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『妹を心配してくれているのは、ボクにもわかる。でも、今は辛抱してくれ』  レプレスタ城内では、ノーマンがイクスをなだめていた。 「誰も、コーデリアなど気にしておりませんわ! ワタクシに任せていただいたほうが、事は素早く運ぶのではなくて、と思っているだけですわ!」 『ありがとう。妹を大事に思ってくれて』 「ですからぁ!」  いい掛けて、イクスは声を潜める。  何者かが夜中に抜け出す音を、イクスは感知した。  音を立てないように、そっと二階のベランダから下の庭園へ降りる。 『器用だな』 「伊達に何年もエスパーダなどしておりませんわ」  忍び足なんてお手の物だ。  柱の陰に隠れ、動く人影を観察した。  庭の片隅で、二人の幼い男女が語らっているのが見える。  ジョージ王子と、ディアナだった。 「やはり」 『キミは、二人の関係を知っていたんだね?』 「ええ。ディアナは、どなたかと文通をしていました」  文面を覗き込もうとしたら、隠されたこともある。  差出人は誰かと尋ねても、「転校した元学友だ」と適当にはぐらかされた。  今まで、姉に隠し事なんてしない子だったのに。 『それで、姉にすら隠さないといけない関係の方だと』 「はい。ディアナは、王子と歳が近いのです。家族でお茶会にも招かれていましたし。そのときには、すでにお慕いしていたのでしょう」  月夜の下、ディアナと王子はいい雰囲気である。他愛のない会話だが、仲睦まじい。 『キミは、婚約者が不貞を働いて、なんとも思わないのか? ボクが言うのもなんだけど』 「あらぁ? あれだけ愛し合ってらっしゃるんですもの。誰も咎めませんわ。ワタクシでさえ」 『しかし!』 「ワタクシとの婚約は、親が勝手に決めたこと。自由恋愛して、何がいけませんの?」  自由を手にしたいイクスからすれば、この環境はむしろ好都合だった。    王子は頼りないが、ディアナが安心しているところを見ると、悪人ではないのだろう。安心して、愛する妹を任せられる。 『二人を見守るつもりなんだね?』 「もちろん」  少しの憂いもない。どうして、あの二人の邪魔ができよう?  それより、どうにか婚約解消できないか。二人はうまく行っている。楽団などに通わせず、結ばれればよいのだ。 「ディアナ姫。余は、王に余たち二人の関係を話そうと思う」 「いけませんわ。あなたにはイクス姉さまがいらっしゃいます。やはり、姉さまと」 「余が愛しているのは、あなただ」  王子の心は変わらない。  若いのに、自分の主張はハッキリと告げる。  そこはさすが、国を背負う身分と言うべきか。 「お姉様がお嫌いですか?」 「違う。イクス姫も素晴らしい方だと思う。それでも余は、あなたと添い遂げたいのだ」 「ありがとうございます。いつも、そうおっしゃってくださいますね」  でも、とディアナは告げた。 「父は私がお世継ぎを産めないとお考えです。私のような病弱な女と交際していると知れば、王子を不憫に思うでしょう」  悲しげなディアナの言葉を聞き、イクスは胸が痛む。 「姫よ、あなたは聡明な方だ。そんな一面を愛おしいと思った。世継ぎなどいなくとも、余はあなたを愛す。あなたのお父上も、きっとわかってくださるだろう」 「ありがたき幸せにございます。でも」 「余に任せよ。きっと不自由はさせぬ」  王子が、ディアナの肩に手をかけた。  次の瞬間、ガサガサと草を踏みしめる音が! 「たとえばぁ。側室を設けるとかぁ。いいカンジじゃあん?」 「何者だ⁉」  王子の背後に三メートルを超す大蛇が現れた。  上半身が女の裸体で、下半身がヘビの怪人が、ディアナと王子を見下ろす。 「王子!」 「余の側にいておれ!」  腰を抜かしたディアナを背にし、王子が必死の形相で盾になった。 「こんばんはぁ、王子さまぁ。あたくしぃ、マムシタイプの魔物でぇ、【ラミア】っていうのぉ」  ラミアと名乗ったマムシ怪人は、しゃべる度に舌を出す。舌は細く、先端が割れていた。  まさか、コーデリアの予想が当たるとは。 『この場にいて、正解だったね』 「悔しいですが、言うとおりでしたわ」  もし、イクスもバイクでアロガント方面に向かっていたら、この化け物に誰にも太刀打ちできなかっただろう。 「寝室を襲ってあげようと思ったんですけどぉ、手間が省けたわぁ。さあさあ、あたくしの快楽エキスをぶっ刺してあげるぅ。子種があればいいんだよね? 無責任有精卵大歓迎っ」  豊満な胸を上腕でギューっと挟み、マムシ怪人はプロポーションをアピールする。 「ふざけるな! 魔物に誘惑などされるものか!」  怪人を追い払わんと、王子はタンカを切る。しかし、足が震えていた。 「最初はぁ、みんなそう言うのぉ。でもぉ。最後にはみーんな、巻きつきプレイに病みつきになっちゃってぇ、パクって食べられちゃうのぉ」  体を揺らしながら、マムシ怪人は愉快そうに武勇伝を語る。 「曲者!」  一人の兵士が、果敢にマムシ怪人へと斬りかかった。 「こぉんな風、にぃ!」  マムシ怪人の下半身が、兵士の全身に絡みつく。 「ふ、ふぉ。むほぉ」  鎧の下から蛇の尾に侵入され、兵士はなんとも言えない声を漏らす。全身をまさぐられているのだろう。

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