「というわけで、詩乃ちゃんでーす!」 「よ、よろしくお願いします」 ファミレスで他のメンバーと顔合わせすることになった。 杏子が『ぱちぱちぱちー』と拍手すると、その向かいに座る遥香も親指を立ててぶんぶんと振る。 「私は杏子、キーボード担当。ライブハウスとかの予約とか、事務的なこともやってる。見た目のわりに出来る子だよ!」 「自分で言うか! 実際そうだから大丈夫だけど! んで、わたしは遥香。ドラム担当!」 一通り自己紹介を終えると、ぱんっ、と歌奈が手を合わせる。 「――はいっ、じゃあ、詩乃ちゃんの慣れもあるだろうし、いったん解散で。次は水曜日に基礎練習ね」 「はあい」 「はーい」 そういいつつ、せっかく頼んだフライドポテトがもったいないので、少しほおばってから帰ることにした四人。 その途中に通知音がしたあと、歌奈が浮かない顔をしていた。 「……歌奈、一旦スマホ伏せとけば?」 「ん……」 あとの二人は事情を知っているようで、杏子はてきぱきと歌奈のほうへ、ポテトを取り分けたり、ドリンクバーの飲み物を押し付けたりしていた。 何が何だかわからない詩乃も、下手に事情を探るわけにもいかないので、大人しくしていた。その詩乃の袖を、くいくい、と引っ張ってきたのは杏子だった。 「詩乃ちゃん、『弓田 司』先輩って……詩乃ちゃんの……」 「あ……従姉、です」 「やっぱりー……この子、詩乃ちゃんを誘ってから気づいたみたいでさあ」 「あーごめん、わかったわかったから」 その話題で盛り上がりかけたところで、歌奈が制止した。苦い思い出なのか、何度かうなりながらテーブルに突っ伏している。 「……先にベースの譜面を渡しておくよ」 杏子から渡されたのは二曲の楽譜。タブ譜――楽譜上にフレット番号を示したもの――も丁寧に書き込まれていて、詩乃から見ても譜読みがしやすい。 「歌奈もマメだもんね。演奏でやりたいことがちゃんと書いてあるし、一応フルスコアもあるよ」 「へえ……」 その横で遥香が歌奈の指をいじって遊んでいた。 「あ、えっと……」 何かを言おうとして、『余計なことを言いそう』と自ら止めた。 いとこが話に絡んでいるからだろうか、心がざわざわして落ち着かない。鼓動も少し強くなっている。 ――これは、どんな気持ちなんだろう。 言葉を飲み込んで、もう一度喉を潤すことにした。
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