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 一夜明け、コデロはベッドから半身を起こし、伸びをする。 「街を救ってくれた礼と言ってはなんだが、コーヒー淹れ直してやる」  ダニーは、コーヒーのドリップを始めた。 「ドランスフォードの出か? 冒険者という風体には見えないが」  湿っていく布フィルターを眺めながら、ダニーが問いかけてくる。 「理由があって、ドランスフォードから逃げてきました」 「お前も民間人か。あそこは壊滅したって聞いたぜ。ここにも数人、ドランスフォードから逃げてきた住民を匿っている」  コデロが助けた、足の不自由な子も、逃亡者だ。ドランスフォードから逃げる際に、ケガをしたらしい。 「俺は、科学者だったんだ」  ドランスフォード王国で教鞭を執っていたが、科学は異端とされて追放されたという。 「この田舎町に越してきて、ハーブの栽培を始めた。最初は科学実験兼、資金稼ぎだった。やがて、女房ができた」  このカレーも、妻のレシピで作ったらしい。喫茶店もスパイス農園も、妻の遺品だ。 「流行り病で女房に死なれてから、何もやる気がしねえ。店も娘に任せっきりだ」  コーヒーの香りが、ミレーヌとは圧倒的に違う。味こそ、ダニーの方が苦い。が、コーヒー単体として飲むならこちらかも。 「おいしいです」 「娘のは、カレーに合わせてるからな。それはそれでうまいが」  本当にコーヒーにこだわっている店では、カレーなんて出さない。カレーのスパイスが、味覚を低下させてしまうからだ。 「俺は出すぜ。どっちも捨てられないからな」  一口飲んだだけで、ダニーの人柄まで写し出すかのようだった。  こんなうまいコーヒーを淹れる人間が、ただやさぐれているだけではない。 「だが、お前さんが現れたおかげで、俺にも運が回ってきた。どうだろう、お前さんを手伝わせてくれないか?」 「それは」  確かに、彼の研究はコーデリアの役に立つだろう。  銃なんて作れるのだから。  ミレーヌが持っているのは、比較的簡単な構造だ。  が、ダニーはもっと高性能の銃を作る技術がある。  とはいえ、コーデリアの個人的な復讐に、民間人を巻き込むわけにはいかない。  コーデリアも、同じように思っているらしかった。その証拠に、即答しない。 「なに、別にドランスフォードを叩き潰そうってワケじゃない。俺の研究欲を解消してもらいたいだけだ。気楽だろ?」 「あなた方に迷惑は、掛からないのですか?」 「娘を助けてくれた礼だ。迷惑なんて、いくらでもかけてくれたっていいんだよ」  父親に向けて、ミレーヌが「ウフフ」と含み笑いを浮かべる。 「なんだよ?」 「昨日と打って変わって、この変わり様ったら」 「うるせえぞ。とっとと開店の準備しやがれ」  話題を変えたかったのか、ダニーが「ところで」と切り出す。 「まだ冒険者登録もしてないだろ? 一人旅ってんなら何かと入り用だ。登録して損はない」  昨日はバタバタしていて、それどころではなかった。登録するなら、今だろう。 「確かに。おやっさん頼めますか?」 「おう。案内してやる」  ついてこい、というので、店を後にする。  そのまま、二人は冒険者ギルドへ。

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