ルドヴェンティブ
第21話:白刃一閃

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「片桐結月と申します。よろしくお願いしますね」 「う、うっス!」  名は片桐結月といった。  新入社員だ。歳は四つほど下。 「加納さん、よろしければ今晩……」 「お、俺と?」 「はい、是非とも」  加納は驚いた。  女性からの誘いは初めてだった。 「アスマエレクトニックに戻りませんか?」 「えっ……」 「加納さんは埋もれるには惜しい技術者です」  片桐はアスマエレクトニックが送った産業スパイだった。  いや――実をいうと片桐だけではない。  紫雲電機に応募してきたものは、全てアスマエレクトニックの息がかかっていた。 「で、でも……俺……」 「自分にもっと素直になるべきです」  片桐はそっと加納の手に自らの手を重ねる。 「私としても……それを待ち望んでいます」  BU-ROADバトルの選手だったのは偶然だった。  彼女が過酷な共喰いサバイバルを経て――。  仲間を引き釣り降ろして――。  今日という日にデビューするという。 「片桐さん……」  数日という短い間の出来事だった。  彼女の本心はわからない。  組織の命令か? それとも紫雲電機自分達を混乱させ勝利を得るために?  あるいは――。 ☆★☆ 『斬ったッ!』  斬りました。  烈風猛竜ルドラプターの両大腿部が横一文字に裂かれ、バチバチと放電しています。 『液体金属流刀メタル・リキッド・ブレード! 科学のニューブレードだァ!』  手元の資料によると、アスマエレクトニックが新開発した流体合金タミリウムで作られた特殊武装。  操縦者の脳波を伝授、反応。  様々な形状に変化する自在の万能刀、とのことです。 「お前、機能ギミックを使え!」  モニター越しから社長が叫びます。  ここまでの試合、烈風猛竜ルドラプターは全く機能ギミックを使っていません。 「機能ギミックね。説明書のコピーは貰ったけどさ」  華無姫かなしひめ液体金属流刀メタル・リキッド・ブレードが刀の形状から、 「動きが止まりましたよ。まるで巻きわらです」  鎌へと変化します。 『舞うッ!』  水平斬り。 『舞うッ!』  袈裟斬り。 『舞うッ!』  逆袈裟斬り。 『剣舞! これが和の伝統ッ!』  回転斬り。  繰り広げられる剣劇。  無駄なく、はやく、効率よく。  それはカマキリが、獲物を捕食するかのようです。 「マ、マシンの修理費が!」  烈風猛竜ルドラプターの四股が裂かれ、社長はムンクの叫び。  両腕、両脚、流れるのは放電という名の流血の光景。 「ヤバッ!」  シュハリはふっと一息。  全ての攻撃を紙一重で見切り、致命傷は避けています。  が、マシンのダメージは蓄積されています。  このままでは、倒されるのは時間の問題でしょう。 「ったく!」  社長は頭をかきながらアドバイスを送ります。 「機能ギミックを使え! 相手を近付けさせるな!」 「どういうこと?」 「風圧掌エアロブレイクだよ! 風圧掌エアロブレイク!」 「ん?」 「一応の操作法は教えてもらっただろ」 「紙ベースだけどね」 「音声認識システムが反応するからやってみろ」 「……了解!」  烈風猛竜ルドラプターは両手をかざし、 「風圧掌エアロブレイク!」  空気弾を発射します。 「ハッ!」  華無姫かなしひめは水平に腕を振り、空気弾を寸断しました。 「ウ、ウッソだろ?」  観客席から試合を見つめる粟橋さん。  この見事な刀捌きに驚いています。  山村さんが顎に手を当てながら感心した様子です。 「なるほどね、空気弾はストレート軌道。読みやすいよね」  続けて、野室さんが首のストレッチをしながら何やら言ってます。 「変化球が出来るように改良するか」  試合場。  華無姫かなしひめは両手に武装された液体金属流刀メタル・リキッド・ブレードを胸前で合わせます。  そして、構え――剣道でいうところの正眼に構えます。 「お覚悟を……」  両の手の、 『こ、これは! なんだァ~~!?』  液体金属流刀メタル・リキッド・ブレードが合わさり、 「現代瓶割刀いまかめわりとうにて、一刀両断とさせて頂きます」  大太刀へと変形します。 「俺の頃は、こんなビックリドッキリ機能ギミックはなかったぞ。せいぜい拳に電撃を込めるか、ロケットパンチを飛ばすくらいしかなかったのに」  シュハリの言葉に片桐さんが返します。 「科学技術は日進月歩ですよ。殺人術たる武術が格闘技になったように」 「お姉さん、理屈っぽいよ」  華無姫かなしひめは切っ先を向けたまま、ジリジリと間合いを詰めます。 「我々、古流が生き残るために踏み台になって頂きます」 「踏み台?」  お互いの制空権が、 「歴史の流れ。術は時代の流れと共に遊戯、スポーツと化した」  一歩、 「いけないことかい?」  一歩と、 「そのため古流は伝統芸能になり、形骸化した」  触れ合い、 「それが先人が選んだ道だよ」  片桐さんは、華無姫かなしひめは両腕を振り上げ、 「遊戯者スポーツマンに何を言っても理解わからないでしょうね」  踏み込み、 「武の本質は殺人術にあり! BU-ROADバトルこの場所で大衆に思い知らせる!」 ――斬捨て御免!  真向に振り下ろされました! 『無惨! 一刀両断か!?』  白刃一閃。  無惨にも烈風猛竜ルドラプターは真っ二つ!? 「何をそんなに力んでいるのやら」 「なっ……!」  いえ。 『こ、これは』  振り下ろされた液体金属流刀メタル・リキッド・ブレードを、両手の平で合わせ防いでいました。 『真剣白刃取り!?』  実行不能の客寄せ的な曲芸。  演武や映画でしかお目にかかれません。  ですが、演武者同士の技量、呼吸が合わなければ大怪我につながる危険な技です。 ――オオオオオオオオオオッ! 「初めて見た!」 「カッコイイ!」  映画さながらのシーンに観客達は大興奮です。  静寂とした雰囲気から喧噪と変わります。 「くっ……バカな! 何故動かないんだ!」  片桐さんは必死に操縦しようにも微動だにしません。  マシンのパワーに差があるからでしょうか? 「これ生身の戦いだったら、絶対にケガしてるよな」  どうやら違うようです。  振り下ろされた液体金属流刀メタル・リキッド・ブレードを瞬時に挟み、冷却装置・氷満象アイスマンモーで固めていたのです。 「演武の続きをしようか」 「貴様ッ!」 「そちらにも事情があるんだろうが、あんたは勝つために人の心を弄んだ」

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