倒立した姿勢、フワリと浮いている金属の体、パタパタと動く飛行ユニット。 インプレスター弐式はまるで水鳥、蝶、妖精のようでした。 「流石のタンタン! やはり灰野はダメザンスね! 空手は中国拳法が中途半端に伝わったもの――そうごザンした! さいザンしょ? ザンス! ザンス! ザンねんな人ザンした!」 タラララッ♪ タッタッタッ♪ タラララッ♪ タッタッタッ♪ MUTURA側でセコンドを務めるテッドさん。 よくわからないことを言いながら、算盤を激しく弾いています。 その音に不快感を表すのがトリスタン選手です。 「うるさいですね。それにタンタンという呼び名もお止めなさい、ハイ」 「細かいことは気にしないで下さいな! とどめを刺すザンスよォ~~!」 「言われなくとも……ッ!」 倒立姿勢のインプレスター弐式! 烈風猛竜の頭に当てた掌底を拳へと変えッ! ――風神拳! ボンッ! と炸裂音がドームに木霊しました。 風神拳。 腕に内蔵された火薬を炸裂させ高速で射出する、所謂『アームパンチ』――『インスタント寸勁』と説明してもいいでしょう。 『科学が実現した! 未来のワンインチパンチだァ~~!!』 ミリアの実況が、火薬の匂いと共に興奮の導火線に火をつけました。 ――オオオオオオオオオオッ! 「むせるッ!」 「本物の龍はトリスタンだ!」 興奮する観客達、その中に混じる紫雲電機応援団は沈んだ顔になります。 そこには、仰向けに倒れた烈風猛竜の姿がありました。 「あ、粟橋さん、ヤバイっスよ」 「まともに入っちまったな」 風神拳を起動させたトリスタン選手。 モニター越しに映る烈風猛竜を静かに見ています。 「ふむ……」 「勝ったザンしょ! リベンジ完了ザンス! 雇った甲斐があったザンス! 祝勝会の経費を計算――」 「テッドさん」 「んん?」 「算盤を弾かれるのは早いですよ、ハイ」 その言葉と同時に、 「ハッ!」 倒れた烈風猛竜が跳ね起き! 「せいやッ!!」 気合一閃! 飛び蹴りを放ちましたッ!! 『烈風猛竜は死なずッ!』 ゴンッ! 大きな、大きな金属音が耳に入りました。 『クリティカルヒットオオオッ!』 「ぐぬっ!?」 飛び蹴りが当たったのです。 やっと、やっと一撃が入りました。 蹴られたインプレスター弐式は地に落ちます。 『飛龍不時着ゥ!』 加納さんは不思議そうな顔をしています。 「やられたんじゃなかったんスね」 確かにあの位置ならば当たっていたはずです。それが無事だったのですから。 加納さんの問いに山村さんが答えました。 「単純だよ。ヤツのアームパンチが起動する前に地面に伏せたのさ」 「そ、そんなこと可能なんすか!?」 「シュハリって子の天賦の勘と反射神経さ」 山村さんの言葉に粟橋さんが首をひねります。 「な、なんだよ、その適当な解説は」 「シュハリがあの子なら――ねえ野室さん」 「ああ……」 「あ、あの子って」 「あいつなのか!?」 意味深な言葉――粟橋さんと加納さんは驚いた表情です。 みんな、シュハリの正体が誰なのか予想が出来たようです。 「ご帰還だ」 野室さんの小さな一言。 加納さんはハッと目を開いて言いました。 「そ、そうか! だから社長は自分に――」 「加納、どうしたんだよ」 「粟橋さん! 今は試合を集中してみましょう!」 「い、意味深すぎるだろ」 さて、地に落ちたインプレスター弐式。 ですがトリスタン選手は落ち着いた様子です。 「地功拳ですか」 「地功拳? ああ、地面を背にした中国拳法か。あれは偶々そうなっただけさ」 「天と地、龍と虎の戦いですね、ハイ」 「私は虎になったつもりはないよ」 「ふふっ……そうでした。これは〝龍〟と〝龍〟の戦い」 ――飛翔! 「私はスカイドラゴンってところですかね、ハイ」 『スカイハイ! またもや飛んだぞゥ!』 またもや、空中に飛び上がりました! 「ザンス! ザンス! ハイ! ザンス!」 タラララッ♪ タッタッタッ♪ タラララッ♪ タッタッタッ♪ 「それでもやっぱり! 必勝ザンス!」 セコンドのテッドさんは大はしゃぎです。 算盤を鳴らしながら踊っていました。 「ヤバイね」 一方のシュハリ。再び空に舞い上がったインプレスター弐式を見て構えます。 モニター越しに映る社長は腕を組みながら考えていました。 「空に浮かぶヤツをどう倒す?」 「竜騎士みたいに飛べたらいいンだけど」 「ケイシンコウか。厄介な武術があったもんだ」 社長の言葉に、シュハリはフッと笑います。 「あれは中国拳法の鍛練法だよ。実際に飛んだり跳ねたりして戦う武術じゃない」 「お前よく知ってるな」 「色々と勉強させられたからね」 「そろそろ使うか――風圧掌」 エアロブレイク――その言葉にシュハリがピクリと反応しました。 「まだ隠しておきたいんだけど」 「出し惜しみして、負けるよりかはいいだろ」 「……それもそうだ」 シュハリは両掌を相手に向けて構えました。 これまでの構えよりも両掌をそろえるようにしています。 トリスタン選手はやれやれといった表情です。 「なんですかそれは?」 その問いにシュハリは答えます。 「これから秘密道具を使うから」 「秘密道具?」 「科学には科学で対抗するよ。安全圏から攻撃するセコ拳法家さん、ハイ」 シュハリがトリスタン選手の口調をマネて挑発します。 インプレスター弐式は空中で拳法の構えを取り、 「蹴り潰して差し上げますよ、ハイ」 攻撃に移ろうとしますが、 「風圧掌!」 ドン、 と何かが当たる音が聞こえました。
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