『何者だ?』 「あれがイクス・レプレスタ。通称『エスパーダ』です」 『あの女が、エルフの王族で冒険者か』 リュートは、目を疑った。 エルフ女の手には、刀が握られているではないか。 柄が西洋風なのに対し、鞘は日本刀のように曲がっていた。 『どうして、この世界には日本刀が?』 「あなたの世界では、そう呼ぶのですね。あれはエルフの標準的な曲刀です」 「いわゆる軍刀だな」 コデロの説明によると、華奢なエルフが戦闘技術を補うために編み出した武器だそうだ。東洋の鍛冶技術を取り入れて打ったという。 「刺す、叩き潰す行為より、受け流す、抜刀と同時に切り捨てるといった、短期決戦用の武器だとか」 ほぼ、日本刀の特徴と変わらない。 「変身、ですわ」 刀を抜き、イクスという名のは虚空を切った。 一瞬で、切り裂いた空間から光が溢れ出し、イクスの全身に降り注ぐ。 現れたのは、蒼い【戦乙女】だった。 コウガによく似ている。しかし、目のバイザー部分がハート型だ。そのビジュアルは、二足歩行のカマキリを思わせた。 『蒼いコウガ⁉』 まさか、自分以外にもヒーローがいたとは。 「いえ、絶妙にビジュアルが違いますね」 コデロも、困惑していた。 「この魔物は、わたくしの獲物ですわ!」 「なにを生意気な! このマタンゴ様を獲物呼ばわりだと?」 怪人が、口からガス状の胞子を噴射する。 「口を利かないでくださる?」 自動で動くマントで胞子を払い、一閃のもとに怪人を切り捨てた。 エスパーダが、鞘に刀身を収める。 「まあ、こんなもんですわ」 『ああ、そうだな、トゥア!』 脱力したエスパーダの横を、コウガは蹴り上げた。 「何を?」 『後ろ』 エスパーダの背後に、新たなキノコ怪人がいたのである。コウガのキックを浴び、爆発した。 「な、デヴィランよ、新たな戦乙女が!」 先に切られた怪人も、他の怪人と運命をともにする。 『助かった。礼を言う』 コウガは、握手を求めた。 エスパーダも手を差し出す。だが、コウガの手ではなく、手首を掴んだ。 「油断は禁物ですわ!」 引き寄せからの上段蹴りが、コウガの顔めがけて飛んでくる。 『トゥア!』 自ら手首をひねり、コウガは側転した。キックから逃れ、掴まれた手首も解く。 「それなりに勘はよろしいようで。ですが、甘いですわ!」 再び、エスパーダが抜刀した。 コウガはとっさによける。だが、胸にわずかながら火花が散った。 『なぜ攻撃してくる⁉ お前は味方ではないのか?』 「弱い英雄は、不要ですわ!」 またも、エスパーダが刀の攻撃を繰り出す。 コウガも両手持ちの剣を二本出し、刀を受け止める。 「コウガの厚い装甲の前では無意味でしょう。が、柔らかい部分を狙われては、いかにコウガでも」 エスパーダの戦闘技術は、達人レベルだ。 しかし、コデロは目にも留まらぬ速さで、エスパーダの攻撃を受け流している。 まるで、高度なレベルの舞踏を見ているようだ。 『なんて美しい、戦い方なんだ』 ピッタリと息のあった打ち合いに、戦闘中であることを忘れてリュートは酔いしれる。 「強いですわね。コーデリア・ドランスフォード相手でも、こうはいきませんでした」 「そうですか。では、お相手いたしましょう。ベルト様、レイジングフォームでいきます」 コデロの要望に寄って、コウガの装甲が赤く変色した。レイジングフォームという、コデロの技術を最大限に発揮できるフォームである。 「手加減できませんので」 明らかに、コウガの動きが変わった。逆に、エスパーダを追い詰めていく。 「この踊るような動きは、コーデリア?」 エスパーダを身にまとっているイクスの方も、なにかに勘付いたらしい。 「あなたがどうして、コーデリアの動きをトレースできましたの?」 「それは、私がコーデリアだから」 イクスの手が止まった。 ここは勝機と、コデロがフィニッシュを相手のノドへと。 『やめろ、コーデリア!』 すんでのところで、コデロは動きを止めた。あと数ミリで、エスパーダは絶命していただろう。 『キミもいいかげんにしろ、イクス。今は、ボクたちが争っている場合じゃない』 それにしても、今の声は? 「兄、上?」 『そうだよ、コーデリア。ボクだ。ノーマンだよ』 「ウソでは、ないのですね?」 『ああ。ボクは正真正銘、ノーマン・ドランスフォードだ。こんな姿になってしまったけど』 コデロが、武器を手から落とす。 「そんな。兄上が、戦乙女のベルトに転生を?」 『詳しい事情は、次の機会で。いずれまた会える』 「ご兄妹のお話は、これにてご勘弁を。家に帰らなければ」 エスパーダが、口笛を吹く。 どこからともなく、黒い馬が現れる。 「今は顔見世、ということで。レプレスタに御用があると聞きましたわ。では、詳しくは現地で」 さっそうと、エスパーダは黒い馬に飛び乗った。コデロに背を向けて、馬で走り去る。 「待ちなさい!」 コデロが呼び止めたが、エスパーダは振り返らなかった。 『こうなったら、嫌でもレプレスタに行かなければならなくなった』 「ベルト様、私は行きます。兄の事情を聞かなければ」
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