「あの、社長これは?」 「あそこを見な」 私の質問に社長はニヤつきながら指差します。方向は烈風猛竜の頭の上です。 加納さんが困惑した表情で野室さんに尋ねました。 「ひ、人っスよね?」 「……みたいだな」 烈風猛竜の頭の上には人の姿がありました。 特撮に登場するようなヒーローのように腕組みをして立っています。 「あ、怪しすぎる……!」 粟橋さんの言葉に私も同意です。 カーキ色の覆面を被っています。それも簡素な作りで、目のところに穴が開いているだけ。 服装は黄色のラインが入った紺色のジャージ姿。 ヒーローのようなポーズをしていますが、どちらかというと怪人側です。 「同じ年くらいだな。ちょっと安心した」 シュハリは跳躍の姿勢を取りました。 あの高い位置から飛び降りるのでしょうか? 山村さんが首をひねります。 「あそこから飛び降りるのかな?」 「ま、まさか」 トッ! 私の言葉に合わせるかのようにシュハリが飛び降りました。 下にはクッションも何もありません。 烈風猛竜の全高は4.1m――ロボットアニメに出て来るようなマシンと比べると小さいサイズですが、二階建ての住宅と同じくらいの高さなので下手をすると大怪我をします。 「あ、危な――」 危ない――そう言いそうになりましたが、 「よっと!」 シュハリは羽毛のようにふわりと飛び降りました。 まるでスタントマンか忍者のような軽やかさです。 着地したのは丁度、私の目の前。 「君、オレと同じ歳くらいに見えるけど?」 シュハリは男とも女ともいえるような中性的な声です。 身長はたぶん165㎝くらい? 小柄で細身です。 それにしても距離が近すぎます。キスが出来そうな顔の位置なのでドキッとします。 マスクから覗かせる目は黒く澄んだ瞳でした、何だか吸い込まれそうです。 「こ、今年で二十三歳だけど……」 「へェ~~私の1個上か」 シュハリは男とも女ともいえるような中性的な声です。 でも私の年齢よりは一つ下ということは22歳、若いということだけはわかります。 社長はフッと息を吐くと、シュハリの肩をトントンと叩きます。 「……お前近すぎだぞ」 「ん?」 「パーソナルスペースに入り過ぎている」 社長の言葉を聞いたシュハリは頭をかきます。 「これは失礼しました先輩」 「せ、先輩?」 みんながキョトンとしていると、社長が改めて紹介します。 「烈風猛竜の操縦者となるシュハリ君だ」 「はじめましてー! シュハリでーす!」 シュハリは両手でVサインをしています。 社長はそんなシュハリを見て咳ばらいをします。 「コホン……社会人としての教育が必要な面が多々あるがよろしく頼む」 「こんな挨拶じゃダメなのか?」 「あのな、ここは大学のサークルじゃないんだぞ」 「アスパラ、オレは大学に行ってないぞ」 「そういう問題じゃない! てか誰がアスパラじゃっ!」 漫才のようなやりとりをする二人、会話から察するに古くからの知り合いなんでしょうか? この怪しげなシュハリに、みんな沈黙のまま。正確には『何も言えない状態』と申しましょうか……。 紫雲電機が契約する方が、こんな怪しい人だとは誰も思いません。 「信頼していいのかよ、こんな色物」 「むっ……」 粟橋さんの小声にシュハリは反応したようです。小柄な体をグイグイと近付けました。 「お前さん、オレの実力を疑ってンな? こんなチビに何が出来るんだと?」 詰め寄られた粟橋さんは反論します。 「体格はBU-ROADバトルに関係ねェよ。マシンでの殴り合いなんだから」 「なら、その懐疑心に溢れかえった目はやめろよな」 「素性の知れない相手をどう信じろってんだ」 その言葉に、みんなは口に出さないだけで同調しているようです。 それは私も同じ、例え社長が信頼して連れて来た人であろうともです。 どこの誰かもわからないような人に、会社の一大事業を託していいのか疑問です。 少し重苦しい雰囲気になったところで社長が言いました。 「軽く実力を見せてやれよ」 ☆★☆ 「久しぶりだな」 シュハリはVRメットとプロテクターを装着。 倉庫内にポツンと案山子のように立ったままです。 「準備はいいか?」 社長の言葉にシュハリは手を振ります。 「いつでもOK牧場」 私達はPCモニター前に集まっています。そこには3DCGの白い人型マシンが映っていました。 今から行うのはBU-ROADバトル用SLG『修闘』。トレーニングで使用するVRゲームです。 「野室、設定は?」 「こんな感じだ」 野室さんは設定画面を社長に見せています。 社長はニヤリとしていました。 「んじゃ始めてくれ!」 ――GAME START! 社長の合図と共にゲームがスタート。 対戦相手はCPU、赤い人型マシンでアップライトに構えています。粟橋さんが野室さんに尋ねました。 「タイ式か?」 「仮想相手にルンピニードームのランカーを選んだ」 「マジっスか! いきなりキツ過ぎません?」 加納さんが心配するのも当然でした。 タイのルンピニードームは、BU-ROADバトルのレベルが非常に高くて有名。 操縦者のレベルは高く、純粋な格闘戦だけなら一流クラスと言われています。 粟橋さんは腕を組みながらモニターを凝視します。 「お手並み拝見とさせてもらうぜ」 ガシン! PC画面のスピーカーから機械音が響きました。 まずCPUが攻撃を仕掛けたようです。出した技はローキックです。 ――HIT! 「は、速い!」 私は思わず言ってしまいました。 速すぎるほど速い蹴りでしたので……。 「動きにラグがあるな」 「蓮也、中古品のソフトといってたがコレ海賊版だろ?」 「……路地裏の怪しい店で買った代物だ」 「やっぱりな」 社長と野室さんは何やら話し合っているようですが……。 ――WINNER! PLAYER! 「えっ?」 モニターはプレイヤーの勝利表記がされています。 シュハリの勝利? ですが先に攻撃したのはCPUだったような? 「ゲージを見てごらん」 「ゲージ?」 私は山村さんに促されて見ると、CPUのゲージがゼロになっていました。 「あっ!」 「よくバグを起こしてね。ゲージ0でもCPUが動く時があるんだよ」 「あの一瞬で?」 「顔面に上段蹴りを一発、肘打ちを二発、最後は喉仏に一本拳を打ち込んだ」 「よ、よく、わかりましたね」 「まあね」 社長はニコニコしています。 「認めてくれるな」 「模擬戦とはいえ、高いレベルなのは間違いないですからね」 粟橋さんを始め、みんな納得した様子です。 シュハリ、紫雲電機の契約ファイターであり。 「よし、そんなわけで岡本君」 「はい?」 「シュハリは広報部に働くことになるから」 私の後輩になりました。
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