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「へっ。てめえがコウガか。弱っちそうだな!」  ツキノワグマ怪人の瞳が、カッと見開く。    破壊光線が放たれた。  避けたら、純喫茶ロッコに直撃してしまう。  そうすればミレーヌたちが。  コデロは両手剣を装備し、光線を地面へとそらした。  大地がえぐれ、衝撃波がコウガを吹き飛ばす。 「なんだ? まるっきり弱いじゃねえか!」 『笑っていられるのも、今のうちだ』 「あんだァ?」  クマ怪人は、コデロの実力を分かっていない。コデロは追い詰められてからが、強いのだ。  再び構え、コウガが反撃に移る。  ローキックで相手の足を止め、執拗に目を狙う。  弱いながらも高速で打ち込まれる攻撃の数々に、クマ怪人は苛立ちを見せ始めた。 「こんにゃろうめぇ!」  怪人もカウンターを繰り出す。  しかし、鈍重な攻撃ではコデロの素早い動きに追いつけない。  やはり、この怪人は破壊光線と怪力だけ。  ただの砲台役なのだろう。  それを確かめるため、コデロはあえて攻撃を受けたのだ。  砲台が必要な状況といえば、戦争だが……。 「アテム、おやっさん! 街の各所に兵隊がいるかも知れません。あるいは、真の狙いはドレイク様なのかも!」  戦闘員と格闘している二人に、ドレイクを守るよう告げる。  派手に暴れている間に、デヴィランはドレイクを直接攻撃する手はずかも。 「よそ見してるヒマなんてあんのか、ああ⁉」  噛みつくつもりなのか、クマ怪人がコウガにのしかかろうとする。 「引っ込んでいなさい」  強烈なローキックを、コデロはクマ怪人に叩き込む。  足の骨が折れたのか、クマ怪人が膝をつく。 「あなたの動きは見切りました。もう用はありません」  前蹴りを目に浴びせ、光線の発生源となる目を破壊する。 「待った!」  とどめを刺そうとしたところで、ノアから横やりが入った。 「どうしたのです?」  ノアのいる方へ、コデロは振り返る。 「これを使うんだ!」  武器が放り投げられた。  コデロが掴んだそれは、『憤激・改リ・ボルケーノ』ではないか。 「それを足首に付けたまえ!」 「足首に、ですか?」  確かに、形状が違った。  剣の柄ではない。足甲の形をしている。 「キミの足そのものを、光子剣にするんだ! それが、本来の使い方だったんだよ!」  にわかには信じがたい。  しかし、武器の権威が語るなら。  コウガは、足甲をスネにはめ込む。 「行きます。コウガ・レイジング……キック」  コウガは跳躍した。宙返りからのキックが、クマ怪人に突き刺さる。  その一撃は、リュートが放った蹴りの比較にすらならない。 「ぐ、強えな! だが、魔王ヴァージル相手じゃ、こうはいかんぜ。ヤツは、ドランスフォードで待ってるぜ、ゲヘヘヘヘ! グアア!」  コウガの撃ち込んだエネルギーに耐えられないのか、クマ怪人の身体がヒビ割れる。 「ぬうう! デ、デヴィランは不滅う!」  コデロのキックを受けたツキノワグマ怪人が、盛大に爆発した。 『凄まじい力だ』  コウガのエネルギーで倒したのではない。  この剣だけの力で、怪人を殲滅した。 「これが本来の、憤激ボルケーノの力だというのですね?」  クマ怪人を倒したコウガは、変身を解く。 「左様だ。使い方もこれで合っている」 「この力があれば、あのフェンリルという怪人でさえ」 「油断をするなよ。やはり、コウガにはもう一段階の変身があると分かった」  リュートの推測通り、レイジング・フォームはコデロが操ってこそ進化を発揮するらしかった。  このフォームは、単なる強化の通過点ではない。  リュートが使いこなせていなかっただけなのだ。    その更に上の力とは。 「ただし、そのフォームをどうやって引き出すのか。方法までは分からなかった」 「ありがとうございます。それだけ分かれば十分ですよ、ノア」  ここまで尽力してくれたのだ。あとは自力で探す。 「こうしている間にも、魔王ヴァージルは更に力をつけてしまいます。そうなる前に」  魔王をこの手で。 「コデロ!」  ダニーとアテムが戻ってきた。 「あんたの睨んだとおりだった。ヴァージルの手下が、イスリーブ国王様を殺しにやってきた」  アテムの言葉で確信を得る。    やはり、デヴィランの狙いは別にあったらしい。 「行くんだな。ドランスフォードへ」  ダニーが言うと、コデロはうなずいた。 「あたしは、同行しないほうがいいな」  残念そうに、アテムがつぶやく。 「はい。手出しは無用です」  これは、コーデリアの戦いだ。誰にも邪魔はできない。 「あなたは、ミレーヌやラキアス様をお願いします」 「お願いされた! あたしに任せな。あんたからもらった武器もあるしね!」  こんなにも頼もしいボディガードはいない。 「ちょっと待った」  ノアが、何かをコデロに投げ渡す。  よく見ると、インカムに似ているが、宝玉がついていた。 「映像を送れる通信機だ。ダニーのアイデアで作ってみた。持っていくといい。コウガのベルトに収まるはずだ」  マイクに似た杖を持って、ノアが話しかけてくる。 [テステス。聞こえるか?] 『感度良好だ』   ノアの声が、ベルトを通じて聞こえてきた。 「これで、我輩たちがキミらにアドバイスを送るから、聞けるようにしておいてくれ」 『感謝する』 「バイクには、自動帰還装置が組み込まれている。お前さんがへばっても、勝手にこっちへ帰れるはずだ」  ダニーが、コウガ専用のバイクを用意する。 「速度を三〇倍、魔法効率を二千倍にしておいた。ちょっとの魔力で動けるよ。少しの時間なら、自走だって可能だ」 「何から何まで、お世話になります。みなさん」  ノアは、バイクにも細工がしてあった。 「礼はいいよ。資金と技師を提供してくれたラキアスに、感謝するんだね」 「ありがとうございます、ラキアス様」  コデロが礼を言うと、ラキアスが手をブンブンと振った。 「いえいえ。こんなことくらいしかできなくて」 「十分です。感謝致します」 「彼らの目的は、おそらく次元転送装置を起動させること。十分にお気をつけくださいまし」 「はい。ラキアス様」  バイクにまたがって、コデロはアクセルをふかした。 「カレー作って待ってるんだから!」 「ありがとう、ミレーヌ。それだけで、私は百人力です」  いよいよ、最後の戦いへ赴く。

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