激闘から一夜明け、コデロはミレーヌの店で目を覚ます。 イクスとの話し合いをした直後、真っ先にミレーヌの元へ顔を出した。城には帰らず、朝食は不要と告げている。 泥のように眠り、起きたのは昼前という有様。 カレーを食べる余裕さえなかったほどである。 「生き返りました。やはり、ミレーヌのカレーが一番です」 鍋いっぱいのカレーを平らげて、コデロは満足した。 「うふふ。ありがとコデロ」 コデロの食べっぷりに、ミレーヌも満足げである。 「大した食いっぷりだねぇ」 「そういうアテムこそ」 この場には、ラキアスとアテムも同席していた。 コデロが遅いから呼びに来たのである。 アテムのテーブルには、あんみつ用のガラス皿が大量に重なっていた。 「我が家の料理は、お口に合いませんか?」 ラキアスが聞くと、コデロは首を振った。 「決して嫌いなわけでは。ただ正直、精進料理のようなメニューは半日で飽きました。一度経験すれば満足です。いつから食客は、囚人と同レベルになったのか」 「おいしくなかったのですね」 素直な感想が聞けて、ラキアスは満足げである。 「いえ、ここのカレーに勝る料理はないのです」 コデロはずっと、ミレーヌのカレーが恋しかったらしい。 レプレスタの食客など、引き受けるのではなかったと、後悔している様子だ。 「あたいも同感だね。あんみつを毎日食べられるなら、お貴族様の料理が一生食べられなくたっていいくらいさ」 ミレーヌの料理が素晴らしい。二人の戦乙女の意見が一致した。 「それにしても、新メニューはバッチリのようですね」 今回食べたのは、ミレーヌの考案した新作カレーだという。 ベースはスープカレーだった。 具はペースト状の野菜と、骨付きのチキンだ。 米も白米ではなく、サフランライスを用いたような。 「わかった? スープカレーにして、スパイスを強めにしたの。エルフに出すときは、ゴハンも豆を追加して、ハーブも利かせるようにしているわ。ボリュームも少量にして」 ビーフカレーが売りだと思っていたが、チキンにも合う。 「よく考えられたメニューかと思います。やはりミレーヌは天才ですね。こんなメニューを一人で考案なさって」 「いいえ。ラキアス様が考案してくれたのよ?」 意外な人物の名前が出て、コデロは驚く。 「エルフの一般人を集めてあたしのカレーを食べるように、ラキアス様が指示したの。で、感想をもらって、改良を重ねたのがこれってわけ」 現地の好みは、土地の人間に聞かないと、と思い知らされたと、ミレーヌは語る。 「大した人です。これだけの成功を収めている人は、たいてい増長してしまうものです。けれど、ミレーヌの探究心には頭が下がります」 「そんな大層なものじゃないわ。この土地の人と仲良くなりたいだけ、かなぁ」 頬杖をつきながら、ミレーヌは笑う。 「あたしの味を押し付けたんじゃ、お店が繁盛したって言えないわ。この地にだって、好みがあるんだから。あたしはこの地に馴染める味が作りたかったの」 ミレーヌは売上より、まず客の笑顔を優先する。 見ていて気持ちがいい。 「あなたは、澄んだ心をお持ちですね。癒やされます」 「どういたしまして」 ミレーヌの話を聞きながら、コデロは考え事をしていた。 『どうしたんだ、コデロ?』 「そうです。お話しにいくのはどうでしょう? 妖精の森に、お話を伺いませんか?」 『なるほど。いい考えだ』 よくよく考えてみたら、レプレスタの王家とは会話していたが、エルフ族とはまったく面識がない。 コンタクトを取ってみたら、敵の正体を探れるかも。 エルフ族を恐れず、ミレーヌは話を聞いて回ったのだ。 コデロも見習おうと思ったのだろう。 『とはいえコデロ、コネクションはあるのか?』 「いい方がいらっしゃいますよ」 善は急げと、コデロはとある場所へ。 「それで、吾輩の元へ来たと?」 コデロがゲストとして選んだのは、ノアとダニーである。 魔法石の有効活用という名目で、二人に対話を担当してもらうことにした。 ノアのホームである魔道具研究所にて、話し合いに。 「吾輩はドワーフだ。エルフ族、それもウッドエルフとは犬猿の仲だと知ってて、誘っているのかい?」 太古の戦争で、ドワーフはエルフと技術を競い合っていたという。今もその因縁は根強いらしい。 「あなた以外の適任者はおりません」 一度断られたくらいで、コデロはめげなかった。 「魔除けを製造して、あなたはライバルであるエルフ族を守っている。きっと話し合いの場に応じてくれますよ」 「ドワーフであることを断る条件にするって言ったらよぉ、俺だってノームだ。条件は同じさ。ノア」 ダニーが、コデロに助け船を出す。 「わかったよ。すぐに用意する。ラキアス、キミは我々が森に入れるよう手配してくれ」 「もう、しておりますわ」 気がつくと、アテムの姿がない。 先にエルフの森へと向かったようだ。 「あなた方が来るとの報は、アテムに手紙としてもたせています」 「仕事が速いね。さすができる貴族は違うよ」 ノアが指を鳴らす。 「エルフ王には、土産話があるんだ。エルフ族の闇を暴く内容なので、伝えるべきか悩んだけれどね」 「ああ、あの話か。俺も聞いて、目ン玉が飛び出たよ」 思わせぶりにノアたちは言った。 言葉の続きを、コデロは求める。 が、「当日までのお楽しみ」とノアにはぐらかされた。 「出発は、明日だ。その前にラキアスとお城へ行ってきな」 「ありがとう、ダニー。ノアも。では、行ってきます」
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