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 ミッションは達成したが、王子は逃してしまう。  最強の冒険者チームであるエース・スリーすら失った。  王子に勝てなかったという事実が、コウガの身に重くのしかかる。  純喫茶ロッコ 二号店にて、コデロはうなだれていた。 「あれが魔王の力」  コウガの力を持ってすら、倒せない敵が現れるとは。  コウガも追い詰めてはいた。しかし、あんな戦い方で勝てたとは思えない。 「もっと強くならなければ」 『違う! キミはもう十分に強いんだ。弱かったのは、オレだ』  あのとき、リュートはコデロの強さを信頼していなかった。憎悪にまみれたコデロとどう向き合うかで、迷いが生じたのだ。コデロが潜在的に持っている負の感情をコントロールすべきなのか、諭すべきなのか。  しかし、正しさとはなんだ? 自分の行いは、本当に正しいのか。怒りからは、本当に何も生まれないと?  リュートは始めて、自分がヒーローである自覚を失いかけた。  コデロという狂える鬼を、押さえ込めるのか。そもそも押さえ込むべきなのか、分からなくなっていた。  『フェンリルとか言う新たなオオカミ怪人に手も足も出なかったのは、オレたちの心がバラバラだったからだ。キミは悪くない』  コーデリアは、復讐のことで頭に血が上っていた。  リュートに至ってはただの特オタだ。実戦には乏しく、マニアの知識しかない。戦う目標すらなかった。  そんな二人が組んで、うまくいくはずもなく。 「では、どうすればよいのです? 彼らが世界を支配するのを、黙ってみていろと?」 『オレたちが食い止める。しかし、あの力をどう扱えばいいのか。もう少し時間が欲しい』 「我々が強くなっていくのを、敵は黙って待ってはくれません!」  興奮したコデロが、テーブルに拳を叩き付けた。  ミレーヌが小さく悲鳴を上げる。 「……ごめんなさい」  コデロが、ミレーヌに詫びた。 「私も焦っていますね。ベルト様を責めても、どうにもならないのに」  店のドアが開く。しかし、誰が入ってきたか分からない。 「すいません、まだ開店時間じゃなくて。あら?」  ミレーヌが、カウンターから出た。ドアの前でしゃがみ込む。  店にやって来たのは、小さな少女だ。手に花を持っている。少女は、ミレーヌに花を渡す。 「お花持ってきてくれたの? ありがとうね」  花を受け取って、ミレーヌはガラスコップを水差し代わりに使った。 「この子は?」 「戦災孤児でね。ドランスフォードから逃げてきたんだって」  近くの教会で世話しているという。 「あなたは!」  どうしてか、コデロは少女に歩み寄る。  困惑した表情で、少女は目を見開いた。 「よかった。生きていたんだ」  彼女の前にひざまずき、コデロは両手を広げながら、少女に近づく。 「わああああ!」  コデロは少女を抱きしめた。  号泣しながら自分をハグするコデロを見て、少女はまだ戸惑っているようだ。 「あなたのご両親は、ドランスフォードでパン屋さんをなさっていましたね?」  質問を受けて、少女はひとつ首肯する。 「よかった。あなたは生きていたのですね」  もう一度、コデロは少女を抱きしめた。 「どうか、ご安心を。あなたのご両親のカタキは、私が必ず取ります」  立ち上がったコデロは、涙を袖で拭う。  人助けが無意味な世界でなくて、よかった。 「私は今まで、あなたの正義は無意味だと思っていました。絵空事だと。しかし、あなたが正義感を振りかざさなければ、この子は助からなかった」  リュートは、答えを促さない。黙って聞く。 「私、戦う目的ができました。この子を守ります。そして、この子から平和を奪ったデヴィランを、壊滅させます」 『オレも、自分のしたことがムダではなかったと分かって、安心している』 「力を貸してください。デヴィランを共に討ちましょう」 『協力する。今後とも、共に||』   突如、悲鳴が聞こえた。  外の様子がおかしい。 「ミレーヌ、この子と安全なところへ」  コデロは、表へと飛び出した。  街で、デヴィランの戦闘員たちが人々を襲っている。  逃げ惑う住民たちに、戦闘員が切りかかっていた。  口から唾液を垂らしながら歩いてくるのは、ツキノワクマだ。腹にある月輪が、眼球になっている。複数の怪人を引き連れていた。コウガがこれまで倒してきた、クモ怪人の量産型だ。 「オレ様は【サイクロプス】だ! 愚かな人間ども! オレ様に食われてしまえ!」  クマ怪人は、自らを【サイクロプス】と名乗った。腹の眼球から、破壊光線を発する。  光線が、建物を崩壊させた。人まで焼こうとする。  迷っているヒマはない。こうしている間にも、怪人たちは人々を殺し続け、苦しめる。 『許さん!』  コデロは両手剣を召還して、破壊光線をそらした。だが、とっさに喚びだしたので、すぐに消えてしまう。武器の強度を安定させるには、コウガにならなくては。 「なんだテメエは、デヴィランの食事を邪魔するのかよ?」  腹部の単眼が、コデロを見据える。 『オレが相手だ!』  コデロは、変身ポーズを構えた。右手を天高く掲げる。 『変……身っ!』  コウガはレイジングフォームへ。 「ライジングには、ならないので?」 『キミに任せた』  これまでリュートは、自分さえ戦えば、コデロの負担は減ると思っていた。  しかし、単にコデロの力を信じていなかったに等しい。 『キミは今、正義の心を取り戻しつつある。オレは、キミを信じるぞ』 「分かりました。この魔物の始末はお任せを」  コデロはコウガとして、身構えた。

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