「すぐに終わらせてやる!」 「いちいち噛ませ犬っぽいセリフを吐くね」 「ほざけ! モビルエンジン起動ッ!」 灰野選手の声に合わせ、エンジン音とモーター音が響き渡りました。 インプレスターの脚部に取り付けられたタイヤが高速回転します。 どうやら最初に攻撃を仕掛けるのはインプレスターのようです。 ――ブロロン! インプレスターは高速で直進していきます。 まるでF-1のようなロケットスタートでした。 「つァッ!」 灰野選手は気合と共に技を繰り出しました――正拳突きです。 その動きに合わせてインプレスターも同様の動きをしました。 このBU-ROADは操縦者の脳波や動きを読み取り、生身の動きを再現することが出来る機体なのです。 『ヒット! まともに顔面に入ったッ!』 インプレスターの一撃がまともに入りました。 烈風猛竜がギシギシと音を立てながら後退します。 シュハリのモニターに映る社長は心配した様子で話しかけました。 「お、おい! 大丈夫か!?」 「スマン、ミスったわ」 そう答えるシュハリ、声のトーンから言って楽しんでいる様子です。 社長は思ったでしょう。 「こいつワザと当てさせたな」と――。 「仕留めそこなったか!」 インプレスターは間合いをとります。 おそらく機動性を駆使して闘うつもりのようです。 一方の烈風猛竜は再び変則的な構えを見せます。 「いい一撃だったけど、単発じゃ倒せないよ」 「だからどうした!」 灰野選手は再び叫びます。 「モビルエンジン起動ッ!」 前屈立ちの姿勢のまま突進してきます。 対する烈風猛竜は地面に手を付けました。 「冷却装置――氷満象!」 シュハリの言葉に音声認識システムが反応します。 するとどうでしょうか、烈風猛竜の手からモクモクとした煙が出ました。 それは排気ガスとは違う、白く冷たいもの――ドライアイスに水をかけたときに発生する煙。 水蒸気が冷却されたことにより発生する煙でした。 「ありゃなんだ!?」 「お、おい見ろよ!」 観客達が試合場の床を指差します。 『な、なんと!? 地面が凍り始めたーっ!』 地面が雪国のアスファルト道路みたいに凍結していたのです。 「ぐッ!?」 灰野選手から焦りの色が見えました。 それもそのはず、インプレスターはスリップして体制を崩したのです。 シュハリはそんなインプレスターに笛を吹くマネをしながら挑発します。 「スピード違反と路面凍結に注意!」 「ちィ!」 出鼻をくじかれたインプレスターは体制を戻します。 凍結する地面に苦労しながらも何とか構えます。 「今度からはタイヤチェーンを装備するんだね」 シュハリはそう述べ、烈風猛竜を起動。ゆっくりと間合いを詰めていきました。 凍結した不安定な足場なのに何故動けるのでしょうか? 『おっと!? よく見ると進む方向に烈風猛竜の足型がついているぞ!』 その秘密は烈風猛竜の脚部にあります。 機体の足部から高熱の遠赤外線が放射され氷を溶解していました。 社長曰く、この機能は電気ヒーターの技術を応用したものだそうです。 「その足場じゃ攻撃できないだろ?」 烈風猛竜は既に至近距離の間合いに入っていました。今のところ、機動性では圧倒的に烈風猛竜に分があります。 インプレスターの方は凍結した地面で攻撃しても手打ちで、大したダメージを与えることは出来ないでしょう。 ですが、これしきのことで勝利を諦める灰野選手ではありません。 「モビルエンジン起動ッ!」 モビルエンジンを再び起動します。 エンジン音と共にタイヤが高速回転していきます。 破れかぶれになったのでしょうか? 「シャッ!」 いえ、逆にワザと転倒したのです。 それも斜め45度前方に上手く転倒、これは偶然ではない計算された位置取りです。 機体は上下反転、左手の位置は地面、右足は烈風猛竜の頭部へと向けられます。 これは灰野選手が得意とする必殺技。 『紅蓮華輪ッ! 炸裂だァ!』 紅蓮華輪。 灰野選手が得意とする変則蹴りの名称。 それはカポエラに似た逆立ち姿勢からの奇襲技ですが――。 パシッ! 「なっ!?」 『軸手を払ったーっ!』 左手を烈風猛竜の下段蹴りで払われました。 そのままの勢いで、インプレスターは地面に叩きつけられます。 機体は放電していますが機能停止までは至らず。まだまだ闘えます。 「完璧なタイミングだったはずだ」 ショックを隠せない様子の灰野選手、技が外れたから当然とも言えるでしょう。 一流ならここで切り替えるところでしょうがまだ放心状態。 灰野選手のメンタルはまだ未熟といってもいいのかもしれません。 「立ちな」 烈風猛竜は、アクション映画俳優のように指で手招きします。 「場所を変えよう、今のあんたを倒しても面白くない」 「ぐっ……くうッ!」 烈風猛竜は凍結していない試合場エリアまで移動。 試合開始の時に見せた変則的な構えをしながら対峙します。 灰野選手は焦りと屈辱感を現す表情――どこか悲壮感が漂います。 「負けられるかよ……負けたら俺は……」 灰野選手はバーサーカーのように咆哮をあげました。 「ウオオオオオオオオッ!」 そのまま突進していきます。 それは追い詰められたものの心理でしょうか? それとも――。 ガギィッ! 鈍い金属音が響きました。 烈風猛竜の中段突きがインプレスターの胸部に炸裂、拳型に陥没しています。 残心を取りながらシュハリは静かに言いました。 「攻撃が荒っぽいよ」 「ク、クソ……」 「結構楽しめたよ」 インプレスターは動力源となるエンジンは故障、機能停止です。 『WINNER! 烈風猛竜ッ!』 ○ BU-ROADバトル 契約ファイター:シュハリ スタイル:??? BU-ROADネーム:烈風猛竜 スポンサー企業:紫雲電機 VS 契約ファイター:灰野秀児 スタイル:実践空手 BU-ROADネーム:インプレスター スポンサー企業:MUTURA 勝者:『シュハリ』※デビュー戦勝利
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