結局四人は向かって左から聡、清香、真澄、浩一の順番で横に並んで着席し、主催者の挨拶や上映開始まで時間があるのを幸い、女二人はそれぞれの連れそっちのけで、四方山話に花を咲かせた。 「そういえば清香ちゃん、年が明けたら成人式があるのよね」 「はい、お兄ちゃんが振袖を買ってくれました。それに久しぶりに、同級生と会えるのが楽しみです」 嬉しそうにそう語る清香を見て、真澄がしみじみとした口調で言い出した。 「本当に……、月日が流れるのって早いわね。おじさま達が亡くなった時、清香ちゃんは中一だったのに」 「そう言えばお葬式の時は、一家揃って来て貰いましたね」 「ええ。今の清香ちゃんを見たら、おじさま達もお喜びになるだろうなと思って」 思わずしんみりとなってしまった空気を払拭したかったのと、以前から気になっていた人物の事が話題に上っていた為、ここまで黙って二人の会話に耳を傾けていた聡が、礼儀正しく会話に割って入った。 「清香さん、ちょっと聞いても良いかな?」 「どうかしたんですか? 聡さん」 「その……、君のご両親って、どんな人達だったの?」 「え? どうしてですか?」 キョトンとしながら尋ね返す清香に、聡は幾分言い難そうに話を続けた。 「いや、ちょっとした好奇心なんだけど。公表されている先生の顔写真を見ると、かなり整った顔立ちをされているから、ご両親が結構美形だったのかと思って」 「美形、ですか?」 (うっ……、かなり苦しい言い訳だったか。何だか柏木さん達の視線が痛いし……) 以前から母親の前夫に対しての好奇心はあった為、思い切って口にしてみたのだが、清香の向こう側から自分に向かって投げかけられる柏木姉弟の胡乱気な視線を受け、聡は一気に居心地が悪くなった。しかし自分越しにそんな無言のやり取りが交わされているなど、夢にも思っていない清香は、怪訝な顔で考え込みながら自分の考えを口にする。 「う~ん、確かにお兄ちゃんは美形の部類に入るけど、お父さんは娘の私から見ても、間違ってもその範疇には入らないと思いますよ? お兄ちゃんは、お兄ちゃんのお母さん似だと思います。どういう人なのかは分かりませんが」 「そうなんだ」 冷や汗をかきつつ言葉を返した聡の声に、真澄達の声が重なる。 「そうねえ、清香ちゃんも香澄おばさま似だと思うし」 「だからパッと見、二人は兄妹に見えにくいんだよね。年も少し離れているし」 「う……、浩一さん、微妙に気にしている事を。それじゃあ私達が親子に見えるとか言うんですか?」 少し恨みがましく言われた台詞に、浩一が苦笑しながら弁解した。 「いや、流石にそこまでは。でも初対面の人に、叔父と姪位の関係に間違われたりしない?」 「……時々、間違われます」 ボソッと呟かれた言葉に、清香以外の三人が小さく吹き出す。それに「皆酷い!」とむくれた清香を三人がかりで宥めてから、再び会話が続いた。 「佐竹のおじさまは、美形と言うよりは、貫禄がある顔立ちって言った方が良いわよね」 「そうだね。気後れしないでどっしりとしてて、人に安心感を与えると言うか」 実際に会った事のある真澄と浩一が、清香の亡父である佐竹清吾について分かるような分からないような論評をしていると、清香がうんうんと頷きながら同意した。 「その通りですよね。強いて物に例えるならお兄ちゃんはマスクメロンですけど、お父さんはジャガイモですし」 「は?」 「え? 私、何か変な事を言いました?」 異口同音で疑問の声を上げ、(もの凄く変な事を言った)と全員が思ったが、それをストレートに清香に告げたら傷付くだろうと思った三人は黙ってアイコンタクトを行う。その結果三人の中で一番年下、かつ一番立場の弱い聡が、慎重に口を開いた。 「あの……、清香さん? そのジャガイモっていうのはどういう意味?」 「えっと、だって茄子の様につるんとした印象じゃなくて、どっちかって言うとちょっとごつい感じで。でもちゃんとお料理すれば色々な料理や味付けに合いますし、見た目によらず万能食材なんですよ?」 「あ、ああ。つまり、見た目も中身も良く知ると、結構味のある人だったと」 「ええ、そんな感じです!」 「……良く分かったよ」 小さく溜め息を吐いて無理やり納得してみせた聡だが、柏木姉弟から視線で無言の圧力をかけられ、更に清香に質問した。 「それで清香さん。先生を例えるとマスクメロンって言うのはどういう事?」 「何となく似てるかなと思っているので」 「……どこら辺がそうなのか、聞いても良い?」 理解不能のまま思わず懐疑的な視線を向けてしまった事を聡は自覚していたが、清香はそれに気を悪くした様子を見せず、何かを思い出す様な風情で話し始めた。
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