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「念願の、変身ベルトが完成したぞ!」  織部おりべ 琉斗りゅうとは、完成したベルトを掲げて歓喜した。  ベッド周りには、修復用の部品が散乱している。DVDラックには、特撮番組のBDがズラリと並ぶ。  リュートが手に持っているのは、バックルつきのベルトである。地球上のどの文明とも似ても似つかない。バックルには、宝玉らしき赤い物体が内蔵されていた。その周りを、文字らしき模様が円を描くように並ぶ。  共に考古学者の両親からもらった、未知のアイテムだ。発掘当初は、所々にヒビが入っていた。科学者であるリュートが修復作業を行い、完璧に復元してある。  リュートにはどう見ても、このアイテムが変身ベルトにしか見えない。同じ科学者であるリュートは、両親から絶対の信頼を寄せられ、修復を任された。幼い頃より身体が悪く、ずっと自室のベッドで過ごしている。  唯一心血を注げるのは、特撮番組とベルトの修復だった。  生まれてから三〇年、ずっとこんな調子だ。  それでも、リュートには幸せな時間である。  最初こそ、ベルトの刻印も『甲』と『牙』という文字しか分からずじまい。だが、変身用のツールだと解読できて以降は、あっという間だった。  「あとは、変身するだけだ」  変身が可能なら、このアイテムは間違いなく変身ベルトと断定できる。  これは正真正銘の、変身ベルトだ。  リュートの勘が叫んでいる。 「このベルトは、異世界から来た物」  父の説をバカにしてきた連中に、一泡吹かせることができるのだ。それは、リュートの作業に掛かっている。 「父さん母さん、見ていてくれ。オレが、あなたたちの説を証明する」  リュートは、腰にベルトを装着した。病人の自分は、立つのがやっとだが、どうにか起き上がることができた。  これでヒーローに変身できれば、日常生活も送れるかも知れない。そうすれば、両親に迷惑をかけずに済む。  次の瞬間、窓に暗雲が立ちこめる。しかも、室内に。 「なんだ?」  リュートは、ベッド脇に設置してある警報スイッチを押す。  雲から、怪物の足が現れた。足だけじゃない。全身が浮かび上がってくる。 「ギイイ!」  怪物の姿は、特撮の怪人のような姿をしていた。  ビジュアルは、狼男を思わせる。手足の指からは、刃のような長い爪が伸びていた。全身が灰色の毛に覆われ、顔はオオカミで身体は半裸の人間である。 「ギイッ!」と、また怪人が吠えた。  言葉を話しているように思えるが、聞き取れない。この世界の言葉ではないようだ。  警備員が、駆けつけてくれた。 「ば、化物!」  警棒を装備して、警備員がリュートの前に立つ。  怪人は、警備員を腕で払いのけた。  それだけの動作なのに、警備員は壁に穴を開けるほど吹っ飛んだ。  全身に鳥肌が立ち、リュートは戦慄する。  だが、怪人の腰に付けているベルトが、変身ベルトと形状が酷似していることを、リュートは発見した。  次の行動は早い。ベルトと共に発掘された古文書に書かれていたポーズを取る。  こいつが古文書と関係している化物なら、変身ヒーローの姿で倒せるはず。  右手を曲げた状態で、左手でベルトを撫でる。右から左に滑らせながら。 「変身!」  叫んだリュートは、右手を高く掲げた。  まばゆい光が、リュートを包んだ。全身が、硬い装甲に覆われていくのが分かる。ベルト中央の宝玉から、展開されているのだ。  最後に鋼鉄の仮面が、リュートの顔全体を覆う。 「グギ、コ……ウ……ガッ!」   目がくらんだのか、怪物が怯む。 「トゥア!」  全身、銀色の装甲に包まれたリュートは、渾身の拳を叩き込んだ。  怪物の身体がひび割れ、スキマから光が漏れる。  嫌な予感が、リュートを襲った。 「こいつ、自爆する気か!」  リュートは怪物の身体を掴み、窓を突き破る。  外に出た瞬間、怪物が爆発した。  怪人と共に、リュートも爆風に巻き込まれる。自分の身体が、粉々になるのを感じた。痛みはない。即死だったらしい。 「父よ母よ、あなた方より先に命を落とすオレを許せ。オレはこいつを倒すのが精一杯だった」  我が命は、天に預けた!  変身できただけでも、家族の無事を守れただけでも、よしとしよう。    そのとき、不思議なことが起こった!  魂が、天空に吸い込まれる感覚に襲われたのだ。       ◇ * ◇ * ◇ * ◇ 「あなたは死にました」  そう告げたのは、目の前にいる女性である。白いエレベーターガール風の衣装を着たこの女性は、「転生の女神」と自称した。  真っ暗な空間に、女神だけがポツンと立っている。ふんわりした笑顔をで、まったく緊張感がない。 「ですが、あなたの見事な功績を称えて、転生を許しまーす。