「兎角! 浮世はソロバン勘定! パラリと払って~~~~……ッ!」 タラララッ♪ タッタッタッ♪ タラララッ♪ タッタッタッ♪ 時代にそぐわぬ計算機『算盤』を弾く男がいた。男の名はテッド星。 MUTURAのBU-ROADバトル事業統括の責任者である。 「妨害するのも♪ 企業の事情♪」 リズミカルに弾く指、軽快なダンスを踊る。細身でヒゲを生やしたスーツ姿。 フォックス型のメガネから、如何にも神経質そうな男であるが、 「なんだかんだと今更どうも! ザァ~~ンス!」 随分と機嫌が良さそうだった。 「今日は必ず勝てるザンスゥー!」 天下のMUTURAが紫雲電機なるベンチャーに負けた。 顔に泥を塗られた。 必ず復讐してやる、とあらゆる布石を打った。 「うるさいですよ、ハイ」 操縦用の機器を装備した男が迷惑そうな顔をした。 髪を短く刈り込み、顔は面長でどこか猛禽類を思わせる風貌――また褐色の肌が強さを感じさせる。 男の名前はトリスタン・タン。香港出身の格闘家である。 「ご、ご破算ザンス」 テッドはうなだれる。まるで父親に叱られた子供のようだ。 「ふふっ……」 二人のやりとりを見ている女性がいた――飛鳥馬小夜子。アスマエレクトニックの技術主任だ。 ライバル企業であるMUTURAと何故共にしているのだろうか、という疑問があるだろう。 「星さん。今日の試合は期待していますよ」 「ザァ~~ンス!小夜子さんには感謝、感謝の味のなんとかザンス! MUTURAにリベンジマッチをご用意して頂き! 誠にありがとうォ~~ザンス!」 「例には及ばないわ。個人的な事情でやったことですもの」 「さいザンスか。あの娘、この娘も、家庭の事情。深入りはしないザンスが……」 メガネを星のようにキラリと光らせるテッド。 小夜子のスレンダーなモデル体型を、上から下までじっくりと見て算盤を弾く。 「試合後にディナーでも?」 「勝てたらね」 タラララッ♪ タッタッタッ♪ タラララッ♪ タッタッタッ♪ 「タンタン! 今日は絶対勝つザンスよオオオッ!」 パシッ! キレのいい風切り音がする。トリスタンが跳躍して飛び蹴りを放ち。 トンッ! と着地、まるでアクションスターのような決めポーズを披露する。 「その名で呼ぶのはやめて頂けませんかね。私はパンダじゃありませんよ、ハイ」 二人が会話中、トリスタンはウォーミングアップとして套路。 つまり、中国拳法式の型を演じていた。 トリスタン・タン――彼は散打名人である。 ☆★☆ 『レディース! アンド! ジェントルマン!』 試合が始まりました。 『これより――』 ビジョンに映るミリアが右手拳を突き出します。 ここまで、第4ゲームが終了しています。 『第5ゲームは、燃えよドラゴンな対戦だァ!』 ミリアは鼻をこすります。 『BU-ROADバトル! 開始ッ!』 伝説的なアクションスターのモノマネです。 ○ BU-ROADバトル 契約ファイター:シュハリ スタイル:??? BU-ROADネーム:烈風猛竜 スポンサー企業:紫雲電機 VS 契約ファイター:トリスタン・タン スタイル:カンフー BU-ROADネーム:インプレスター弐式 スポンサー企業:MUTURA 相手は再びMUTURA。 今度の操縦者は格別です。 トリスタン・タン、香港の拳法使いで擂台と呼ばれる格闘技大会で何度も優勝。 それだけに飽き足らず、ヨーロッパやタイへと渡り地元のキックボクサーやムエタイ使いと対戦し勝利した強豪。 その実力を見込まれ、MUTURAと契約。その契約金額は破格でした。 このように鳴り物入りでBU-ROADバトルの世界に来ましたが、当初は異質な機械格闘に対応できるのかと不安視されましたがすぐに順応。 今では着々と勝利を積み重ねて、日本のBU-ROADバトル界も制覇しそうな勢いです。 「お手柔らかに」 トリスタン選手が『抱拳礼』と呼ばれる中国武術式の挨拶をします。 操縦するマシンは、インプレスター弐式。 その名の通り、シュハリがデビュー戦で対戦したインプレスターの兄弟機です。 見た目はほぼ変わりません。強いてあげれば、カラーリングが空色に塗装。 背部には昆虫の羽のようなユニットが装着されています。 そのユニットが意味することは、試合が始まればわかることでしょう。 「試合の動画を見せてもらったよ。あんたと戦えて光栄だ」 シュハリは頭を下げています。日本武道式の礼です。 互いに一礼し構えました。 「功夫映画かよ!」 「トリスタン、奥義を見せたれ!」 「覆面ちゃん! ファイト!」 飛び交う観客の声援。 トリスタン選手は笑いました。 「あなたも功夫を?」 「オレのは日本武道だよ」 「日本武道?」 「まっ……大昔に大陸出身の弟子がいたようで、技法の影響はあるかもしれないが」 「興味がありますね。あなたの流派を教えて――」 「それは秘密!」 先制したのはシュハリこと烈風猛竜! 独特の花を開くような構えのまま前進! 「ハッ!」 左ジャブ! 右ロー! 左肘打ち! 右ハイ! 左右に揺さぶりをかけながら攻めていきますが、 「憤ッ!」 弾いたり、かわしたりと軽快な動きで捌きます。 「行きますよ、ハイ」 次はトリスタン選手の攻撃です! 放った技、全てが蹴り技です。変幻自在の蹴りは目で追いつけません。 『す、凄いぞ! 蹴り技の申し子だ!』 嵐のような蹴り技を、烈風猛竜はブロッキングにより防戦一方です。 シュハリのモニターに映る社長が声をかけます。 「蹴られっぱなしだぞ!? マシンの修理費が――」 「マシンより、オレの心配をしなよ」 シュハリは烈風猛竜を起動させ反撃です。 蹴りの間合いとリズムを読み、右下突きを放ちます。 ――飛翔! が、外されました。 インプレスター弐式は、背部に装着したユニットを展開。 羽を広げ、 「なかなかの拳法家ですね、ハイ」 空を舞っていたのです。
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