非実在性彼女が実在する可能性
第10話 馴染む変化、新たな日常

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 携帯端末、それは現代社会において欠かせない道具の一つである。 「え、愛生ちゃんスマホ持ってないの!?」 「うん……ごめんね?」 「あ~良いよ良いよ、コッチこそ悪いな」  男子生徒の多くははメイと接点を持つ為、メッセージアプリの連絡先を聞き出そうとしていた。  だがメイとの連絡手段は現状、NSしか存在しない。 「面倒な輩を退けるのには便利だが、本当に必要な時に困るかもな……」 「どうかしたんですか?」 「っし、決めた。スマホ買おう」  優介は通販サイトを開くと、とあるメーカーのフラッグシップモデルを購入した。  実際の2010年代では保険証等の本人証明書が必要だが、その時代を再現したエデンではID提示だけで全てが完了する。  帰宅する頃には配達が完了しており、夜にはセットアップが完了していた。 「むぅぅぅぅぅぅぅ……」 「おぉ、悩んでらっしゃる」  最新も最新の技術で作られたメイからすれば、この時代のスマホはローテクも良い所なのだろう。  スマホの処理速度と自身の処理速度が噛み合わず悪戦苦闘していた。  優介には手を貸す選択肢もあったが、彼はしばらくその様子を眺める事にした。 「むむむむむぅ……優介さぁーん!!」 「はいはい、何のご用で?」 ――――――――――――――――――――  愛生が転校してきてから早くも数日。  長く続いた雨は回復し、体育の授業でサッカーをする事になった。 『優介さん、どうしましょう……』 「ん?」  優介のスマホに、NS経由で愛生からのメッセージが届いた。  普段は普通に会話をしている為、滅多に使用しないというのに。  その理由は今の愛生が数人の女子生徒に囲まれているからだろう。  そんな状況でも平行してメッセージが送信出来るのは流石AIといった所か。 『どうした? サッカーのルールが分からないなら教えるが……』 『いえ、ルールは完璧に記憶しているんです』 『なら体操服を忘れた……とか?』 『それも違います。実は私――』  一同は担任の高橋先生に引き連れられ、グラウンドへと向かう。  そこでは生徒達は準備運動、高橋先生は道具の準備と雑談の余裕があった。 「――ハァ? 身体の動かし方が分からない!?」  幸か不幸か、メイが転校してきてからは雨が続いた為に一度も体育の授業が入っていなかった。  しかも今回優介とメイは別々のチームになってしまい、優介がメイを助ける事は出来ない。  そこで優介はサッカー部のエースであり、偶然メイと同じチームになった頼れる友人……森川太一を頼る事にした。 「今のメイはネクストが想定し計画した状況と大きく違う。恐らくだが、セントラルタワーでの受付業務を行った後に生活に不必要なレベルの運動を修練……もしくはそもそもそれ以上に動かないという想定だったのだろう」 「なるほど、よく分からん」  勿論、日常の動作であれば問題は無い。  走る場合でも問題は無いようだが、運動レベルではどうしても失敗するそうだ。  その理由は非常に優秀で高出力なNN素体にある。  メイはそのスペックを操る術を持たず、振り回されているのだ。 「しゃーない。ここはサッカー部のエース様が直々にサポートしてやろう!」 「頼む」  太一に愛生を託した優介は自チームの元へと戻った。  それとほぼ同時に高橋先生の準備が終了し、授業が始まる。 「よーし、準備は出来たな! 互いに……礼ッ!!」 「「「よろしくお願いします!!!」」」  今日の授業ではグラウンドを使用し、一クラスがAチームとBチームの二チームに分かれて戦う。  が、まずは作戦タイムだ。 「Aチームにはサッカー部の森川が居るし、アイツを警戒した方が良いんじゃないか?」 「だな。でも清水さんがどの程度動けるのかも分からないし、そっちも警戒しておいた方が良いだろう」 「ってなると……須藤にはいつも通り、中衛で指揮をして貰っても良いか?」 「問題ない。皆はそれで良いか?」 「おう」 「森川君と張り合えるのは須藤君だけだからね!!」  優介は運動が得意では無いが、頭を回して他人を活かす戦法を得意としている。  頭の早さは自他共に認める物であり、本人もある程度の自信を持っている程だ。  対立すれば競い合い、共闘すればチームの勝利を確約する二大エースとまで言われていた。  だが今回の太一は優介の予想を超えている。 「清水さん、一体あの身体のどこにこんな力を隠していたの……!」 「でも小技は使えないみたいだな! 囲んで抑えるぞ!!」 「ハッハッハッハッー! 悪いがこのルートは通さないぜぇ!!」 「クッソ! 森川の野郎に邪魔される!!」  愛生は案の定、体の動かし方が分からなくて大暴走した。  した……のだが、太一の作戦によりそれは良い方向へ向かっている。 「また清水さんのゴールか!」 「森川の癖にサポート出来るとか生意気だぞ!!」 「エースプレイヤーが他人をサポートして何が悪いと言うのだね? ん~??」 「あの顔ムカつくなぁ! 須藤、何とかして森川をぶっ潰すぞ!!」 「勿論」  森川は愛生の欠点よりも、単純な力の強さを活かす戦術で優介達と戦っている。  それは彼が優介と対峙した場合の多くで、自分がされている立ち回りだ。 「それでも……根本的な部分はいつもと変わってない!」 「なっ!?」 「流石ですね、ゆう……須藤さんっ!」 「須藤ナイス!!」  それでも、味方が太一を強調する過程に変化は無い。  この試合が特殊に見える理由、それは太一の先でメイが点取り屋になる事。  その一点だけである。  惜しくも数度のゴールを先に取られたBチームだったが、共通点に気が付いた優介は素早く対処を始めた。  クラスメートから太一へ、太一から愛生へ繋ぐパスを妨害する。  たったそれだけの事で相手の得点を抑え、自チームの得点へ繋げる事が出来た。  そうしてBチームが前半の失点を取り戻し、得点がギリギリ超えた所でチャイムが鳴り響く。 「今日の試合はここまでだ! 怪我をしたり身体に違和感を感じた生徒は保健室へ、他は着替えて教室へ戻るように。以上、互いに……礼ッ!!」 「「「ありがとうございました!!」」」  高橋先生の号令により体育は終了した。  ほとんどの生徒は体操服から制服に着替え、少し長めの休憩時間を満喫している。  だが普段はほとんど運動をしない優介は机に突っ伏し、隣には未だ体力の余裕を見せる太一が立っていた。 「あ゛ぁ~疲れだ……けど太一ありがとう、おかげで助かった」 「おう。けど清水さんを頼むって言うのなら、勝ちを譲ってくれても良かったんじゃないか?」 「それも考えなくは無かったんだけど、それは面白くないでしょ?」 「まぁな。全力のお前……と清水さんを見れたのが一番の報酬だ」  そう言いながら太一は笑った。 「けど……今回は本当に助かった。今度何か奢るよ」 「おう。コレくらいならいつでも力を貸してやるが……力のある5才児って感じだな、ありゃ。体育祭大丈夫なのか?」 「あぁ~……」  彼のおかげで愛生の運動下手は露見……しなかった訳ではないが、多少マシな形になっている。  それでも、この先には大きな壁が立ちはだかるだろう。  優介は数人の女子生徒に囲まれる愛生を横目に、将来を案じた。

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