といってもー」 リュートの姿を見て、女神はため息をつく。 「その姿で、本当によろしいのです?」  今のリュートは、変身ベルトの姿になっていた。  女神が言うには、 「さっきの怪物との戦闘で事故を起こし、魂がベルトに定着してしまったのだ」  という。 「身体の修復は無理でしたので、人間以外なら何にでもなれると説明はしましたが」 『これでいい。いや、これがいい』  装着してくれる相手がいるなら。    自分が変身するという目標は達成している。    けれど、やはり自分は、誰も守れなかった。  自分の命すらも大事にできず。  そんな自分がベルトを持っていても仕方ない。  しかるべき人物の腰に治まるべきだ。 「好きにスキルも所持できますよ。でも『変身』でいいと」 『構わない。変身したオレは無敵だ。どんな相手も倒し、弱きを守る』  女神が「あはは」と、乾いた笑い声をあげる。 「で、では、ベルトの所持者に相応しい相手を認定しまーす。変身した人物は、超人になれますよー。本当にそれ以外は入らないのですね?」 『構わない。できれば、特典は装着者の方に頼む』 「承知しました。色々てんこ盛りにしておきましょうかね」  女神が、手に持った指揮棒らしきステッキを振った。  何もなかった虚空に、映像が浮かぶ。  炎上している城のようだ。 『どこだここは?』  「ドランスフォード王国ですねぇ」  異世界でも指折りの、魔法王国だそうだ。 『あの小さな少女が、ベルトの適合者だというのか』  剣を持った少女が、戦っている。金髪の少女が、ドレスの上にヨロイをまとい、両手持ちの大剣を振り回して、迫り来る人型モンスターを次々と斬り捨てていた。  顔は幼いながら、腕が立つ。  リュートより、よっぽどヒーローに適した肉体を持っている。  相手をしているのは、二足歩行の……クモではないか!  クモの頭を持った男が、ジリジリと、コーデリアに迫っている。肉体の各所が機械化していて、歯車や回路が剥き出しになっている。  コーデリアが斬っているのも、特撮に出てくる戦闘員のような出で立ちだ。短刀など、簡単な装備しかしておらず、全員が顔を仮面で覆っていた。 『こいつは、さっき戦った怪人と同種族ではないのか?』  映像のクモ怪人が、手をワキワキさせながらゲラゲラと笑う。  この魔物のベルトは、家を襲撃してきたヤツと同じタイプではないか。 「姫様!」  姫を守るため、複数の兵隊がクモ怪人を迎え撃つ。  クモ怪人が、糸を吐き出す。屈強な兵隊を、いとも容易く絞め殺してしまった。  コーデリアが、小さく悲鳴を上げる。同時に、仲間を失った悲しみに打ちひしがれていた。 「ギヒヒ。これまでだな、コーデリア王女。おとなしく我らに従い慰み者になるか、ここで死ぬか選ばせて差し上げましょうぞ。悪いようには致しませぬ。我が【デヴィラン】の手で、ドランスフォードの名に恥じぬ、最強の肉体に作り替えますぞよ」  クモ怪人が、ゲスめいた言葉を少女に吐く。  少女の名は、コーデリアというらしい。クモは、コーデリアを王女様と呼んでいる。 「なにを! 人を人体実験の道具としか見ないあなたがたの所業、許す物ですか。覚悟!」  コーデリアは剣を振り下ろすが、クモ怪人に片手で止められてしまう。  腕を軽く振り上げただけで、コーデリアは燃えさかる炎の中に突き飛ばされた。左半身が焼けただれ、ドレスアーマーは砕けてボロボロに。手に持っている剣も根本から折れていた。 「うーん、死にかけていますねぇ。もっと適任者を探しましょうか?」  女神が、この王女をほったらかそうかとほのめかす。 『いや。この子がいい。今なら、助かるかもしれん』  女神は難色を示す。 「適合率はこれ以上ないくらいですが、もう虫の息ですよ?」 『構うものか。あの女性を見てみろ』  コーデリアは、まだ折れた剣を握りしめていた。  諦めていない証拠であろう。 『あんな状態になりながらも、まだ戦おうとしているのだ。そんな子を無視して、他の相手など選べぬ。その間に、あの娘は死ぬぞ!』  今にも、コーデリアはクモの毒牙に掛かろうとしている。急がねば。 「あなたが行けば、助かるかも知れませんねー」 『よし、あの女性の、コーデリア王女の元へ向かう!』  女神は二度目のため息をついた。  しかし、その表情は穏やかである。 「承知しましたー。どうなっても知りませんからねー」  女神が指揮棒を操った。  リュートに向けて、指揮棒の先を突き立てる。 「転生の力よ、今こそ、かの者に祝福あれ!」  ベルトが、リュートの身体が、温かい光に包まれていく。  そこで、リュートの意識は途切れた。

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