「それで話は変わるけど、清香さんはクリスマスとかの前後は空いている?」 「いえ……、ちょっと約束で埋まってて。それに毎年イブは、お兄ちゃん特製ディナーを、一緒に食べる事にしていますし……」 (こんな事言うと、朋美みたいに呆れられそうだけど) そんな事を考えながら正直に予定を告げた清香だったが、聡からは予想に反した言葉が返って来た。 「それなら家に居るんだよね。丁度良かったよ」 「え!? 聡さん、どうしてそんな事を言うんですか?」 すっかり驚いてしまった清香が素っ頓狂な叫び声を上げると、聡も本気で驚いた様な戸惑った声を返す。 「どうしてって……、何が?」 「だって、自分が言うのも何ですけど、イブの夜に兄妹でディナーって変に思わないんですか? 朋美や他の友達全員『お兄さん優先なんておかしい』って、毎年言ってますし」 (自分で言ってて、何だか自分自身がもの凄く変に思えてきたわ。そんなにお兄ちゃんと過ごすのが変なのかしら?) 密かにそんな事を考えて落ち込み始めた清香に、聡が事も無げに言い返してきた。 「別に変じゃないだろう? イブに誰と過ごそうが、それは人それぞれだと思うし。それだけ兄妹仲が良いって事だから、他人がどう言おうと構わないじゃないか」 不思議そうに告げられた台詞に若干救われた気持ちになりながら、清香は反射的に尋ねた。 「聡さんはそう思うんですか?」 「勿論、そう思うから言ってるんだけど?」 幾分笑いを含んだ声に、清香は心からの礼を述べた。 「そうですか。ありがとうございます」 (ちょっとだけ、聡さんに誘って貰えるかなって思ったけど……。でもそうしたら、お兄ちゃんに何て言えば良いか分からないし、これで良いわよね) そんな風に僅かに残念な気持ちを抑えつつ、自分自身を納得させた清香に、聡が穏やかに声をかけてきた。 「正直に言えば……、イブは清香さんを誘いたかったんだけど」 「え?」 「実は俺、今年は年末まで、びっしり仕事でスケジュールが埋まっていて。……最近、立て続けに潰れた仕事の後始末と、新規事業開拓の準備で、てんてこ舞いなんだ」 密かに動揺したのは一瞬で、清香は如何にもうんざりとした口調で事情を説明する聡に、心の底から同情した。 「年末なのに大変そうですね。体調に気をつけて下さいね?」 「ありがとう。そんな訳でどこにも誘えないんだけど、プレゼント位は届けようかと思って。だから家に居てくれて、助かったと思ったんだ」 先程の発言の意味が漸く分かり、清香は慌てて断りを入れた。 「え? そんな忙しい時期に、わざわざ家まで来て貰わなくても良いですよ? それ以前に、由紀子さんからあれを頂いたばかりですし、聡さんからもプレゼントとか頂けませんから!」 「俺がそうしたいから。……ごめん、実は今、職場の廊下からかけてるんだ。仕事に戻らないといけないから、じゃあまた連絡するね?」 「あ、あのちょっと、聡さん!?」 言うだけ言って切られてしまった携帯を見下ろし、清香は一人途方に暮れた。しかし流石に、このまま掛け直すのは躊躇われる。 「切れちゃった……。でも忙しそうだから、かけ直しちゃ悪いよね」 今度時間のある時に、改めて断りを入れようと決めた清香は、諦めて携帯を自分の机の充電器に刺し込んだ。そしてそれを見下ろしながら、しみじみと呟く。 「でも聡さんって優しいなぁ、あんな事を話しても全然馬鹿にされなかったし。それにスカートって……」 そしてぷふっと笑いを漏らしてから、晴れ晴れとした笑顔で頷いた。 「うん、聡さんってお母さん思いで、誰にでも優しい人だよね」 そんな調子で、清香の中で聡の株がこれまで以上に上昇していた頃、清人はリビングで厄介な相手からの電話を受けていた。
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