うたへうたえ
1-A 『見上げればはらりはらりと舞い落ちる言の葉重ね歌う恋文』

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

「――通学路ひとふたつと足音のつ増えてかわぐつ笑う」 「――夢の中のー忘れ物をー」  ――実は、通学路は大体いつしよだったみたいで、気づかなかっただけなんだ。  歌奈は、そう言ってはにかむ。には、その増えた足音がここよかった。 * * *  始まりは、校舎そばのベンチだった。歌奈が、家の事情でだつしたバンドメンバーをめるためにあちこちに訪ね歩いていた。 「ねえねえ、ベースやらない?」 「へっ?! えっあっ、何でしょう?」  しかし、返事のほぼすべてが『ベースって地味でしょ』というもの。『いやわかるけどさ』とふくれっつらになる歌奈も心の片隅ではそう思っていた。それでも、実際曲を作っているとその重要な役目がわかる。ドラムと共に、バンドに勢いをもたせるエンジンだということを。 「ちゃん、だよね。以前、すいそうがくでベースやってたって聞いて」 「はあ、そうですけど……」  そこで、と同じ中学だというクラスメイトから評判を聞いて、さつそく声をかけにきたのだ。急なことに当の本人はぽかんとして『何が何だか』という顔。そしてようやく、歌奈から事情をく。 「――うーん……確かに、ポップスではやってたんですけど、エフェクターまで使わないし」 「エフェクターまで分かってたらそくせんりよく!」 「あっ、ちょっと、ノートかかえてるからっ……!」 ――ぱさっ。  うれしくなり、歌奈がうでをつかんでると、かかえていたノートの一冊が、地面に落ちて広がった。 『せんしき歌え歌えと飛ぶカラス秋高き空夜に染めてく』  はっと息をのんだ。  確かに『見えた』。歌奈自身の書く歌詞が、ひどうすっぺらく感じるくらいに。 ――まるで、歌みたい。  あわててノートをかかえてその場を去ろうとするに、「待って!」とさけんだ。思わず立ち止まったかのじよに、歌奈がしんけんまなしを向ける。 「これは本気。いま本気になった。だって、その一文だけで、景色が見えたんだもん。お願い、作詞も手伝ってくれない?」  は、ひかえめにうなずいた。ここまで言ってくれた人は初めてだった。もしかしたら、自分の世界を広げられるかもしれないと、まだ見ぬ世界にドキドキしていた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません