イマジナル・ファシリティー
「俺は、お前のこと信じているからな」

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だからといってここで彼を突き放すことは、得策とは言えないと思った。 理由はどうであれ恩人であるのは確かなことであるからである。 そう思いながら私は佐々塚から渡された名刺を受け取ったのであった。 すると佐々塚が言ってきた「じゃあな、くれぐれもこのことは誰にも言うんじゃねぇぞ」そう言うと、佐々塚は立ち上がり出口の方へと歩いていった、どうも急いでいる様子だ、だからか、立ち去る間際に一言こう付け加えた。 「俺は、お前のこと信じているからな」 どうも、佐々塚の言動が怪しいので私は後を追うことにした。 だがドアを抜け廊下に出ようと思ったところで後ろを振り返る、すると佐々木さんの姿がない、どうやらもう行ってしまったようだ、一体どうしたと言うのだろう、そして私は佐々木の行方を探そうと思いまずはこの建物の外に出てみようと決心をした。 外に出ると目の前には一面海が広がる、空は雲ひとつなく澄み切っておりとてもきれいであった、まるで私の心を映し出しているかのようである。 そう言えばここって島なんだっけとふと思う。 建物から出て道路沿いに進んでいく、すると佐々塚の車を見つけ私は慌てて駆け寄った、しかし佐々塚は乗っていなかった、運転席側の窓ガラスを叩いて佐々塚を呼んでみたが反応はなかった、どうしたものかと私は首を傾げた。 すると私はあることに気がついたのである。 佐々塚が持っている携帯電話の番号が表示されている画面を見た時にである、そういえば佐々木は今時携帯を持っていないと言っていたなということを思い出す。 そして私はふと考えた。 どうせ佐々塚とはもう二度と会うこともないだろうし連絡をとるつもりはないのだが、どうしたらよいのだろうかと、どうやら佐々塚の持っていた電話番号と住所が記載された紙はもうなくなってしまったらしいのでもうあの佐々塚に会えないと考えると少し寂しい気がする。 そう思うと急に心細さを感じた、そんなことを思いながら歩くとすぐに私のアパートに着いてしまったのである。 どうやら思っていたよりも時間が過ぎていたようだ。 階段の前まで行くと私の部屋の前を見てみると何やら男が数人集まっていたのだ、彼らは何かを話し込んでいるように見える。 何をしているのだろうか? とりあえずは様子を見ることにした。 しばらく見ていると男たちの中に一人だけ女性らしき人が混じっていたのだ、その女性は白いシャツにジーンズを履いていた。 しかしどこかで見たような姿だ。 誰だろうか?と私は不思議に思うのであった。 そしてその女性の容姿を見て私は驚きを隠すことができなかった、だってそこには美紀がいたのだ。 私は驚いてその場で腰を抜かしそうになる、どうしたことだというのだ?どうして彼女がここに?そう思うものの、まさかと思いつつ私は恐る恐る彼女の方に近づくと聞いてみたのである。 「あなたは一体、何者なんですか?」彼女は言った。 「わたしは、呉越の国の王に仕えるもの、呉です、私はあなたのお手伝いをしにきたんですよ、これからずっと一緒ですね、よろしくね、愛理奈」そう言われた瞬間に私の背筋に何か寒気が走った、これは恐怖だった、どうやら私は何かの術中にはまっているらしいことは分かった、しかしそれが何なのかが分からず私は何も言い返せなかった。 私は言った。 「それどういうことですか?」 するとその女が私の方に歩み寄り私に顔を近づけてくる、どうやら匂いを嗅いでいるようだ、気持ち悪いと感じつつも私は彼女から離れた。 すると女が笑った。 そして彼女は言う。 「うん、ちゃんと血の臭いがする、これなら問題なさそうだわ、じゃあさっそく行こうかな、ついてきて、それとあなたの名前を教えてくれる?」と聞かれ私は言う「名前は橘愛梨奈よ」 彼女は「わかった、アリナっていうの覚えたよ、それじゃあいこうか、アリナ!」と私を呼ぶ。 すると私は彼女に引っ張られるような形で強引に連れて行かれるのである。 そして彼女は私の手を引くと「私と一緒に行きましょうよ」と言ったのである。 私は「ちょっと」と言って抵抗しようとするのだが、力が強く振りほどくことができないため結局私は連れていかれる羽目になったのだった。 私は手を握られながら彼女の後ろ姿をじっと見つめている。 そしてふと思ったのだ。 どうやらこの女も私の味方ではないようだった、だとすればこの男も敵ということになる。 私は警戒する。 しかし、この女の力は異常だった。 どうやらこの女は、私を逃がす気は毛頭ないらしく、私の手首を握り締めたまま離さないのだった。 私は言った「痛いから、放してくれない?」と聞くが返事は帰ってこなかった。 私は思った。 このまま私をどこに連れていこうというのか、この女の目的が分からない以上は下手に逆らわない方が良いのかもしれない。 そう思っていると私は突然走り出した、それは私の方に向かってくる車が見えたからだ。 「危ない!」と私は言うと私は女の手を振り払い彼女の腕を掴むとそのまま彼女を引き寄せる。 車は私たちの横を通り過ぎていく。 しかし安心はできない。 私は振り返り再び歩き出そうとするが、突然背後に気配を感じ私はゆっくりと後ろを振り返るとそこには先ほどの女性が立っていた。 そいつはナイフで自分の頸動脈を切って死んだ。 「また会ったな」そう言うと男は去っていった。 私はその場に座り込む、一体何が起きているというのだろうか。 私は自分の部屋に戻ろうとするが、再びあの男に捕まってしまう。 「何やってるんだよ、ほら早く来い」 私は「嫌だ!」と叫びながら必死に抵抗するが男の力は強くて振り解けない、私はその男に無理やり引きづられて何処かに連れ去られてしまうのだった。 私はその男に無理矢理車に乗せられると、私を乗せたまま車を発進させる。 どうやら私は逃げられないようだ。 「おい、お前の名前はなんていうんだ」 「私は、橘愛梨奈」 「そうか、俺は、田中裕二だ」 「知ってる」 「何?」 「あなたの顔は、昨日見ましたから」 「そうか、俺の顔を知ってたか、じゃあ話は早いな」 「えぇ、それであなたの目的は何なのでしょうか」 「目的?そんなものは簡単だ。 金だよ。 お前は金になる」「私を売るんですか?」 「あぁ」 「いくらで?」 「一億だ」 「……」 「嘘だ」 「は?」 「本当は五千万だ」 「ふざけるな!じゃあどうして私を誘拐したんですか?」「残りの五千万はお前の親だからだ。 おびき出せと命令された。 成功したら残りを貰う約束だ。 これで合計一億。 クライアントの名前は言えない」「私は、お金に困ってません、帰らせてください」 そう言うと、運転手の彼が答えた。 「お前の帰りたい場所はここなんだよ、ここは呉越国、そして俺の国は呉なんだ」彼はそう言って不気味に笑うのだった。 「どうも話がおかしい、そもそもここが日本であることに私は疑問を感じるのですが」 「ははっ何を言い出すんだ、おかしな奴だなお前は」と彼が笑い出す、そして「それにお前の帰る家はもうここしか無いんだぞ、諦めろ」 私は車から降りようとするが、やはり扉を開けることはできない。 どうやら窓すらも開かないらしい、つまり閉じ込められていることになる。 私は観念するしかなかった、そしてしばらくすると私は気を失ってしまったのである。 目が覚めると私はベットの上に寝かされていた、しかしどうにも様子が変だった、部屋が狭いし妙なのだ、そしてその部屋の隅には佐々木さんの姿があった。 彼は私が目を覚ますとその事に気づいたようで近寄ってきたのである。 私は彼に言う。 「あなたが助けてくれたんですか?ありがとうございます」と感謝の言葉を述べるが佐々木は言う。 「あぁ無事で良かった」と微笑むのであった。 しかしどう考えても彼の言葉は不自然であった、何故ならばあの佐々木がこのような優しい声をかけるわけがなかったからである。 そこで私には考えつく結論としては夢なのではないかということだ。 そういえば佐々塚と海に行って以来私は悪夢ばかり見るようになっている。 それもあの佐々塚の奇妙な行動が原因である事は明白であり私はそれをどうにかするために今日、佐々塚に会うことを計画したのである。 しかし、今私はその佐々塚の罠にかかってしまい、こうして佐々木に軟禁されてしまっている。 そうに違いない。 そう考えたところでふと思う、もしこれが佐々塚の仕業ではなく、誰か第三者の手によって行われているものだとしたらどうだろう、その場合考えられるケースは佐々塚の協力者による犯行ということだ。 そう考えると私は身震いをした、まさかこんなことが起こるとは思ってもなかったのだ。 一体誰が私の監禁を企んでいるのか。 しかし私はあることに気がついたのである。 佐々塚の持っていた住所が書かれていた電話番号は携帯用のものだ。 それを考えると、佐々木と私は電話を通じてやり取りをしていたということになる、つまり私の居場所を知っているのは佐々塚だけとは限らないということだ。 そうなってくると考えられるのは、佐々塚以外の人間、そう、私を監視している存在がいるということである。 そのことに思い当たったとき背筋に寒気が走るのである。 私は急いで携帯を探すことにした。 しかし、見つからない。 そういえば、この部屋の中を見回してみたのだが携帯らしきものが見つからなかったのだ。 そして私はその部屋の隅にいる佐々塚を見た。 すると佐々塚はその視線に気がついてこちらを見て「ん?どうしました?」と言うのである。 しかし私の目は、その佐々塚の姿をとらえてはいないのである。 つまり私の視界の外にある。 これはどういう事だろうか?どうやら私の予想通り、この部屋の外から私を観察しているのは間違いないらしいと私は確信したのである。 だとすると、私はこれから何をすれば良いだろうか。 まずは脱出することだ。 しかしどうやって?ドアの鍵穴を見てみるとそこには鍵らしき物は存在しない、だとしたら壁を破壊?それは不可能だと思った。 なぜならコンクリートの壁だからだ。 するとどうなるだろうか、当然だが出られないことになるだろう、これは袋小路に追い込まれてしまったということだ。 しかし、私は考えた。 「そうか、そういうことか」 「どうした?」佐々木は私の方に近づいてきた。 私は佐々木を無視して、床に落ちていた石を拾う、そう、これはきっと脱出するためのヒントだ、そしてこの石の重さを考えてみることにする。 石が重いことは容易に想像できる。 ということは私の力では持ち上げることすらできないはずだ、でも、もしかしたらという可能性がある以上試す必要があった。 私は石を持ち上げてみて少しずらすようにして壁に隙間を作ることを考えたのだ。 私はその方法でやってみることにする。 するとどうだろうか。 その石は、すっと動くではないか、まるで吸い込まれるように壁に沿って動いたのだ。 これではいけない。 今度はその石を少しずつずらすことを試みる。 そしてその作戦は功を成して何とかほんの僅かだが空間ができあがった、そこから私は手をねじ込むことに成功するとようやくの事で指を外に伸ばすことに成功したのだった。 そして私は息を大きく吐く、しかし私はまだ安心することが出来なかった、なんといってもここから脱出する手段を考えなければならなかったのである。 この狭い部屋では、私を拘束しているロープを引きちぎることは困難に思えた。 となると他に方法はないだろうかと考える。 私は再び部屋の中にある物を探し始めた。 すると本棚がある。 その中に本がぎっしりと詰まっているのである。 それを確認すると同時に、先ほどの違和感の正体にも気づくのだった。 この狭い部屋のどこを見ても窓が見当たらないのだ。 この部屋は完全に密閉されているのである。 その事からもわかる。 おそらくあの窓は全て作り物だったのだ、私はそのことに気づいた時、怒りがこみ上げてきたのだった。 どうやら犯人は最初からそのつもりでこの部屋に窓を作り出さなかったというわけだ。

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