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 トレーニングを終えたイクスが、こちらに戻ってくる。 「どうだい調子は?」 「完璧ですわ」  イクスは、マシンを降りた。 「そりゃそうだろう。俺の科学力は完璧だ」 「飛翔や降下も、なにひとつ問題ありませんでした」 「そいつはよかった」  飛翔機能について、コデロは用事があったのを思い出す。 「ノーマンだったか? そっちのあんちゃんはどうだい?」  ダニーが、ノーマンにも語りかける。 『魔力を大量に消耗する以外は、すばらしい機能だと思います』 「そいつは問題だな。調節すらあ」  職人ゆえのこだわりか、ダニーはエンジンを調べ始めた。  「頼みたいことがあるのですが。ダニー、いいですか?」 「なんなりと」  コデロの話に耳を傾けつつ、ダニーは作業の手を休めない。 「向こうの島へ行く改造は、可能ですか?」 「ムリだ」  あっさり断られる。 「言うと思っていたよ。イクスからも同じように頼まれた。だが言っておく。不可能だ」 「理由は?」 「遠すぎる」  立ち上がったダニーが、折りたたみ式の机を出した。この付近の地図を広げる。 「ここがレプレスタだ。で、この豆粒みたいなのが島な」  距離が遠い。渡るまで何日かかるのか。 「陸路じゃねえんだ。おそらく、島に辿り着く前にドボン、だぜ」  ダニーの目測によると、ムリらしい。  二人の魔力量では、限界があるという。 「マシンをもっと大きくして、大量に魔力石を搭載すれば」 「重量で、飛翔機能が死ぬなぁ」  コデロのアイデアは、秒で却下された。  『では、海路は?』  リュートの住む地球には、ジェットスキーがある。 「水上バイクか。浮力を使って進むってか。まあ、できなくはない。が、それでもムリだ」  ダニーの科学力を持ってすれば、海の上を統べることだって可能なはずだ。  しかし、ダニーは難色を示す。 「なぜ?」 「あの島に取り付こうとした船が、全部沈められている。軍用船でも不可能だったらしい」  海に何が待ち受けているのかすら分からない。  障害かトラップを乗り越えて島に取り付いたとしても、消耗しすぎて動けなくなるのは明白だ。  目の前に、デヴィランの基地があるかもしれないのに。 「でもよ、島から魔物がやってきたなんて、聞いたことないぜ」  レプレスタの冒険者ギルドに詳しいクリスが言う。 「そうなのですか?」  てっきり、翼竜怪人は島を渡ってきたと思ったのだが。 「イクス、レプレスタに海の魔物伝説などは?」 「海竜伝説なら。ですが、あれは嵐を魔物に擬態化した都市伝説でしたわ」 「では、嵐を人工的に作っている、なんて言い伝えは?」 「聞いたこと、ありませんわ」  さすがに、突拍子もなさすぎたか。 「わたくしもそう思って、ワイバーンを解体してみたのですが」 「遠距離移動できる機能なんて、持ち合わせていなかったぜ」  ダニーがわからないのだから、誰にも解明できないだろう。 「島自体がトラップってのは……ねえか」 「面白いアイデアだが、非効率的だな」 「そうか。忘れてくれや」  クリスもアイデアを出していたが、ダニーから却下される。 「その実態を調査するため、わたくしはこれより西に向かいま す」  再度バイクにまたがり、イクスはコデロに告げた。 「西とは、レプレスタと対立していた」 「そう。アロガント家の跡地へ」  遥か西を見据え、イクスは車体を出口へと向ける。 「しかし、アロガントは随分と昔に滅びたと」 「野盗が棲み着いたのかも知れません。あるいは、生き残りがいる可能性も」  早く現地へ向かいたくて、仕方がないという様子だ。 「待ちなさい。まずは、一旦家に帰りましょう」 「どうして?」 「今動くと、お城に怪しまれます。夜を待ちましょう」  なおもイクスは強行しかねない。  仕方なく、コデロもバイクをダニーに預けた。    これで、イクスは外出できない。 「仕方ないですわね。では、今夜またお伺いしますわ」 「おう。調節をしておくぜ」  夜二二時に集合と決めて、ここは一旦城へ戻る。  イクスと入浴した後、夕食をいただく。  自室で食べるとイクスは言い出したが、これ以上王との距離を話すのはかえってよくない。  コデロも食卓を囲む。食客だから、構わないだろう。 「コデロ様、お口に合いますかな?」  国王が、コデロに気を使って語りかける。 「ええ。健康的なお味がします」  わずかながら肉が少なめで、薄味だ。  しかし、それはコデロがミレーヌのカレーに馴染みすぎているせいである。  ヘルシーといえばちょうどいい。  とはいえ、イスリーブ王子はため息を止まようとはしなかった。  テーブルマナーさえなければ、添え付けのオニオンスープをおわかりしたいだろう。  コデロも、同じ気持ちだ。 「祭りの準備は滞りなく行われているそうだ。しかし、また魔物が襲ってくるやも知れぬ。警備を怠るなよ」  同席している配下の兵士に、国王は声をかけた。  兵士たちは一礼して、引き上げていく。 「催し物の件だが、イクスは何を行う気だ?」 「内緒ですわ。今、お話しをしてしまうと、王子様の興を削いでしまいますから」  うまいこと、イクスは逃げた。  ノープランだが、嘘はついていない。

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