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 波乱の朝一番を乗り越えた優介は机に倒れ込んでいた。 「はぁ~……」 「優介、お前何かあったのか?」 「あったよ。あり過ぎてちょっとオーバーヒートしてるだけだから、心配すんな……」  優介の身に起きた出来事、それはメイに抱きつかれるという事である。  最も、抵抗していないということは彼も満更では無いということなのだろうが。 「まぁ何があったかは知らんが、とにかくお疲れ。愚痴とか相談ならいつでも聞いてやるぜ」 「ありがとう。……けど、こればっかりは自分で何とかしなきゃだからな。お前こそサッカー頑張れよ」 「……おう」  もっともそれは全ての授業で適用されている訳では無く、体育等の運動可能な肉体を必要とする授業は例外だ。  太一からの励ましを受け取った優介は、午前中の授業を何とか乗り切った。  途中では上の空になる場面も何度か存在したが、体調自体は極めて良好。  つまり今の優介は、メイの事を考えすぎて授業に集中出来ていないだけなのである。  それでも優介は思考を程々に切り上げ、太一と共に食堂へ向かった。  いつも通りに食券を買おうとしていた彼だが、今日がいつもと違う事を徐々に思い出す。 「あ、忘れてた……」 「ん? どうしたよ」 「先に座っててくれ、すぐ戻る!」 「おいおい、戻ってくる頃には売り切れちまうぜ?」 「大丈夫だ!!」  そう宣言し食堂から飛び出した優介は、太一が注文したラーメンを受け取った頃に戻ってきた。  彼の手の内には一つの弁当箱がある。 「優介が弁当作るって珍しいな。いっつも不健康そうな食事してるのによ」 「不健康そうな食事……あ~、そういう事か!」  それはメイが優介の健康を思い、作った物である。  当の優介には何故突然そんな事をしたのか理解出来ていなかったのだが、太一の言葉でようやく思い出した。  優介は以前、メイに“健康を意識した学食を選ばない”という話をしていた。  それはそのまま変わらず、今でも不健康な食事をしているだろう……という考えが読まれているのだろう。 「だぁーッ! 考えてても埒が明かねぇ!! いただきますッ!!!」 「おぉ~? 今日のお前はいつもに増しておかしいな」 「うっせぇ!」  彼は今まで一度も使用してこなかった箸を手に、弁当箱に詰められた料理を口に運ぶ。  献立や味付けは健康を意識しながらも、全て優介に合わせられている。 「……マジか」  それらは冷めてしまった現在でも十分に優介を満足させる。  やや驚く太一を余所に弁当の中身を黙々と食べ続ける彼の頭には、親の許しも出ているし、メイを受け入れた方が良いのかも……という葛藤が巡っていた。  つまりは餌付けされたのである。 「ただいま」 「あ、おかえりなさいっ!」  優介は前日と同じく、寄り道をせず素直に帰宅した。  最も、その寄り道する時は太一に誘われての場合が多い。  そして太一は少し前から部活に集中しているらしく、寄り道の機会も少ないのだが。 「弁当凄く美味しかったよ、ありがとう」 「お口に合ったようで何よりですっ!」  優介は一度自室に入って着替え、ついでに取り出した弁当を台所で洗う。  汚れになる油の少ない献立だった為、弁当箱はすぐに綺麗な状態へ姿を戻した。 「あ、言ってくれれば私がやったのに~……」 「自分の弁当箱位自分で洗わせてよ。メイには色々として貰ってるみたいだしさ?」 「むぅ……しょうがない優介さんですね」  優介が家に居ない間は掃除をしていたらしく、部屋は普段手が届かない所までピカピカになっていた。  見られて困る物は全て金庫とパソコンの隠しフォルダの中にあり、そこまでは流石に触っていないだろう。  まさか実際に会うことも無いだろうとパスワードを教えた気がしなくも無い……が、そこは空気を読んでくれるだろうと信頼している。  弁当箱の水気を拭き取り棚に戻した優介は、姿勢を正してソファーに佇むメイに声をかけた。 「メイ、この後の予定って何かあるか?」 「別に無いですよ」 「よし、じゃあ今から買い物に行こう」

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