「――出来た」 そして、出来てしまった。詩乃は同時にその気持ちを突きつけられた。どうしようもなく浮ついて、こんなにもわがままな歌を、歌奈に歌わせようとしている。 「私も、酷いことをするなあ」 勝手に司の気持ちも背負って、それでもなお、司に惚れた相手に焦げ付きそうな恋心を抱いたのだから。 そうして朝に出来た歌詞を、学校に持っていった。 「出来たよ、歌詞」 「おっ、本当!? 読ませて!」 「――うん」 放課後の教室で、生徒たちが出払うのを待ってから歌奈に声を掛けた詩乃。杏子と遥香には、相談に乗ってくれたお礼も兼ねて、マカロンの詰め合わせを渡しておいた。 わざと、大事なメッセージを一つ欠けさせておいたその歌詞は、ただのラブソングだ。それは、杏子たちには存在だけ伝えておき、内容はお楽しみということにさせてもらった。 「――すっごい綺麗。いいね!これ」 「ありがとう」 「……ちょっと司先輩の言葉が混ざってるのがズルいけど」 歌奈の目尻に涙が浮かぶ。 「『キラキラを分けて欲しい』ってところだって、私がどうしても入れたかったフレーズを入れてくれたとき、先輩が言ってたことだから」 でも、と続ける。 「詩乃っちが考えた言葉もいっぱいだから、すごく嬉しい! 曲、書いてみるよ!」 ―― わがままなうたへうたえと叫ぶあなたは キラキラしてて 分けてほしくて 私も叫びたくて 勝手な憧れと知っている。うまくいかないことさえ覚悟している。 しかし、杏子や遥香、そして司が後押ししてくれたこの心臓は、もう止まることを忘れてしまった。 そして、詩乃からは見えてなくても、歌奈は、歌詞の書かれたプリントをしっかりと抱きかかえていた。 *** 迎えた、新曲お披露目のライブ当日。準備を経て本格始動、と銘打ってはいるが、詩乃が慣れた段階で一度だけやっている。 「……よし! 行くよ!」 「おー!」 元気よく声を出すメンバー達は、地下のライブハウスへと下りていく。見知ったバンド仲間や、SNSで聞きつけてくれたファン。 そうした、歌奈の交友関係がかなりの割合を占める人たちが、後から来てくれるそうだ。 まずはライブハウスの店長やPAスタッフと、事前に送っておいたタイムスケジュールを確認し、リハーサルに入る。 最後の新曲のリハーサル前、詩乃が声を掛ける。 「ここ、私もMC貰っていい?」 「うん、いいよ! じゃあ――」 リハーサルでも、この緊張はまるで本番のようだ。緊張を抑えるために、フェイクを交えて作詞したときのエピソードを手短に話した。 「1,2,3――」 速めのロックナンバー。シンセの音が駆け抜け、ドラムがギアを上げる。サビでは、詩乃もコーラスに加わる。無我夢中で歌う歌奈をちらりと見てから、自らも願うように歌う。 リハーサルを終え、開場し、控え席の近くのお客さんと話をする。緊張のあまり半分くらい上の空で聞いていたのを、遥香に笑いながら小突かれた。
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