イマジナル・ファシリティー
瀬戸内海で、ある女性が店に閉じ込められていたという

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彼は私のことを陸人と言っていたようだったが、私は彼に名前すら告げていなかったはずである。 しかも私が最後に見た風景、それが何と、あの瀬戸内海だったのだ。 一体私はどこであの青年と会ったのだろうか?それが不思議だった。 しかしそれよりも私は自分が生きていることに安堵した。 あの男は私に何を伝えようとしていたのだろう?だが今はそれを考えていてもしょうがないことである。 とにかく命があってよかったと思った。 時計を見ると午後五時頃であった。 今日は、夕方までアルバイトをして、その後家に帰り食事や風呂を済ませてから小説を書いていたところだった。 私の部屋の本棚にある『白身魚』とタイトルが書かれた本が妙に目についた。 私はそれを手に取り、中を開いてみた。 それはどうみてもこの世界に存在するはずのないものだった。 表紙に魚の絵があり、中に魚の図鑑と思しき絵が書かれているだけだった。 そのはずなのに、その本を見ていると何故か懐かしさがこみ上げてきた。 その瞬間に頭の中に記憶が甦ってきた。 それは夢の中での出来事だった。 しかし私はその時確かにその記憶を垣間見たのである。 私は夢の中でこの本を見て何かを想っていた。 何か重要なことだとは思ったが結局私は何も思い出せはしなかった。 しかし夢というのは妙なものだ。 特に私の見る夢はかなり変なものが多い。 だから気にしないことにした。 その日はそれで終りにした。 明日もまたいつもと同じ日常が待っているはずであった。 だが次の日の早朝のこと、私が目覚めて、カーテンを開けると外には信じられないものが広がっていた。 まるであの時と同じだった。 「海が……空が!」窓の外に広々とした青が広がっている。 水平線が朝日を受けてきらめいている。 私はそのあまりのまぶしさに耐えきれず顔を伏せた。 だが再び視線を上げて窓の外を見る。 そこにあるのはかつて見慣れた光景だった。 その景色はあまりにも以前のままで私の胸を打った。 その美しさに見とれてしまった私はしばらくの間立ち尽くしていたのかも知れない。 気がつくと空は明るくなってきていたが私はいつまでも外の光景を見つめていたようだった……. ------「……さん…….」と呼ぶ声に気づいた私は声の方向を見やった。 そこには女性が立っていた。 彼女の名前は「ミチル」である。 年齢は二十六歳で身長は百五十センチほどしかない小柄の人だった。 彼女はその背の低さにコンプレックスを抱いているらしくそれを気にしている様子でもあった。 だが、彼女を知る人々は彼女を"チビッ子さん"と呼んでいた。 その呼び方は彼女にもぴったりと合っていたのかもしれない。 しかし私にとってその呼び名はあまりしっくりと来るものではなかったが。 彼女は私が働いている「スーパーマーケット」で働いていた。 私が働いていた職場にはよく出入りしていたが、他の同僚に比べると彼女との付き合いは比較的深かったと思う。 彼女が仕事場に来るのは週に四回程度であったが、その時によく話しかけてくれたから私としては親しく付き合うようになったのだ。 彼女はその性格もあって、職場の同僚たちから可愛がられていた。 よく一緒に遊んでいた同僚の男性もいた。 だが私はその人とそれほど親密な間柄ではなかった。 どちらかというと私と話すよりも女性の友人同士で話をしているのをよく見かけたものである。 ある日、私はいつも通り仕事場で働いていふとその日、彼女は少し様子がおかしいことに気づいた。 彼女は普段仕事をする時は、いつも元気に動き回っているのだがその日の彼女の動作はどう見ても鈍重だった。 私はそのことにすぐに気がついて声をかけた。 「大丈夫ですか?」と私が言うと、その声を聞いた彼女はハッとしたような表情になり、「うん」と答えた後でこう言った。 「昨日の夜遅くに急に具合が悪くなったのよ。 だから休んだら楽になったんだけど……」 その口調はどうも歯切れの悪い感じだった。 顔色はまだ悪いように見え、どこかぐったりとしていた。 私はそれ以上は何も訊かなかったが、心配そうな気持ちになって彼女をしばらく見ていた。 だがその状態は午前中だけで昼になると回復していった。 だがその夜、夜九時ごろの事である。 私の勤務時間は大体七時から十二時までであるがそのあと片付けと翌日の仕込みなどのために六時半ごろに家に戻ることになる。 その前に私はその日売るための食品の準備をしていた。 するとそこへ、誰かの呼ぶ声に私は振り返った。 「ちょっと!」その声は私に呼びかけたようだがその姿は見えない。 私は、周りを見渡したがその時にはその人の姿は消え去ってしまった。 その時は別に気にもしないまま仕事を続けることにした。 それから三十分ほど経った時のことだった。 私のいるスーパーの裏手に駐車場があり、その端のところにトラックが何台か駐車してあった。 そのそばに人が立っているのが見える。 だがどうも私の方を向いていないようである。 その人物に近づきその姿を見て驚いた。 なんと先ほどの彼女がそこに佇んでいるのである。 どうしたのだろう? しかし、さっきとは明らかに様子が違う。 私は思わず声を上げた。 「どうかしましたか?」と聞くと彼女はその質問に対して意外な反応を示した。 突然彼女は私の顔を見ると「あっ」と言ってその場にへたり込んだのである。 私が驚いて駆けつけると、どうも腰を抜かしてしまったようで立てなくなっていた。 一体何があったのか。 どうすればいいのか、どうすることもできないで私は途方に暮れたがとにかく私は彼女を立たせようとした。 「しっかりしてください!」 「助けて! 痛いわ!」 その声を聞くとただ事ではないと感じた私は彼女の体をそっと抱きしめた。 その体は熱を帯びていて震えているようだった。 私は、何とかその場に立ち上がらせることに成功したがその時には彼女は気を失って倒れ込んでしまった。 私は急いで店内に戻ると、店の責任者を呼んだ。 責任者はすぐに来てくれて状況の説明を受けた。 どうやら、その女性は朝早くに体調が悪化したため休みを取り自宅で安静にして居たのだという。 しかし夜になって急に体がおかしくなり起き上がることができなくなったというのである。 救急車を呼ぶべきではないかとの提案に私は同意しなかった。 なぜならこの店の近くには消防署がないからである。 だからこの店の人間の中で救急病院まで運ばなくてはならなかった。 だが問題は誰を送るかということである。 この店の従業員は五名しかいない。 だからその中で一番近い所にいるのは私のところということになる。 しかし私は車を持っていない。 だから運ぶためには車の運転が出来る人を探さなくてはならない。 私はまず店の責任者に相談した。 彼はその相談を受けると、私は車を運転できるからあなたの代わりに彼女を運びたいといったが、それを断ることにした。 私は店の関係者でありこの店の秘密を守らなければならない。 それに私のことをよく知らない人間が運転することは危険なことであると説得をした。 だが、事態はそれだけでは済まなかった。 どうしたことか店の外ではパトカーが停まっているではないか!しかもサイレンは鳴っていないので近づいて来た気配は全くない。 それなのに何故か止まっている!私はそのことを尋ねると彼は答えたのである。 どうやらこの辺り一帯に警察官が大勢待機をしているらしいということであった!その数は少なくとも十人は超えていると彼は言っていた。 どうしてそのようなことになったのか全くわからない!しかし、警察が動いているというならば私に止める術はないではないか!そこで店の代表者は決断をした どうせ彼女はこのまま放っておけば死んでしまうだろうだから私に彼女の命を奪う権利などあるのかという疑問が浮かぶのであるがその疑問を消すことができないのであるしかしここで私の意見を聞いて欲しい!私は彼女のためならば命をかけても良いと思っている!