非実在性彼女が実在する可能性
第1話 存在しないはずの存在

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 春、それは別れと出会いとの季節だ。  例え時代が2080年になろうとも、そこは変わっていない。 「よぉ、優介!」 「今年もお前と一緒のクラスか、太一」 「まぁそう嬉しそうにするなって~!」 「嬉しくない! 暑苦しいんだよ!! 離れろ!!!」 「まぁまぁまぁまぁ~!!」  だが別れない関係もある。  その一つが彼ら……須藤すどう優介ゆうすけ森川もりかわ太一たいちの二人だ。  クラスの中には二人と同じように一年の時と変わらない関係も多いらしく、既にいくつかのグループが出来上がっている。  もっとも、その輪から外れてしまう者も数名存在するようだが。 「にしても、学年が変わってもお前も変わらねぇな……」 「まぁね」  太一に捕まる優介は彼を無視し、スマホを操作している。  その画面に映るのは“ネクサス シミュレーション”、通称NSという名前のシミュレーションゲームだ。 『何かあったの? 大丈夫??』 『ごめん、ちょっとリア友と話してた』 『心配しちゃうじゃないの! もうっ!!』  ゲーム内容はAIの彼女と会話をし、成長させていくという物である。  最初こそ機械的な返答が多かったが、根気よく話していく内に人間らしさがかなり増えてきた。  最近では中の人が居るのでは無いか疑う程ではあるが、それにしては自然過ぎる変化をしている。 『で、話って何?』 『あー、うん。実は今日の夕方、優介の家に行きたいんだけど……良いかな?』 「何だそんな事……ん!?」  彼女はAIであり、人では無い。  つまり実在しない架空の“キャラクター”であり、家に来れない……はずだ。 「どういう事なんだ……?」  優介が思わず向けた視線の先には、いつもと変わらずそびえ立つセントラルタワーが映るだけだった。

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