夕方になって期末試験は無事に全日程を終え、清香と朋美は連れ立って校舎から出て歩き出した。 「はぁ~、やっと終わったわね。あと少しで春休みだわ。嬉しい~」 「……そうね」 何となく心ここに有らずといった風情で、朋美と並んで歩いていた清香だが、ふと気がついて横に顔を向けながら尋ねた。 「ねえ、朋美。朝話していた店に帰りに寄って行くなら、西門の方が近いのに、どうして正門の方に行くの? 遠回りじゃない」 それを聞いて、朋美が些か慌てた様に答える。 「……え? そ、そうかもしれないけど、ちょっとこっちを回って行きたいなあって」 「だからどうして」 「だって、皆一斉に校舎から出てくるし、西門に向かう通路って狭いでしょう? ゴチャゴチャした人込みを、歩きたくないのよ」 「……ふぅん? まあ、良いけど」 不思議そうな顔をしたものの清香は取り敢えず頷き、朋美は密かに安堵の溜め息を吐いた。そして二人揃って歩きながら、無言で考え込む。 (全く……、変な指示を寄越さないでよね? 第一、聡さんとの事がどうなってるのか、気になってしょうがないわ) (流石に今朝は聡さん、マンションの前にも居なかったみたい……。だけど、まだ納得できないし、腹を立ててるんだから!) そうして校舎間を通り抜けて、真っ直ぐ正門へと伸びる道に入った所で、朋美がいきなりその足を止めた。清香は少し遅れてそれに気付き、二・三歩先に進んでから立ち止まった朋美を振り返る。 「どうしたの? 朋美。こんな所で止まって」 その問い掛けに、朋美は前方から清香に視線を移し、何とも言えない微妙な顔付きで口を開いた。 「……あのね、清香。私、初めて聡さんに会った時に、何となく清人さんと似ている気がするな~、と思ったんだけど」 「はぁ? あの二人の、どこら辺がどう似てるって言うのよっ!」 一連の事を口にすると怒りがぶり返す為、週明けから聡と清人に関する事は一言も漏らしておらず、当然二人の関係性を知らない筈の朋美にそんな事を言われて、清香は本気で苛立った。 (何? 無関係の朋美にも分かる位、あの二人って端から見て似てるわけ? それなら全然気が付かなかった、私の妹としての立場は!?) そうして半ば八つ当たりしながら、朋美の次の言葉を待った清香だったが、続く台詞で目が点になった。 「どこら辺って……、その、二人とも頭が良い筈なのに、時々もの凄くお馬鹿さんな所?」 「……何、それ?」 思わず胡乱げな視線を向けた清香に、朋美が冷静に尋ねる。 「清香、聡さん、車持ってるよね?」 「うん」 「黒だよね?」 「そうだけど」 「外車っぽいよね?」 「うん、確かにBMW……。でも、どうしてそんな事を知っているの? 私、話した事があったっけ?」 不思議そうに問い返した清香に、朋美が些かげんなりした様な顔付きで、ゆっくりと前方を指差した。 「現物が、目の前にあるから」 「え?」 そして朋美が差し示した正門方向へ、素直に顔を向けた清香は、そこにとんでもない物を発見して固まった。 「ななな何あれっ!?」 絶句して固まった清香の背後から、容赦無く駄目出しをする朋美。 「……どこからどう見ても、聡さんだよね」 「それは分かっているけどっ!!」 清香が驚愕したのも当然で、正門のど真ん前に停められた黒のBMWの前に、一抱えほどもある大きなピンクのバラとかすみ草で作られた花束を抱えたスーツ姿の聡が、キャンパス内の方を向いて立っていた。 当然中から続々と出てくる、周囲の学生達の好奇心に満ちた視線や、聡の行為を咎める目線が彼の全身に突き刺さっていたが、当の本人は一向に気にする素振りを見せていなかった。 「この場合さぁ、聡さんがあそこで待ってるの、絶対あんただよね?」 「ま、待っててなんて、言った覚えは無いわよっ!!」 「うん、まあ、そうだろうけどね。聡さん、捨て身もいいとこだよね~。あんた達、土日に一体、何があったのよ?」 「なっ、何も無いってばぁぁぁっ!」 生温かい目で朋美が見やると、清香は半泣きになりながら弁解したが、朋美は躊躇う事無く清香を切り捨てた。
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