だから彼女に死なれると私は非常に悲しいのだ つまりこれは、彼女のために自分が死ぬということを意味しているのだが私は決してそんな考えをするつもりはないがしかし彼女が死ぬとなればやはり悲しいという気持ちになるであろうだからこのような行動に出るのである。 もし、ここで私が死んでしまえばこの店や私の家族に対して迷惑がかかるかもしれないがしかし私自身は後悔はしないと断言できる そして私もついに覚悟を決めた その覚悟とは、彼女を車に乗せて私が代わりに救急車に乗ってどこか遠くへ行くというものである だがこれは簡単な選択ではない! この店の関係者で、なおかつこの店の近くにある警察署の近くに住んでいる人間はおそらく存在しないからである そこで我々は考えた。 まず、店の代表者は警察に事情を説明しに行った どうやら、彼らはこの近辺の不審者を捜査するために出動したらしい。 そのため我々の存在には気がついていない様子であったが、彼らが店から離れて我々が通報された時にどのような対応を行うべきかわからないからだ。 それに、店の近くにいても誰も気づいてくれないという状況になることが予想されるためである また、代表者の彼が、この店の関係者が近くにいることを伝えることも重要であると判断したのは確かである。 もしも仮に我々の存在がバレてしまうとその時点で我々が店から離れる理由がなくなってしまうかもしれないという恐れがあったからである。 店の責任者は店の関係者全員に指示を出して、店内に潜むことにしたのである だがこれはかなりリスクのある方法だ! 何しろ店の従業員全員が店の中に閉じ込められるので脱出の方法が全くないからという理由もある。 だが、一番の問題は店の出入り口を封鎖されてしまう可能性があるという事だった。 店の中の全ての人間を外に出さなければ店の入り口に鍵をかけられてしまう可能性が高いというのだ。 店の中では閉じ込められた人間がパニックを起こし、収拾できなくなる可能性すらあった。 そうなると警察への通報が遅れるという事もあり得るし、下手すれば警察の介入で混乱が起きるという事態にもなりかねなかった しかし、その問題はすぐに解決されることになった 「店長!」と一人の男性店員がやってきたのである。 どうやら彼の部下のようである 「一体どういう状況なんだ?」 「わかりません」と彼は言った しかし、彼の説明を聞くと事態がすぐに理解できた 「ああ、そういうことか。 つまり店の前の通りに不審者が現れたんだな?」 「はい」 「しかも俺たちは中からは絶対に出られない」 「ええ」 「しかし、外の方は俺たちに用がない……というより中に用があるんだ」その男性は、私の質問に対してこう答えるだけだった 「だから俺達が捕まって中に入った瞬間に入り口に錠をかけてしまえばいいのさ」と。 そして彼は店の扉の方に手を向けながら「早くしないと」と言った。 私は彼の言葉を最後まで聞くことはなかった。 なぜならば、彼が私の言葉を待たずに、突然行動に移ったからだ。 私は彼がいきなり動き出したのを見て驚いてしまう。 そして慌ててしまったために何も言うことができないまま店の外へ出て、そのまま店から離れてしまうことになった。 彼は一体なんのつもりなのか? その答えは少し時間が経過してわかった 店の周りに集まっている人々が、次々と警察に助けを求め、それに応えて警察官が駆けつけてきたからである。 どうやら、店の外はもう大騒ぎになっていたようだ。 それを知って私は急いで店から離れることにした。 そのようにしてしばらくすると私はようやく落ち着いて、これからのことを考えられるようになっていた。 もちろん先ほどの男のことについても考えていたが、私はそれよりも、この辺りの状況がどのようなものなのかを考えることにする。 まず私は周囲を見回してみたのだが、そこには私以外に誰もおらず私は一人ぼっちであった。 そのため周りにある景色をよく観察することが出来た。 しかし残念なことに、その景色からは何もわからないようだった。

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