零れた欠片が埋まる時
第27話 秘められた誓い③

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 新年早々、小笠原家でそんな不穏な会話が交わされた翌日。三が日を過ぎたものの一月に入って最初の日曜日とあって、神田明神にはそれなりに参拝客が訪れていた。  社務所の窓口では様々な祈祷の受付、お守りや絵馬などの販売で人が並んでいたが、その傍らの大木の下で、先程引き当てたばかりのおみくじを手に、清香が堪え切れない笑いを漏らす。 「うふふっ、今年はやっとお兄ちゃんに勝った!」  その喜びぶりに、清人が呆れた様に小さく肩を竦めた。 「おみくじに、勝ち負けがあるわけ無いだろう?」 「だって……、これまで毎年、お兄ちゃんは大吉ばかりで、私は吉や小吉とかで悔しかったのに、今年は私が大吉で、お兄ちゃんが凶だなんて凄く嬉しいんだもん!」  ウキウキと上から垂れている枝におみくじを結び付けている清香の頭を、清人が苦笑しながら軽く叩いた。 「こら、俺が不幸になっても良いってのか?」 「そんな事は言って無いってば! それに大吉の私が側に居れば、そんなに不幸にもならないでしょう?」 「それもそうだな」  緩みまくった顔のまま清人が清香と共におみくじを結び付けていると、何故か背後から奇妙な声が聞こえてきた。 「……げっ!!」 「え?」 「は?」  呻きとも叫びとも取れるその声を、不思議に思った二人が反射的に振り向くと、何メートルか後方に、口許を手で覆った聡の姿を発見した。そして清香は忽ち笑顔になり、清人は威嚇するかの様にスッと目を細める。 「聡さん、どうしてここに? 三が日は過ぎましたけど、初詣ですか?」  走り寄って来た清香ににこやかに話しかけられた聡は、視線を忙しく行き来させてから、若干引き攣り気味の顔で答えた。 「あ、ああ。三が日のうちは色々忙しくてね。父の実家がこの近くだし、落ち着いた頃そこに顔を出すついでに、ここに来ているんだ。清香さん達は? ここは住んでいる所からは、随分遠いけど……」 「私達も混雑している時にわざわざ来たく無くて、毎年ずらして参拝しているんです。実はここの例大祭を見物に来て、お父さんとお母さんが出会ったんですよ。それで縁起が良いからって、両親が生きていた頃から、毎年ここに来ているんです」 「そ、そうなんだ」 (まずい……、幾ら心構えをしておけと言ったって、こんな所でいきなり兄さんと母さんを会わせるわけには)  内心で激しく動揺している聡とは対照的に、清香がのんびりと尋ねる。 「ところで、聡さんお一人ですか? 由紀子さんとおじさまはご一緒じゃないんですか?」  そう清香が口にした途端、その背後で清人がその眼に殺気をちらつかせ始めた為、聡は本気で狼狽した。 「あ、ああ……、母が去年入院したから皆で病気平癒の祈祷をして貰ったんだけど、二人は先に駐車場に行って貰って、俺だけこっちにお守りを買いに来たから」 「そうなんですか。側にいらっしゃるなら一言ご挨拶しようかと思ったんですけど、それならまた改めて」 「うん、そうしてくれるかな。わざわざ車まで来て貰うのも悪いしね」  そうして聡がほっと一息吐いた瞬間、背後から今現在尤も聞きたくない声が響いて来た。

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