――あなたへの 強いあこがれを 「……ううん、こうじゃない」 司から歌奈への気持ちを聞いたとき、自分にはどうすれば良いのかわからなくなった詩乃は、冬休みの間はずっと歌詞を書いては捨て、書いては捨てを繰り返していた。 歌奈でさえ『そう』なのだ。恐らくもうこじらせているだろうこの気持ちをぶつけたところで、司が歌奈からの想いを受け止め切れなかったように、詩乃が抱えている想いを歌詞に込めたところで、響くのだろうかと。 第一、こんな直接的な言葉よりも、歌奈なら比喩を好む。それなのに、書こうとしている言葉は歌奈のことを無視していないだろうか。 「……作詞、難しいなあ」 こんな熱に浮かされたような歌詞を、受け入れてもらえるだろうか。 *** 「……え、マジよくね?」 「いけるいける。歌奈とは作風違うけど」 ファミレスで遥香と杏子に下読みをお願いしたところ、拍子抜けするくらい好評で、詩乃は狐につままれたような顔をした。 「やっぱ、歌奈ちゃんには合わないかな」 「……んー、いや、そうじゃなくて。熱はあるけど、あの子鈍感だからさ」 「キラキラした歌詞の方が、歌奈にはウケそうだからなあ」 「そうだよね……。薄々違う気はしてたんだけど」 『そこでさ、』と、遥香が杏子と相談したという案を聞くと。 「『短歌を活かす』って、そのつもりだったけど……」 「短歌に、キラキラ感というか、すごく綺麗な景色が出るじゃん? そういうのはどうかなって」 短歌そのままだと、リズムが崩れてしまう。悩んで、答えが見つからなかったのに。頭の中がぐるぐるしてしまい、うまくまとまらない。 結局、『直してみる』と告げて、また後日に聞くことにしたが、思ったより、自信を無くしている自分がいた。 「短歌は出来るのに。でも、一応直して、ダメもとで見せてみよう。うん」 ファミレスを出てひとり、そんな風に呟いていたら。 「――しーのっ!」 「きゃあっ!? 遥香ちゃん?」 「ちょっと寄り道しよーぜ」 遥香がホットの缶コーヒーを2本持ちながら、にっ、と笑顔を見せた。 「――短歌って、思ったより違うなあ」 「うん。……私も、ここまで悩むとは思わなかった」 「でも、書きたいんだろ」 「うん」 そして、恥ずかしそうに悩みながら、遥香が言った。 「大丈夫。詩乃のキラキラを、ぶつけちゃえ!」 缶コーヒーを胸の前で包みながら、白い息を吐いた。 「――『雪融けがいつか来るよと友と飲む 迷いを融かす缶コーヒーで』」 「……いいね」 「ありがとう、遥香ちゃん」
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