「シャイニングフォームだと⁉ なぜだ、なぜ貴様のような素人に、コウガのすべてが引き出せるのだ⁉」 理解できないとばかりに、オオカミ大怪人はうろたえる。 『哀れなヤツだ』 「なに!? この帝王を前にして、憐れむとは!」 『悲しいヤツだよ、お前は。コウガがお前を選ばなかった理由が、よく分かる。お前の邪悪さを、コウガはとっくに見抜いていたのだ。それに気づかないなんて』 「黙れ! 貴様はコウガの代弁者にでもなったつもりか! コウガを指さしながら、オオカミ上位怪人がわめく。 「本来、コウガは物言わぬ戦闘兵器だ! 黙って我の腰に落ち着いていればいいものを!」 『お前の実力では、コウガに遠く及ばないさ。コウガを手に入れたとしても、その性能を何一つとして引き出せなかっただろう』 「ぬかせ、人間の分際で!」 オオカミ上位怪人が、コウガのボディに爪を振り下ろす。 「ぎゃあああ!」 だが、コウガには傷一つ付けられない。 むしろ、爪の方がズタズタになっていた。 「これが、コウガの新たな力だというのか!」 『コウガが強いのではない。お前が弱いのだ!』 「聞いていれば、ぬけぬけと! 我は世界最強の魔物となったのだぞ!」 『その世界最強が、聞いて呆れるな! トゥア!』 オオカミ怪人に、拳を叩き込む。 特に名前のないパンチだ。 タダのラッシュ、ただの暴力でしかない。 それでも、このゲスには痛みが必要なのだ。 防御している怪人の腕すら破壊する。ガードのスキマから、アバラを砕く。 怪人の顔を防いでいる腕が、ダラリと落ちた。 すかさずハイキックを浴びせる。 怪人の身体が、岩場に吹っ飛んだ。 「なぜだ。なぜこうも翻弄される。たかが人間にぃ!」 上位怪人は立ち上がるが、もはや足に力が入っていない。 『言ったはずだ。コウガが強いのではない。お前が弱いのだと。人間の強さを、平和を愛する心がどれだけ強いかを理解しないお前に、正義が負けるわけがないんだ!』 人としての強さを捨てて、醜い怪人となり果てた魔王ごときが、人間の底力に勝てるはずがない。 『とどめだ。トゥア!』 腰を低くして、コウガは大地を蹴る。 『憤激・改!』 「この男は、天国へも、地獄へと行かせません」 『その通りだ! 存在を魂すら残さず、消滅させる!』 この世界に、怪人は存在してはならない。 灰一つ残すことすら、許されないのだ。 空中で、コウガは足刀を突き出した。 怪人に向かって、急降下する。 月の光を背に感じながら。 「コウガ・シャイニングキック!」 いつもならリュートが叫ぶ技名を、「コデロが」叫んだ。 怪人の胸に、コウガは光子剣と化した右足を突き刺す。 剣を伝って、コデロの怒りが怪人に流れ込んでいく。 「っぎいいいい!」 怪人は剣を抜こうとするが、憎しみに根が張っているかのように、抜ける気配がない。 赤い魔力の奔流が、血管のように怪人の全身に浮き出る。それはヒビとなって、怪人を分解していった。 オオカミ大怪人の胸が、爆裂する。 衝撃波で、コデロも後ろへ回避した。 「コーデリア、貴様さえいなければあああああああああああああああああっ!」 最後まで恨み言を叫びながら、魔王を騙るオオカミ大怪人は爆発、四散した。灰すら残さずに。 [オリベ・リュート!] リュートの耳に、ノアの声が聞こえた。 『ノア、無事か?』 [嫌な予感がしたから、みんなでドランスフォードに赴いたんだ] アテムにミレーヌのボディガードを頼み、ダニーの操縦する自動車に乗って。 [案の定、大変なことになっているらしいね。だが、安心してほしい。転送装置は生きている。もう一度、こちらの世界に戻れるよ] 『世話になる。ただちに……』 帰ろうとした矢先、両親が目に飛び込んだ。 「リュート!」 父から声をかけられて、コウガは振り返る。 「お前、リュートなんだな?」 どう返答すればいいか、リュートは困惑した。女性と魂が融合しましたなどと、言えるはずもなく。 「ベルト様、よろしければ交代を」 『分かった』 コデロとリュートが入れ替わる。 「私は、コデロ。あなたのご子息と、命を共有している者です」 思わぬ告白に、両親は困惑したようだ。 しかし、すぐに察してくれた。 「ご子息は、私の中でたくましく生きて、私をサポートしてくれています。どうか、ご安心を。ですが、もう帰らねば。この鎧を狙う輩が、私の世界にいますので」 コウガの技術は、地球には過ぎた代物だ。 デヴィランが地球の文化を狙っている以上、水際で食い止める存在が必要なのである。 「地球で一緒に暮らすことは、できないのね」 母親の言葉に、コデロはうなずく。 「頑張ってるんだな」 「こんな立派になって」 化物になった息子を、二人は「立派だ」と言ってくれた。 『すまない。オレは、もう行かなければ』 拒絶の言葉を、リュートは父に投げかけた。 「では」 魔方陣が消えかかっている。急がないと。 「リュート!」 コウガが魔方陣に立った瞬間、父に呼び止められた。 「お前がどんな姿でも、たとえ寝たきりに戻ったとしても、お前は私たちの息子だ!」 『……ありがとう』 両親に感謝の言葉を贈る。 『さよなら、父さん、母さん』 別れを告げると、元の世界に帰っていた。
コメントはまだありません