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 リュートは、見覚えのある地に立っている。  通信しようにも、ノアたちからの応答はない。  ノイズが走るだけ。 「別の世界に来てしまったようですね」  懐かしい風景である。古めかしい洋館だ。どこがどの部屋とつながっているか、手にとるように分かる。  ここは、実家の前だ。  二階の壁に、修繕されている痕跡がある。あそこが、自分の部屋だ。 『まさか、ここは地球か!』  コウガの研究がされていたこの場所に、飛ばされたというのか。 「その通り」  先程まで眠っていたはずのオオカミ上位怪人が、目を覚ます。 「魔王、ヴァージル!」 「いかにも。見知らぬ土地に来たということは、我は転送に成功したようだな」  周囲を見回し、オオカミ怪人はニヤリと笑った。 「どうも、コウガの歴史に馴染みが深い場所へ降り立ったらしい。配下を行かせたときは、どこに飛ぶか分からんまま、機能停止してしまったのでな」 『オレが倒したのは、お前ではなかったのか?』 「左様だ。いきなり自らで実験をするわけがなかろう」  配下をまず改造して、地球へ先発隊として行かせたらしい。だが、リュートが倒してしまった衝撃で、転送装置自体も故障したという。 「一度は失敗したが、二度はない。我はこの地で技術を手に入れ、破壊の限りを尽くす。この地は我々デヴィランがいただいた!」 『そんなことはさせない! お前ら秘密結社などに、地球は渡さん!』  もし、ここにまだ両親がいるなら、離れなければ。 「リュート、リュートなのか!?」  父親が、玄関から飛び出してきた。続いて、母親も。  リュートの声を聞きつけたのだろう。    警備の男性も、母をかばいながら現れた。頬に絆創膏を貼っているが、どうにか無事だったらしい。 『父さん、母さん! 来てはダメだ! 家に入っていろ!』  コウガは両親に向かって避難を呼びかける。  横面に、オオカミ怪人の拳がめり込んだ。 「これは僥倖! コウガの親がいるとは、こやつらが盾になっては、我に攻撃できまい!」  怪人は、リュートの両親を人質に取る気だ。 『やめろ! トゥア!』  コウガがオオカミ上位怪人に掴みかかる。 「ぬう!」  投げ飛ばされた怪人は、軽々と体勢を入れ替えて、直立した。ダメージはない。 「それが人間の甘さよ! 人としての感情を捨てきれぬ! そんな甘さは、コウガには必要ない!」  オオカミ怪人が、コウガをあざ笑う。 『貴様ぁ!』 「我こそ、コーデリアよりもコウガを操ることができる! 我は生まれついての帝王! 世界を支配するのは、この我だ!」  ボディーブローが、コウガに打ち込まれる。  コウガは吹き飛び、変身も解除されてしまった。  魔王と自分との間には、これほどまでに差があるというのか。  倒れたコデロを心配してか、リュートの両親がはすけに入ろうとする。 『来るな!』  リュートが、両親に向かって叫んだ。 『オレなら大丈夫だ、逃げろ!』  必死の訴えで、リュートは人払いをした。 「ベルト様、私は、自分が許せません。こんなゲスを止められない私が」  何かを決心したコデロが、自力で立ち上がる。 「私が本当に許せなかったのは、デヴィランじゃない。誰も守れなかった、弱い自分でした!」  コデロは、ずっと心にしこりが残ったままだったのだ。 「だからベルト様、見ていてください」  構えをとって、コデロは自らの腹を横へ撫でた。  再び、腹部にベルトが装着される。 「私の、変身!」  反対の手を、天へと掲げた。  コデロの全身が、今まで感じたことのない熱を帯び、光り輝き始める。  リュートにまで、熱が伝わってきた。 「何度挑んでも同じことだ。死ねコウガ!」 「トゥア!」  オオカミ怪人に拳をぶつける。  余裕だったオオカミ怪人の顔が、コウガの拳によって醜く歪む。 「これは!」  銀色だ。鎧の色が、憎しみの血に似た色から、銀色へと変わっている。これだ。これこそ、コウガの持つ真の力である。 「なんと、コウガの力を最大限に引き出したのか! ぐはあ!」  左拳を腹に受けて、オオカミ怪人が悶えた。身体をくの字に曲げて、後ずさる。 「くらいなさい、トゥア!」  容赦なく、コデロは回し蹴りで、オオカミ大怪人の牙をへし折った。  足が、銀色のプロテクターに覆われる。より強固で洗練されたデザインと化していた。 「なんと罪深い。この魔王ヴァージルに、デヴィランに、なおも牙をむくとは!」  オオカミ怪人【フェンリル】が、嘆かわしいとばかりに肩をすくめる。 『間違っているとは思えない。むしろ、一人では動けないことを言い訳にして、コーデリアに決断を委ねたことが、オレの罪だ』 「私は、誰も守れなかったことが罪です」 『オレたちは、その罪を背負って生きていく』 「お互いに。私たちは、二人で一人」  ベルトのエネルギーが、増幅していく。全身に熱が巡っていき、よりパワーが増すのが分かった。 『オレは、空に希望を照らす太陽の盾』 「そして私は、闇を切り裂く月の刃」 『オレたちは、二人で一人の復讐者ヒーロー!』 「我が名は、コウガ!」  コウガが見得を切る。  しかし、コウガのデザインはまるで違う。  関節部分は銀色で、表面は赤い。  レイジングフォームと、ライジングフォームが合わさったような造形だ。  目の色も、右目は緑色で、左目は赤い色だ。 「これが、コウガだと!? なんという姿だ。認めぬぞ! こんなコウガなど、史実にはない!」 『当たり前だ! この姿は、オレたちが考案したんだからな!』  本来、コウガの装着者は一人である。  しかし、コーデリアの肉体と、リュートの魂が一つとなり、新たなフォームが生まれたのだ。 【コウガ:シャイニングフォーム】  それが、新しいコウガの呼び名だった。

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