一曲目、『ラッシュ!!』。 二曲目、『星の忘れ物』。 ここまでは、歌奈の関わった曲。そして、二曲目が終わったとき、しんみりとした空気がメンバーに流れる。 「ええと、『星の忘れ物』でしたー!」 歓声がフロアを満たす。息の上がった歌奈が次の言葉を探している。詩乃が意を決してMCを繋ぐ。 「――どうする? 私でもいい?」 「……うん!」 スポットライトと共に、視線が集まる。 「二曲目が歌奈ちゃんの作詞だったんですけど、三曲目は私と、実は色んな人にサポートして貰った、私にとって、初の作詞です」 『おおっ』と期待の声が上がる。 「でも、一番伝えたいメッセージは、私の一番得意な形で、歌奈ちゃんに送りたくて」 「えっ……」 詩乃が視線を向けると、歌奈の目尻にある光が大きくなった。そんな彼女に、詩乃はふわりと微笑む。 「こんなに自分の気持ちを出したことがなくて、でも、こうやって誘ってくれた歌奈ちゃんにはすごく感謝していて、――その気持ちを、以前からやっている『短歌』、『五七五七七』の詩に添えて」 興味を示した観客の声が止んで、一呼吸置いた。 「『わがままな うたへうたえと あなたこそが 私に教えて くれたのだから』――。最後の曲、『うたへうたえ』。よろしくお願いします」 ぽろぽろと涙をこぼす歌奈を一旦置き去りにして、阿吽の呼吸で、当初の予定とは異なる詩乃の独唱から始めた。 ――わがままな うたへうたえと 叫ぶあなたはキラキラしてて 分けてほしくて私も叫びたくて 歌いたくてこの歌を送るよ 涙をこらえる歌奈がギターで乗り、歌詞を噛みしめる杏子のキーボードが寄り添い、号砲代わりのドラムを遥香が叩き、ふたりの背中を押す。 ――今なら、思い切り歌える。 体まで浮き上がるような、どこまでも飛んでいけそうな心地。弾いていてぐんぐんと前に進める、そんなフレーズ。 照明が眩しい。演奏前の真っ白なノイズの代わりに、歌奈と一緒に叫ぶ。憧れの気持ちが、そんな照明の光に溶けていく。バスドラムの音と、自身の鼓動の区別がつかない。 どれだけの仮歌詞をゴミ箱に捨てただろうか。遥香と飲んだ缶コーヒーの香りが鼻を通る。 ブラック派の杏子は、その味に比べてずっと優しく見守る人で、冒頭のMCの件もライブハウスのスタッフさんに取り次いでくれた。 従姉の司には感謝しきれない。彼女自身の複雑な気持ちはあれど、詩乃の気持ちを汲んで作詞を手伝ってくれた。 そして、歌奈は――。 ――ありがとう これからも よろしくね 全員で最後の音を弾いた。全力で、やかましくて、わがままな音。嬉しそうで、ぼろぼろと泣きはらしていて、それに詩乃もつられる。 「……もー! ずるいよぉ……!!」 「ごめん、でも、ほんとに――」 ――大好きだから。 *** その日の日記に、バンドメンバーが寄せ書きをくれた。 『姉貴が当ててたペアチケット、譲ってくれるってよ! 遥香』 『↑現地のおみやげリサーチしといたから、メッセージ送るね 杏子』 『みんなグルだったの?! おみやげあげるもんかー!! 歌奈』 そのやりとりにくすくす笑いながら、静かに日記を閉じて、ぐっと押さえた。 『見つめあい支えあっても足りないの嬉しい気持ちでいっぱいだから 詩乃』 ―完―
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