零れた欠片が埋まる時
第17話 もうどうにも止まらない②

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(初対面なのにふてぶてしい面しやがって! しかも何だ、弟の分際で兄を見下ろしやがるとは、生意気にも程がある!!) (何を考えているか、何となく分かりますが……。好きでこの身長になったわけじゃありませんよ! 不可抗力です!!) (普段は滅多に読ませないけど、理性吹っ飛ばしてると考えてる事が丸分かりで、面白いな。この二人)  手を離しても笑顔を保ちつつ、視線だけは険しい物を向けてくる清人から、聡はさり気なく視線を外しながら、控え目に清香に尋ねた。 「それで清香さん、そちらの方は……」  清人の向こう側に居る、小さな泣きぼくろが印象的な女性の素性を尋ねると、清香は笑顔のまま紹介してくる。 「川島恭子さんです。お兄ちゃんのアシスタントをしてくれてます」 「川島です。初めまして」 「……いえ、こちらこそ。小笠原です宜しく」  座ったまま軽く会釈して来た相手に、聡が何となく微妙な顔で挨拶を返すと、一見二十代後半に見える恭子は、何を思ったか悪戯っぽく問い返した。  「何だか小笠原さんは、今の説明に納得がいかない様な顔付きをされていますね。私の事、何だとお思いになりましたの?」 「あ、いえ……、佐竹さんの恋人なのかと」 「…………」  聡が思った事を正直に述べると、何故か清人と彼女の向こう側に座っている浩一は無言で眉を寄せ、恭子と清香は互いの顔を見合せてクスクスと笑い始めた。 「恭子さんは違いますよ。私達と一時期、一緒に暮らしてた事もありますけど」 「良く誤解されるんです。先生にはご迷惑をおかけしています」 「そんな事無いわ、恭子さん。恭子さん位の美女と噂が立つなら、お兄ちゃんだって本望よ」 「あら、ありがとう、清香ちゃん」  それを聞いた聡は、益々混乱した。 (一緒に暮らしてたって……、それなら尚更、恋人の様な気がするんだが。あの派手な真澄さんとは真逆の、お似合いの和風美女だし)  そんな事を考えながら一人で悶々としていると、清人が声をかけてきた。 「二人とも、ここが空いてるが座らないのか? そろそろ次のイベントが始まる筈だが」  確かに通路側から三つ席が空いており、どうやら浩一と恭子に続く席に清人が座っていたらしいと見当を付けた清香は、素直に頷いた。 「じゃあ、座らせて貰うわ。聡さんもここで良いですか?」 「……ああ、勿論構わないよ」  僅かに引き攣った笑顔を見せながら聡は了承し、奥から清人、清香、聡の順に席に着いた。気がつくと一緒について来た修と奈津美は、自分たちの後ろの席にちゃっかりと座っている。 (何かもう……、狼の巣穴に飛び込んだ気分だ)  半ば自棄になりながら聡がステージの方に視線を向けると、司会者らしい学生が出て来て、マイク片手に陽気に宣言した。 「皆様、お待たせしました。それでは当サークル主催、チャリティーオークションを開催致します!」  会場から結構な数と音量の拍手が起こる中、周囲でステージ上に運び込まれた品々を見ながら、囁き声での会話が交わされる。 「ふふ、ちょっとドキドキするわね。ねえ修さん、午前中見たあのクリスタルガラスの一輪挿し、落としてみても良い?」 「財務大臣のお前が、良いと判断する範囲でな」 「よぅし、頑張るわよ!」  やる気満々の奈津美の声に、思わず苦笑しながら背後を振り返る清香。 「奈津美さん、妊婦なんだから、あまり興奮しないでね?」 「ん~、俺はあのペアウォッチにしようかな?」  独り言のように言った正彦に、キョロキョロと周囲を見渡し不審に思った清香は、前の座席に身を乗り出して正彦に尋ねた。 「正彦さん、彼女さんにあげるんですか? そう言えばさっきお会いした彼女はどこですか?」 「うん? 取り敢えず別れた。あげるのは次の彼女」 「……いつか女性に刺されますよ?」  清香だけでなく、他の人間からの突き刺さる様な冷たい視線をものともせず、正彦は苦笑いしたのみでステージの方に向き直った。  そんな観客席の細々した事には構わず、ステージ上では滞りなくオークションが進行して行った。 「それではこちらのティーセットですが、最低落札価格千円から始めたいと思います。ご希望の方は挙手の上金額をどうぞ!」  司会者がそう促した途端、会場のあちこちから楽しげな声が上がる。 「千五百」 「千八百」 「二千」 「二千五百」  購入希望者の声を聞き洩らさない様にマイクを持ったスタッフが何人か会場を駆け回り、物によっては結構白熱した競り合いになったりして、出品物が何品か競り落とさせた後には、会場に心地よい熱気が溢れてきた。 「けっこう盛り上がってるね」  聡が隣の清香に囁くと、清香も楽しそうに言葉を返す。 「こういうのって、日常生活の中ではありませんからね。皆、お祭り騒ぎをしたいんですよ」 「確かに。何だか楽しくなってきたな。次だよね? 例の花は」 「うぅ……、こっちは何だか、緊張してきました」 「大丈夫だよ、落ち着いて」  徐々に強張った顔になってきた清香を見て、聡は苦笑しつつ宥めてからステージに向き直った。 

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