「大変って……、そんな一言で片付けないで下さい。もう頭の中ぐしゃぐしゃで、何も考えられないです。どうしてくれるんですか? 明日から金曜まで、今週は期末試験期間なんですよ?」 「……それは困ったわね」 その切実な訴えに、真澄も思わず眉を顰めつつ清香の横に腰を下ろす。 「駄目だわ、まともに書ける自信なんて、全然無い。このままだと単位を落としちゃう……」 そんな事を呻いている清香を眺めてから、真澄は唐突に質問を繰り出した。 「清香ちゃん、今日の就寝予定時刻は?」 「えっと、試験期間中は早寝早起きを鉄則にしているので、十時には」 戸惑いつつも律義に答えた清香に、真澄はにっこり笑って言い出した。 「まだ四時過ぎだし、九時には寝る支度を始めないといけないとしても、まだ五時間近くあるわ。ダラダラ寝ていればあっと言う間に過ぎる時間だけど、それを有効に使えば、かなりの事ができるわよ?」 「え、えぇ?」 「少しでもすっきりして、試験に集中したいでしょう?」 「それはそうだけど……」 一体何を言い出すのかと、困惑した清香だったが、真澄の意見には同意を示した。そこを真澄が畳み掛ける。 「それなら、清香ちゃんが一連の話を聞いた上で、これから何をするべきなのかを考えて、その優先順位を決めるの。そして残り時間で、できるだけそれを片づけるのよ」 「する事の優先順位、ですか……」 促された清香は床を眺めつつ、真剣な顔で悩み始めた。そしてその横で真澄が黙ったまま反応を待つこと十五分程で、清香が結論を出す。 「……真澄さん。やっぱり私は、お兄ちゃんが最優先です」 きっぱりと言い切った清香の判断に、真澄は思わず微笑んでしまった。 「そうでしょうね。次は?」 「老人優先です」 「道義的にも、それが妥当ね」 あまりにも清香らし過ぎる答えに、真澄は噴き出すのを必死に堪えた。そして真顔の清香を促して、ベッドから立ち上がる。 「それじゃあ、今日これからの方針が纏まった所で、早速出掛けるわよ? 足は私が提供するわ」 「お願いします」 余計な事は言わなくても、清香が何をするつもりなのか十分理解できていた真澄は、そのまま清香を引き連れて部屋を出た。そして清香には玄関でコートを着る様に言いつけ、自身はリビングに向かう。 そしてドアが開いた気配を察知してソファーから立ち上がっていた男三人に、真澄は怒鳴った。 「ちょっと清香ちゃんと出かけるけど、後を追いかけてくるんじゃないわよ!?」 「は? 一体どこに」 「ちょっと待って下さい!」 「姉さん?」 流石に狼狽と困惑の顔を向けて来た面々を、真澄が一喝した。 「清人君、浩一! 私が良いと言うまで、絶対に聡君の手を離すんじゃないわよ? そいつをこの家から一歩でも出したら、承知しませんからね!!」 「え? 真澄さん、何なんですかそれはっ! ……ちょっと! 何するんですか、兄さん! 浩一さんまで!」 真澄が指示した途端、二人に拘束されたらしい聡の叫びを背中に受けながら、真澄は玄関へと急ぎ、既に身支度を終えていた清香に小さく頷いた。 「下に、家の車を待たせてあるの。先方の住所は分かっている?」 「はい、大丈夫です」 「じゃあ急ぎましょう」 そう言葉を交わしてから、真澄は掛けていたコート引っ掴み、清香と共に玄関から飛び出して行った。
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