零れた欠片が埋まる時
第16話 どうしようもない男達⑤

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

「清香ちゃん偶然だね。そっちの彼もどうも」  二人で移動中、唐突に通路の向こう側から現れた正彦を見かけた清香は笑顔を向け、聡は顔を引き攣らせながらも挨拶を返した。 「今日は、正彦さん」 「またお会いしましたね」 「正彦、知り合いなの?」  大柄な正彦の後ろに隠れる様にして歩いていた小柄な女性が、彼の背後からひょっこりと顔を出し、今までその存在に気がつかなかった二人は僅かに驚いた。そんな二人を指差しながら、正彦が事も無げに説明する。 「ああ、知り合いの子とその彼氏だよ」 「あのっ! 正彦さん? そういう言い方は語弊があって!」  慌てまくる清香には構わず、正彦は大人と子供程の体格差がある女性を促してあっさり二人に背を向けた。 「それじゃあ清香ちゃん、俺達デートの最中だからまたね」 「え?」 「……どうも」  呆然とその背中を見送りながら、小さく呟く清香と聡。 「デートって、この前会った女性とは別人……」 「あれから三週間、経って無い筈……」  そこで二人は、何とも言い難い顔を見合わせた。 「見なかった事にしようか?」 「そうですね」  全く意味不明の声掛けをされ、精神的疲労が徐々に蓄積して行く聡だった。  それから写真同好会の作品展示会場に足を向けた二人は、飾られているパネルの一つ一つを眺めながら感想を述べ合っていたが、半分ほどを見終わった所で、清香が聡の顔を見ながら言い出した。 「でも意外でした。聡さんがカメラに興味を持ってるなんて。私の知り合いに、聡さんと気が合いそうな人が一人居て」 「あれ? 清香ちゃん?」  何か言いかけた清香の声を遮って、背後から男の声がかけられた為、二人が背後を振り返った。するとそこに佇んでいた人物を見て、清香が目を輝かせる。 「明良さん! 噂をすれば影ね。聡さん、こちらは倉田明良さん。フリーのカメラマンなの。明良さん、こちらは角谷聡さんです」 「ああ、兄さんから聞いてるよ。宜しく」  如才なく右手を差し出してきた健康的に日焼けした男に、聡も内心はどうあれ大人しく握手する。 「初めまして、角谷です。倉田さんは、正彦さんの?」 「ああ、弟でね。ところで清香ちゃん、例の奴、良い感じに仕上がったよ?」 「本当ですか?」  途端に何かの話に食い付いた清香に、聡は(何事?)と怪訝な表情を浮かべた。 「俺としても自信作。急遽今度の個展に、出す事にしたから」 「えぇっ!? 良いんですか、本当に」 「勿論。それで本人の許可を取ろうと思っていたんだ。どうかな?」 「構いません。でも周りの作品の質を下げないか心配ですけど」 「大丈夫だって」  そのやり取りを聞いた聡は、控え目に清香に尋ねてみた。 「清香さん、倉田さんの作品のモデルになったとか?」 「はい、実は」 「あ、悪いけどそれは俺と清香ちゃんの秘密って事で。一応、公表する前だしね」  清香が何かを言いかけたのを遮り、明良がわざとらしく声を潜める。それに清香が真顔で頷き、聡に笑って手を振った。 「えっと……、そうですね。聡さん、大したことじゃありませんから、気にしないで下さい」 「そうそう、俺達だけの話だから」  そうして五分程、顔を突き合わせて話し込んでいた彼女達を見て、聡の不機嫌度は更に増していった。それから明良と別れた二人は、本来の目的であった場所に辿りついた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません