『この異音はなんだァ!?』 次々と太鼓のような音が鳴り響きました。 音の方角はインプレスター弐式の飛行ユニット――翼の部分です。 おそらくは何かが金属に当たった時の音ようですが、 『インプレスター弐式が〝何かの力〟で押されているぞ!?』 目には見ません! しかし、何かが当たっているのは確かです! トリスタン選手とテッドさんは、この謎の現象に戸惑っています! 「奇怪了」 「何をしているでザンスか! 何とかするザンスよ!」 「その昔、我が師父より日本の武術に『遠当て』という技法があると聞きましたが……」 「そんなの幻想ザンス! リアルにあるわけないザンス!!」 「では、この現象をどう説明するのですか、ハイ」 「トリックザンス! あの手に何か仕掛けがあるザンス!」 インプレスター弐式の翼に衝撃が走り、トリスタン選手のコントロールが上手く効きません。 後方、あるいは上下に動かされ、凧のようにふらふらと揺らいでいました。 マシンへのダメージはありませんが、空中からの攻撃を止められたような状態です。 「ふゥむ……確かに何らかの機能かもしれませんね、ハイ」 トリスタン選手は烈風猛竜の両掌を見ます。 (手の平に筒状のもの――小型の大砲? あそこから何かを発射しているのでしょうか、ハイ) よく見ると、烈風猛竜の両掌は開口し砲筒のようなものがあります。 あれは一体何でしょうか? 「種明かしして頂けませんかね、ハイ」 そのトリスタン選手の言葉にシュハリは、 「答える気はないね」 と素っ気なく返答し、両手を地面に付けました。 「氷満象とやらですか? 空に浮かぶ私には――」 「トリスタンさん、あんたペットボトルロケットって知ってるかい?」 「什么?」 「このマシンには、氷満象用の超臨界水が内蔵されててね」 「だから何ですか、ハイ」 「あんたの動きを止めていたのは『風圧掌』――空気を圧縮して飛ばす見えない弾丸。平たくいえば空気砲ってヤツだね」 「空気砲?」 「これから理科の授業だ」 その言葉を述べるや否や、 『と、飛んだ!?』 烈風猛竜の両手から水柱が放出! 『こ、これはペットボトルロケットだ!』 赤い龍が空へと打ち上げられたのです! 「鯉の滝登り――」 地上より昇り立つ烈風猛竜。 トリスタン選手の目には見えたのです。 立身出世・成功のための関門を突破する『龍』の姿が――。 「〝龍〟となるのですか?」 烈風猛竜は突きを――。 「ヤッ!」 赤龍の牙を――インプレスター弐式に突き立てます! 『ヒットオオオオオッ!』 突きはインプレスター弐式の顔面にヒット。 続いて、烈風猛竜はダメ押しを加えます。 「風圧掌!」 「むゥ!?」 両掌を重ねた構えから空気弾が発射。 インプレスター弐式は上方へと押し上げられました。 向かう先はドームの天井。トリスタン選手は焦りの表情です。 (操縦が……ッ!) そして、轟音が鳴り響きました。 『て、天井直撃イイイィィィ!』 インプレスター弐式は天井に激突。 全身から放電、頭部のバイザーから光が消えました。 意味するところは機能停止です。 「あんたのおなまえ何ァンてェの?」 テッドさんは悔しそうな表情で言いました。 自慢のマシンが、紙飛行機のように落ちる姿を見て唖然呆然。 一方、烈風猛竜は前回り受け身をしながら着地。 そして、シュハリはテッドさんに一言述べます。 「シュハリさ」 ○ BU-ROADバトル 契約ファイター:シュハリ スタイル:??? BU-ROADネーム:烈風猛竜 スポンサー企業:紫雲電機 VS 契約ファイター:トリスタン・タン スタイル:カンフー BU-ROADネーム:インプレスター弐式 スポンサー企業:MUTURA 勝者:『シュハリ』 ☆★☆ 試合終了後、選手控室でテッドはトリスタンに罵声を浴びせていた。 「お給料はいくらだと思ってるザンスか!」 テッドは算盤を激しく揺さぶり、 「試合に負けて恥はかくし……小夜子さんとのディナーはパーでんねん……」 赤いハンカチを噛みしめた。 「あァああ~~~~! つらいザンスゥ~~~~!」 芸風が変わるテッド。 トリスタンといえば顔からは笑みがこぼれている。 「日本にも龍がいましたか。もう一度手合わせしたいですね、ハイ」 「何をおっしゃるザンスか! タンタンに二度目はないザンス!」 テッドは算盤をパチパチと強く弾く。 「負けたから自由契約ザンス! あの灰野と同じザンス! 役立たずザンス!」 「ハイノ?」 「あのシュハリに負けた空手家ザンス!」 シュハリのデビュー戦の相手である灰野は解雇されていた。 このBU-ROADバトルは厳しい――結果を出せない選手は簡単に捨てられるのである。 「ミーの面前から去るザンス! 二度と見たくないザンス!」 カラララッ♪ カッタッタッ♪ カラララッ♪ カッタッタッ♪ 「あきれたボーイだネ」 「ザ、ザンス!?」 ウォッシュボードらしき軽快なリズム音が鳴った。 この控室には別の誰かが入ってきたようだ。 「こ、この音はもしや……」 テッドの表情が青くなった。 恐る恐る振り返ると、 「トリスタンとの契約は続けるからネ」 小柄な老人が立っていた。口髭を生やし愛嬌のある風貌。 肩には、ウォッシュボードという楽器をかけていた。 「か、会長~~~~!?」 この老人はMUTURAグループの六浦博。 つまりはMUTURAの創業者であり、日本経済界の大物である。 「ちょっと試合を観戦しに来たんだよネ」 スマイルを浮かべるテッド。 「お、お疲れ様ザンス!」 「はいはい。それより――」 カラララッ♪ カッタッタッ♪ カラララッ♪ カッタッタッ♪ 六浦はウォッシュボードを打ち鳴らしながら、 「ゴニョゴニョ」 とテッドに何か耳打ちしたようだ。 「す、すぐにストップするザンス!」 「頼むネ」 「イエッサー!」 テッドは直立不動で敬礼を行った。
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