作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 イスリーブの王子が、レプレスタへ出発する日を迎える。     「イクスに縁談ですってねぇ」  ミレーヌの経営する純喫茶で、ラキアスがつぶやいた。カウンター頬杖を突く。 「ご存知だったのですね、ラキアス様」 「そりゃあ、妹ですもの。レプレスタの事情は聞き及んでいますわ」  コデロの問いかけに、ラキアスは答えた。  妹、という言葉が出たが? 『まさか。では、あなたの出身は?』  リュートが質問する。 「はい。わたしは、レプレスタ王国の誇る四姉妹の次女。第二王女です」  レプレスタの国王には男児がおらず、四人の姉妹がいるだけだ。 「長女は遠方からお婿様をもらって、次期レプレスタ王妃となります。次女はわたくし、三女がイクスで、幼い末娘がいます」  今回で、三女のイクスが嫁に行くこととなる。 「しかしてラキアス様。王子は、どんな方で?」 「ひとことで言うと、モヤシですわね」  ふくよかな王とは違い、痩せているという。 「臆病で、頼りないですわ。きっとイクスは、王子を尻に敷くでしょう」 「何歳ですか?」 「一四歳ですわ」  中学生ではないか。 『幼すぎないか?』 「王族なんて、そんなものですわ」  現イスリーブ王は、一四歳で結婚し、一五歳ごろには子をなしている。  国王は、二九歳らしい。  ノーマン・ドランスフォード王子と同い年だといっていたが。 『ノーマン王子は、結婚しなかったんだな』 「イクスが逃げ回っておりましたから。我が妹ながら、情けないですわ」  ラキアスが、額に手を当てる。 「元よりイクスは、結婚などから程遠い性格ですが」 「そうですわよね。あの子は昔から喧嘩っ早くて、手を焼いておりました」 「どうして、そんな性格に?」 「母を、魔物との戦いで亡くしましたから」  イクスの母親は、襲ってきた魔物との戦闘で命を落としたという。 「自分が強くならなくては、という思いから、毎日トレーニングを欠かしません。人一倍負けん気が強いのです」 「そうだったのですね。それがエスパーダとしても活動に繋がったと」 「エスパーダ。レプレスタの英雄ですわね?」  レプレスタの城下町に夜な夜な現れては、冒険者顔負けの活躍をするとか。彼女によって葬られた魔物の数は、計り知れない。戦乙女になる以前から。 「あの子らしいですわ」 「ですが、危険です。戦乙女になったとはいえ、好戦的すぎて」 「わたくしも、参りましょう。魔道具マギアを装備した冒険者や兵士によって、魔物の騒動も落ちつています」  現時点で、キノコ怪人以外の驚異は現れていない。  遠出しても安心だろう。 「お見合いより、イクスが戦乙女となったのが気になりますわ」 「それだよ。吾輩も行くぞ!」  窓際のソファから、ノアが飛び起きた。 「新しい戦乙女なんて、見逃せん。ぜひとも研究がしたい! 魔道具マギアの参考にさせてもらう!」 「あの子がそう簡単に応じましょうか?」 「動力となっているのが、コーデリアの兄上というではないか! そちらから攻める」  はちみつのかかったパンケーキを、ノアは一口で口の中へ。それをカレールーで追いかける。実に悪魔じみた朝食だ。 「したたかですわね、あなたは」 「合理的と言ってもらいたいね!」  朝食を終えて、ノアが舌なめずりをする。 「じゃあ、あたしも行こっと」  ミレーヌまで、ついていくと言い出した。 「純喫茶の新店舗を開きたいのよ。レプレスタに支店ができれば、現地のハーブで何か作れるかも」 「カレー屋さんと言うより、不動産経営の考え方ですわね」  最近のミレーヌは、店舗管理で荒稼ぎしている。「お金に働いていもらう」という思考で、わずかながら安定した収入を得ていた。 「定額の収益が入っていれば、カレーの味に専念できるでしょ? 今後は魔道具にだってお金がかかっちゃうし。コデロやラキアス様だけに負担はかけられないわ」 「まあ、今は魔道具の売買で儲けいているがね」  研究所の活動資金は、ある程度自前でまかなえるようになっているそうだ。  冒険者やイスリーブ兵への、魔道具提供が順調らしい。 「レプレスタにも、ある程度魔道具を流しているんだ。本格的な研究所も建てていいかもな」 「そうやって、デヴィランを追い詰めていくと」  ありがたいことだが、リュートには懸念材料がある。 『怪人退治となると、荷が重い気がするが?』  当面、魔物の殲滅能力には期待できないだろう。  血の気の多い冒険者が暴走してしまわなければいいが。 「ベルト殿の言う通り、付け焼き刃かも知れない。たけど、自分の身を守るくらいできるようになるなら、キミら戦乙女の面倒事も減るだろう」  冒険者たちにも、ノアは念を押しているらしい。  当てにしすぎるなと。 「俺の銃が、参考になったらしい」 「あたしの斧もね」  ダニーとアテムが、それぞれの魔道具を持つ。 「おっしゃるとおり、説得力がありますね」 「すまないね、コデロ。あたしが弱いばかりに」 「ラキアス様の信頼が厚いあなたが、弱いはずありません。あなたには、悪を許さないハートがあります。それだけでも、勇者にふさわしい」  話し合いの末、全員がレプレスタへ向かうことになった。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません