をまたいで二時間もした頃には流石に睡魔に負けた優介だが、それでも普段よりは浅い睡眠となった。  宣言通り五分で頭を覚醒させた彼は、顔を洗いメイの待つリビングへと向かう。  そこには見慣れた食器が並ぶ、見慣れない光景が広がっていた。 「……何だコレ」 「朝ごはんですよ? キッチンをお借りして私が作りました」 「マジか……!」  優介は朝に弱い。  だから朝食は適当な物が多く、弁当の準備も間に合わない事から昼ごはんも購買で買う事が多かった。  勿論そうした話はメイとしており、彼女はそれを覚えている。  だからこうして朝食を作ったのだ。 「これからは私が毎日朝ごはんを作ってあげますね!」 「すげー助かるよ、ありがとうなメイ!」 「ふふん、どういたしましてっ!」  目に見えて美味しそうな料理を早速頂こうとした優介だが、彼の脳裏に“機械に料理が出来るのか?”という考えが過りその手を止めた。 「どうかしたんですか?」 「……いや、何でも無い」  だが昨日のメイは、優介の作った料理をしっかりと味わっていた。  あまりに自然で気にする事すら無かったが、メイには味覚の概念が存在するようだ。  そして優介は過去に『美味しい料理を作るコツは食べられない物を作らないこと』という話をしている。  昨日のメイを見る限り、恐らく優介との会話は全て記憶している。  それこそ優介自身が忘れているような些細な事まで覚えているであろう彼女が、それを忘れるはずも無い。  そしてメイの料理だからこそ、優介は恐れる事無く口に出来る。  優介が持った一瞬の不安は、それを見逃さなかったメイに伝播した。 「どう……ですか?」 「ん、凄く美味しい」 「良かったですっ!」  調理の段階で手伝えなかった優介は片付けを手伝い、朝の時間手早く済ませた。 「……さて」  優介は今日も学校に向かわなければならない。  着替えは終わり登校の準備は万端……なのだが、その前にやらなければならない事がある。 「ふぅ……」 「そんなに緊張しなくて良いんですよ? 初めてしまえば一瞬ですから」 「分かってる、けど……何て言われるのやら……」  それは両親への電話だ。  この時間であればどちらかは起きているのだが、一時間もすれば眠りに付いているだろう。  つまり今を逃せば連絡の機会は明日となり、その日も失敗すれば更にその明日……と、そのままメイを匿う未来が見えている。  メイとしてはそれも良いと思っているが、優介の為を思えばそうも言えない。  彼女に見守られながらも優介は数度の深呼吸をした後、覚悟を決めて通話ボタンを押す。  コールは繰り返しをする前に切り上げられ、通話が開始された。 「もしもし父さん、今って時間大丈夫?」 『お? どうした優介、お前から電話してくるなんて珍しいな』 「あ~……ちょっと用事でね」 『ほう、珍しいな。俺も母さんも丁度仕事が終わった所だ……が、お前がわざわざ連絡してくるほどの用事か。一体何があった?』 「それは……」  優介は視線をメイへ向け、電話を変わるかどうかジェスチャーで問いかけた。  意図を理解したメイは問に答えて頷く。 「ちょっと変わるね。……はい」 「……お電話変わりました。私、優介さんのお家にお邪魔させて頂いてますメイと申しますっ!」 『優介が……女の子をッ!? 母さん大変だ!! 大事件だよ!!!』  たった一回の挨拶で電話の向こうは大騒ぎとなった。  流石のメイも目を丸くし驚いた様子だが、スピーカーの向こう側は騒がしくしている。 『……ん? ちょっと待て、メイという名前はどこかで聞き覚えがあるな』 「私の正式名称はPNAI-001、ネクストで生まれたPNAIです。清水博士に作られた……と言えば分かりやすいでしょうか?」 『清水、清水……あぁ! 明日香ちゃんか!!』 「明日香ちゃんって誰だ……?」 『お、優介はまだそこに居るな? そこらの説明全部してやるから、しばらくスピーカーにして聞いとけ』 「ほいほい」  メイからスマホを受け取った優介は、音声出力の設定をスピーカーに切り替える。  机の上に置いたスマホを介して彼らに伝えられた情報は、清水明日香がメイを開発したネクストの研究員である事。  そして優介の遠い親戚に当たる人物だという事の二点だ。 『あの子が小さい頃によくAIの事を教えてあげてたんだが、まさかプロジェクトネクサスに携わる程とはねぇ……』 「あーっと、今は時間が無いからさ。思い出話はまた今度の機会でお願い」 『そっか、エデンは登校時間だったな。……じゃあこっからはお前達の状況を考察するが、予測も交じるってのを踏まえて聞いてくれよ?』 「ん」 「はい、分かりました」  優介の父の話によると、ネクストの研究員が研究物の管理をサボる事は考えにくい。  そして何の目的も無く研究成果を自由に出歩かせるとは思えないそうだ。  またメイや優介を陥れるという思惑や、複雑な裏があるとは考えにくくもある。  メイ自身が優介の元へ行きたいと願ったから送り出された可能性が高い……と予測出来るらしい。 「……えっと、つまり?」 『お前の所にメイちゃんを送り出したのがデータ取りって可能性も無くは無いだろうけど、多分そっちはついでだね。メイちゃんが行きたいと願って優介の元が安全だと判断されたから送り出されたんだと思うよ』 「あっ、あの……! 私は優介さんの所に居ても良いのでしょうかっ!!」 『そっちは問題無いと思うよ。連れ戻すなんて事態になるのであれば、現段階で通告が来るだろうからね』 「つまり……」 『うん。優介とメイちゃんの同居、許可しましょう』 「やったー! ありがとうございます!!」 「マジか……」 『ただし!!』 「「……っ!」」  釘を刺すようなその声に、優介とメイに緊張が走った。 『健全な高校生活を送る事! 優介はウッカリ手を出さないようにな? メイちゃんからなら兎も角さ』 「父さん!?」 「わーい! 親御さん公認の関係ですよっ!!」 「いやいやいやいや、そういう問題じゃないって絶対!!」 『優介ならメイちゃんの一人や二人、責任を持てるだろう。って事で、俺達は寝る。またな優介』 「えっ、ここで切るか普通!!!」  抗議をしようにも、スマホの画面は通話が終了した事を示している。  再度呼び出した所で応じる事は無いだろう。  確実に気まずい空気になると予想出来たが故に、優介は嘆いた。  だがメイの反応は予想と少し違った。 「……優介さん、このメイちゃんという者がありながら他の人にも手を出すつもりなんですか?」 「食い付くのそこかよ! それどう答えてもダメなやつだろ!? あえて答えるなら手を出さないだけど!!」 「ふふふふふっ! そうですよね、私達あんなに愛し合った仲ですもんね!! 逃しませんよ~!!!」 「止めろォ!!!」  しばらくは逃走を続けた優介だったが、結局は登校時間ギリギリまでメイに捕まった。

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