ルドヴェンティブ
第15話:登竜門

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

『この異音はなんだァ!?』  次々と太鼓のような音が鳴り響きました。  音の方角はインプレスター弐式セカンドの飛行ユニット――翼の部分です。  おそらくは何かが金属に当たった時の音ようですが、 『インプレスター弐式セカンドが〝何かの力〟で押されているぞ!?』  目には見ません!  しかし、何かが当たっているのは確かです!  トリスタン選手とテッドさんは、この謎の現象に戸惑っています! 「奇怪了ヘンですね」 「何をしているでザンスか! 何とかするザンスよ!」 「その昔、我が師父より日本の武術に『遠当て』という技法があると聞きましたが……」 「そんなの幻想ファンタジーザンス! リアルにあるわけないザンス!!」 「では、この現象をどう説明するのですか、ハイ」 「トリックザンス! あの手に何か仕掛けがあるザンス!」  インプレスター弐式セカンドの翼に衝撃が走り、トリスタン選手のコントロールが上手く効きません。  後方、あるいは上下に動かされ、凧のようにふらふらと揺らいでいました。  マシンへのダメージはありませんが、空中からの攻撃を止められたような状態です。 「ふゥむ……確かに何らかの機能ギミックかもしれませんね、ハイ」  トリスタン選手は烈風猛竜ルドラプターの両掌を見ます。 (手の平に筒状のもの――小型の大砲? あそこから何かを発射しているのでしょうか、ハイ)  よく見ると、烈風猛竜ルドラプターの両掌は開口し砲筒のようなものがあります。  あれは一体何でしょうか? 「種明かしして頂けませんかね、ハイ」  そのトリスタン選手の言葉にシュハリは、 「答える気はないね」  と素っ気なく返答し、両手を地面に付けました。 「氷満象アイスマンモーとやらですか? 空に浮かぶ私には――」 「トリスタンさん、あんたペットボトルロケットって知ってるかい?」 「什么?」 「このマシンには、氷満象アイスマンモー用の超臨界水が内蔵されててね」 「だから何ですか、ハイ」 「あんたの動きを止めていたのは『風圧掌エアロブレイク』――空気を圧縮して飛ばす見えない弾丸。平たくいえば空気砲ってヤツだね」 「空気砲?」 「これから理科の授業だ」  その言葉を述べるや否や、 『と、飛んだ!?』  烈風猛竜ルドラプターの両手から水柱が放出! 『こ、これはペットボトルロケットだ!』   赤い龍が空へと打ち上げられたのです! 「鯉の滝登り――」  地上より昇り立つ烈風猛竜ルドラプター。  トリスタン選手の目には見えたのです。  立身出世・成功のための関門を突破する『ドラゴン』の姿が――。 「〝ドラゴン〟となるのですか?」  烈風猛竜ルドラプターは突きを――。 「ヤッ!」  赤龍の牙を――インプレスター弐式セカンドに突き立てます! 『ヒットオオオオオッ!』  突きはインプレスター弐式セカンドの顔面にヒット。  続いて、烈風猛竜ルドラプターはダメ押しを加えます。 「風圧掌エアロブレイク!」 「むゥ!?」  両掌を重ねた構えから空気弾が発射。  インプレスター弐式セカンドは上方へと押し上げられました。  向かう先はドームの天井。トリスタン選手は焦りの表情です。 (操縦が……ッ!)  そして、轟音が鳴り響きました。 『て、天井直撃イイイィィィ!』  インプレスター弐式セカンドは天井に激突。  全身から放電、頭部のバイザーから光が消えました。  意味するところは機能停止です。 「あんたのおなまえ何ァンてェの?」  テッドさんは悔しそうな表情で言いました。  自慢のマシンが、紙飛行機のように落ちる姿を見て唖然呆然。  一方、烈風猛竜ルドラプターは前回り受け身をしながら着地。  そして、シュハリはテッドさんに一言述べます。 「シュハリさ」 ○ BU-ROADバトル 契約ファイター:シュハリ スタイル:??? BU-ROADネーム:烈風猛竜ルドラプター スポンサー企業:紫雲電機 VS 契約ファイター:トリスタン・タン スタイル:カンフー BU-ROADネーム:インプレスター弐式セカンド スポンサー企業:MUTURA 勝者:『シュハリ』 ☆★☆  試合終了後、選手控室でテッドはトリスタンに罵声を浴びせていた。 「お給料ギャラはいくらだと思ってるザンスか!」  テッドは算盤を激しく揺さぶり、 「試合に負けて恥はかくし……小夜子さんとのディナーはパーでんねん……」  赤いハンカチを噛みしめた。 「あァああ~~~~! つらいザンスゥ~~~~!」  芸風が変わるテッド。  トリスタンといえば顔からは笑みがこぼれている。 「日本リーベンにもドラゴンがいましたか。もう一度手合わせしたいですね、ハイ」 「何をおっしゃるザンスか! タンタンに二度目はないザンス!」  テッドは算盤をパチパチと強く弾く。 「負けたから自由契約ザンス! あの灰野と同じザンス! 役立たずザンス!」 「ハイノ?」 「あのシュハリ新人に負けた空手家ザンス!」  シュハリのデビュー戦の相手である灰野は解雇されていた。  このBU-ROADバトルは厳しい――結果を出せない選手は簡単に捨てられるのである。 「ミーの面前から去るザンス! 二度と見たくないザンス!」  カラララッ♪ カッタッタッ♪ カラララッ♪ カッタッタッ♪ 「あきれたボーイだネ」 「ザ、ザンス!?」  ウォッシュボードらしき軽快なリズム音が鳴った。  この控室には別の誰かが入ってきたようだ。 「こ、この音はもしや……」  テッドの表情が青くなった。  恐る恐る振り返ると、 「トリスタンとの契約は続けるからネ」  小柄な老人が立っていた。口髭を生やし愛嬌のある風貌。  肩には、ウォッシュボードという楽器をかけていた。 「か、会長~~~~!?」  この老人はMUTURAグループの六浦博むつらひろし。  つまりはMUTURAの創業者であり、日本経済界の大物である。 「ちょっと試合を観戦しに来たんだよネ」  スマイルを浮かべるテッド。 「お、お疲れ様ザンス!」 「はいはい。それより――」  カラララッ♪ カッタッタッ♪ カラララッ♪ カッタッタッ♪  六浦はウォッシュボードを打ち鳴らしながら、 「ゴニョゴニョ」  とテッドに何か耳打ちしたようだ。 「す、すぐにストップするザンス!」 「頼むネ」 「イエッサー!」  テッドは直立不動で敬礼を行った。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません