「姉さん? それは天照大神が、天の岩戸に隠れた話の事を言ってるのか? 姉さんが清香ちゃんの部屋のドアの前で裸踊りとかしても、別に楽しくも何ともないと思うけど」 浩一がそう言った瞬間、真澄が勢い良く立ち上がり、両手で浩一のネクタイを掴んだと思うと、首の結び目をギリギリと力任せに締め上げた。 「浩一、あんたこの状況下で、良くそんなくだらない冗談をいえる程度に、図太い神経していたのね。お姉さん全っ然、知らなかったわ」 「悪い、姉さん! 失言でした! 取り消しますから、その手をっ!」 必死に弁明を繰り出し、窒息の危機から脱してゼイゼイと息を整えている浩一を、清人と聡は生温かい目で見やった。そんな三人を見下ろしてから、真澄が憤然として歩き出す。 「全く……、どいつもこいつも、使えない男どもね!」 盛大に吐き捨てつつリビングのドアを開けて廊下を進み、清香の部屋のドアの前に立った真澄は、まずは普通に呼びかけてみた。 「清香ちゃん? 真澄だけど、ちょっと話があるから開けて貰えないかしら?」 しかし室内は静まり返っており、相変わらず無反応な為、真澄は先程よりはやや大きめの声で、再度呼びかけた。 「さ~や~か~ちゃ~ん。五つ数えるうちに、ここを開けてくれないなら、清香ちゃんがクローゼットの奥に隠してある箱の中身の事を、清人君に洗いざらい教えちゃうわね? それでも良いかしら?」 リビングのドアの所まで出て来て、真澄の様子を窺っていた男達は、(何の事だ?)と首を捻ったが、そんな事はお構いなしに、真澄が大声でカウントを始めた。 「じゃあ数えるわよ~。ひとぉ~っつ、ふたぁ~っつ、みいぃ~っつ、よおぉ~」 「真澄さんっ! 何で、どうして“あれ”の事知ってるのっ!?」 「開けてくれてありがとう。お邪魔するわね」 ガチャガチャッと、慌ててロックを外す音が聞こえたと思ったら、狼狽しまくった清香がドアを開けて顔を出した。その体を押し戻しつつ、真澄が自分の体を室内に滑り込ませ、素早くドアを閉めて再び施錠する。 「清香!」 「清香さん!」 「お黙り! リビングから一歩も出ないで、大人しく待っていなさい!」 慌ててドアに駆け寄ったものの再び閉め出され、清人と聡は必死の形相で声を張り上げたが、室内から真澄の怒声が投げつけられ、顔色を無くしてリビングへと戻った。その気配をドア越しに窺っていた真澄の背後から、清香の声がかけられる。 「あのっ! 真澄さんっ! どうして“あれ”の事っ!!」 そこで驚きのあまり、口をパクパクさせている清香に向き直った真澄は、思わず失笑しながら宥めた。 「ああ、さっきのあれ? ちょっとカマをかけてみただけなんだけど。年頃の女の子には家族に見られたくなくて、机の引き出しとか本棚の奥とかに隠してある物が、一つや二つあるのはお約束じゃない? 私の勘働きも、なかなかのものよね」 「……引っかけられたんですか」 それを聞いてがっくりと項垂れた清香に、苦笑しながら真澄が促す。 「せっかくだから、その隠している物、見せて貰えない?」 「だだだ駄目です、たとえ真澄さんでも、絶対に駄目ぇぇっ!!」 再び狼狽しまくって拒否する清香に、真澄は真顔になって口を開いた。 「それは残念だけど、しょうがないわね。その代わりに、ちょっとお話ししましょうか。清香ちゃんが帰宅してからあった事を聞いたけど……、大変だったわね」 それを聞いた清香は、情けない顔をしながら、ベッドにポスンと座りつつ項垂れた。
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