ルドヴェンティブ
第14話:風圧掌

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 倒立した姿勢、フワリと浮いている金属の体、パタパタと動く飛行ユニット。  インプレスター弐式セカンドはまるで水鳥、蝶、妖精のようでした。 「流石のタンタン! やはり灰野空手家はダメザンスね! 空手は中国拳法が中途半端に伝わったもの――そうごザンした! さいザンしょ? ザンス! ザンス! ザンねんな人ザンした!」  タラララッ♪ タッタッタッ♪ タラララッ♪ タッタッタッ♪  MUTURA側でセコンドを務めるテッドさん。  よくわからないことを言いながら、算盤を激しく弾いています。  その音に不快感を表すのがトリスタン選手です。 「うるさいですね。それにタンタンという呼び名もお止めなさい、ハイ」 「細かいことは気にしないで下さいな! とどめを刺すザンスよォ~~!」 「言われなくとも……ッ!」  倒立姿勢のインプレスター弐式セカンド!  烈風猛竜ルドラプターの頭に当てた掌底を拳へと変えッ! ――風神拳マタサ・ブロウ!  ボンッ! と炸裂音がドームに木霊しました。  風神拳マタサ・ブロウ。  腕に内蔵された火薬を炸裂させ高速で射出する、所謂『アームパンチ』――『インスタント寸勁』と説明してもいいでしょう。 『科学が実現した! 未来のワンインチパンチだァ~~!!』  ミリアの実況が、火薬の匂いと共に興奮の導火線に火をつけました。 ――オオオオオオオオオオッ! 「むせるッ!」 「本物のドラゴンはトリスタンだ!」  興奮する観客達、その中に混じる紫雲電機応援団は沈んだ顔になります。  そこには、仰向けに倒れた烈風猛竜ルドラプターの姿がありました。 「あ、粟橋さん、ヤバイっスよ」 「まともに入っちまったな」  風神拳マタサ・ブロウを起動させたトリスタン選手。  モニター越しに映る烈風猛竜ルドラプターを静かに見ています。 「ふむ……」 「勝ったザンしょ! リベンジ完了ザンス! 雇った甲斐があったザンス! 祝勝会の経費を計算――」 「テッドさん」 「んん?」 「算盤を弾かれるのは早いですよ、ハイ」  その言葉と同時に、 「ハッ!」  倒れた烈風猛竜ルドラプターが跳ね起き! 「せいやッ!!」  気合一閃!  飛び蹴りを放ちましたッ!! 『烈風猛竜ルドラプターは死なずッ!』  ゴンッ!  大きな、大きな金属音が耳に入りました。 『クリティカルヒットオオオッ!』 「ぐぬっ!?」  飛び蹴りが当たったのです。  やっと、やっと一撃が入りました。  蹴られたインプレスター弐式セカンドは地に落ちます。 『飛龍不時着ゥ!』  加納さんは不思議そうな顔をしています。 「やられたんじゃなかったんスね」  確かにあの位置ならば当たっていたはずです。それが無事だったのですから。  加納さんの問いに山村さんが答えました。 「単純だよ。ヤツのアームパンチが起動する前に地面に伏せたのさ」 「そ、そんなこと可能なんすか!?」 「シュハリって子の天賦の勘と反射神経さ」  山村さんの言葉に粟橋さんが首をひねります。 「な、なんだよ、その適当な解説は」 「シュハリがあの子なら――ねえ野室さん」 「ああ……」 「あ、あの子って」 「あいつなのか!?」  意味深な言葉――粟橋さんと加納さんは驚いた表情です。  みんな、シュハリの正体が誰なのか予想が出来たようです。 「ご帰還だ」  野室さんの小さな一言。  加納さんはハッと目を開いて言いました。 「そ、そうか! だから社長は自分に――」 「加納、どうしたんだよ」 「粟橋さん! 今は試合を集中してみましょう!」 「い、意味深すぎるだろ」  さて、地に落ちたインプレスター弐式セカンド。  ですがトリスタン選手は落ち着いた様子です。 「地功拳ですか」 「地功拳? ああ、地面を背にした中国拳法か。あれは偶々そうなっただけさ」 「天と地、龍と虎の戦いですね、ハイ」 「私は虎になったつもりはないよ」 「ふふっ……そうでした。これは〝ドラゴン〟と〝ドラゴン〟の戦い」 ――飛翔! 「私はスカイドラゴンってところですかね、ハイ」 『スカイハイ! またもや飛んだぞゥ!』  またもや、空中に飛び上がりました! 「ザンス! ザンス! ハイ! ザンス!」  タラララッ♪ タッタッタッ♪ タラララッ♪ タッタッタッ♪ 「それでもやっぱり! 必勝ザンス!」  セコンドのテッドさんは大はしゃぎです。  算盤を鳴らしながら踊っていました。 「ヤバイね」  一方のシュハリ。再び空に舞い上がったインプレスター弐式セカンドを見て構えます。  モニター越しに映る社長は腕を組みながら考えていました。 「空に浮かぶヤツをどう倒す?」 「竜騎士みたいに飛べたらいいンだけど」 「ケイシンコウか。厄介な武術があったもんだ」  社長の言葉に、シュハリはフッと笑います。 「あれは中国拳法の鍛練法だよ。実際に飛んだり跳ねたりして戦う武術じゃない」 「お前よく知ってるな」 「色々と勉強させられたからね」 「そろそろ使うか――風圧掌エアロブレイク」  エアロブレイク――その言葉にシュハリがピクリと反応しました。 「まだ隠しておきたいんだけど」 「出し惜しみして、負けるよりかはいいだろ」 「……それもそうだ」  シュハリは両掌を相手に向けて構えました。  これまでの構えよりも両掌をそろえるようにしています。  トリスタン選手はやれやれといった表情です。 「なんですかそれは?」  その問いにシュハリは答えます。 「これから秘密道具を使うから」 「秘密道具?」 「科学には科学で対抗するよ。安全圏から攻撃するセコ拳法家さん、ハイ」  シュハリがトリスタン選手の口調をマネて挑発します。  インプレスター弐式セカンドは空中で拳法の構えを取り、 「蹴り潰して差し上げますよ、ハイ」  攻撃に移ろうとしますが、 「風圧掌エアロブレイク!」  ドン、  と何かが当たる音が聞こえました。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません