ルドヴェンティブ
第13話:軽身功

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「時代は空飛ぶ車――あいや空飛ぶBU-ROADザンスよォ!」  モニター越しで、テッドさんが算盤をシャカシャカと鳴らします。  インプレスター弐式セカンド機能ギミックが展開。  空を飛んでを烈風猛竜ルドラプター見下ろしていました。 「驚かれましたかね? ハイ」 「空飛ぶ武術――なんて聞いたことがないぞ」  シュハリは動揺した様子でモニターを見ていました。  動揺するのも無理はありません。あらゆる徒手の武術、格闘技は地上戦を想定しています。  それが空を飛ぶ相手となると……。 「軽身功というやつですよ、ハイ」 「武侠小説かよ」  軽身功。  中国武術では体を軽くする鍛練法――つまり高く飛んだり、跳ねたり、走ったりするためのトレーニングがあると聞いたことがあります。  中国の大衆小説では、軽身功の達人は何倍もの速さで走ったり、自由自在に空を飛ぶとのことですが……。 『物理で飛んだァーッ! これぞリアル舞空術!』 ――オオオオオオオオオオッ!  ミリアの実況に観客達は盛り上がります。 「タンタンの十八番だ!」 「ワイヤーアクションでもなく! CGでもない!」 「出るか! 南派少林無影脚!」  片や、紫雲電機の応援団は気が気ではありません。  粟橋さんと加納さんは観客席から立ち上がり、宙に浮かぶインプレスター弐式セカンドを指差します。 「あんなのありかよ!」 「反則っス!」  山村さんは表情を崩さず冷静に言いました。 「まァ……機械格闘技だから。ウチも色んな機能ギミックを入れてるしね」  山村さんは隣に座る野室さんを見ました。 「まあな」  社長と一緒に烈風猛竜ルドラプターの開発に携わった野室さん。  烈風猛竜ルドラプターには、私達の知らない機能ギミックがまだ隠されているのでしょうか? 「これで、空を飛べる私に氷満象アイスマンモーとやらは意味がありませんね、ハイ」  次は試合場。トリスタン選手は不敵に笑みを浮かべます。  インプレスター弐式セカンドは、パタパタと背中のユニットを動かしながら鷹爪拳表演武術の構えをしていました。  対する烈風猛竜ルドラプターは構えを崩さぬまま攻撃に備えています。 「そうみたいだね」 「ふふっ……前回の試合では全く機能ギミックを使わなかったようですが?」 「何だよ突然」 「イヤね……あなたの試合映像を拝見させて頂きまして気になったんですよ、ハイ。あの程度の相手に苦戦したご様子でしたので――もっとマシンの能力を使えば早く倒せたのでは?」  そうです。  前回のシラヌヒ・ストア戦では烈風猛竜ルドラプターは内蔵される機能ギミックを使いませんでした。  実は試合後、私はシュハリにそのことを尋ねたのですが――。 「倒すべき相手がいるんでね」  同じことを言ってました。「倒すべき相手」がいると。  また「相手は違うが、社長や皆も同じだ」とも。  おそらくアスマエレクトニックのことでしょうか?  ならば相手は強大すぎるほど強大な敵――。  そもそもどういう状態を「勝ち」とするのでしょうか? 何を「意味する」のでしょうか?  BU-ROADバトルにおける勝敗? 会社の売り上げ? ブランド力? それとも事業規模?  多くの仮説を立てても、紫雲電機の力はまだまだ足りないのは明白。それは途方もない戦いを意味します。  ううっ、考えるだけでも頭が痛くなります。今は試合に集中しましょう。 「そいつと戦う前までは能力は極力隠しておきたい」 「ほう……倒すべき相手ですか。実に気になりますね、ハイ」 「あんたには関係のない話。それに言っておきたい」 「ん?」 「デカポンのおっさんは弱くない! あんたのようにセコいマネはしなかった!」 「セコい――我疯了心外ですッッッ!」  ビュッ!  風切り音がドームに響きました。  インプレスター弐式セカンドが鷹のように――。 「ツァッ!」  急降下しました! ――ガギッ! 「くっ!」  金属音がします!  そう! 蹴り技です! 「ハイヤアアアアアッ!」  怪鳥音が聞こえると、 『カンフー技の満漢全席をご馳走だァ!』  打つ! 撃つ! つ!  打つ! 撃つ! つ! 打つ! 撃つ! つ!  打つ! 撃つ! つ! 打つ! 撃つ! つ! 打つ! 撃つ! つ! 『リズミカルな音色が奏でられる!』  インプレスター弐式セカンドが奏でる、空中殺法の金属音シンフォニー! 『どうした烈風猛竜ルドラプター! 無限1UPを許したままでいいのか!?』  金属音に混じるミリアの実況、それをシュハリはしっかりと耳にしていました。 「だからネタが古いんだよっとッ!」  バッ!  空中からの攻撃を烈風猛竜ルドラプターは側転で掻い潜り回避。  蹴られ続けられながらも、しっかりと相手のリズムを読んでいたのは序盤と変わりません。 「やっ!」  シュハリの掛け声と共に烈風猛竜ルドラプターは跳躍!  空に浮かぶインプレスター弐式セカンドを蹴り落とそうという算段です。 「むっ?」  シュハリ――烈風猛竜ルドラプターは辺りを見渡します。  「確かに蹴った」そう思ったのでしょう。でも対戦相手はそこにいません。 (如何にはやい蹴り技でも『モーション振り』がデカい。リズムとタイミングは――) 「バッチリだったハズ――と思いましたか、ハイ」 「なんだと!?」  トリスタン選手の声だけが聞こえているのでしょう。  シュハリは必死にモニターを見渡します。 「どこだ、どこにいる!」 「う、上だ! モニターを上に動かせ!」 「上だと!?」  社長の声を聞いたシュハリ。  シュハリのモニターは頭上に照準を合わせます。 「バカな!?」  モニターには飛行ユニットが見えました。  それは薄黄色の羽――昆虫のカゲロウのようでした。 『わ、我々は軽業師の曲芸を見ているのでしょうか!?』  そう、 「これが軽身功の極意です、ハイ」  烈風猛竜ルドラプターの頭上に、片手倒立したインプレスター弐式セカンドがいました。

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