才川さんのお父さんの話によると、脅迫文が届いたのは四日前。 自宅の郵便受けに、切手が貼られていない状態で入れられていたのだそうだ。 内容は、才川さんのお父さんが所有しているダンジョンの出入り口を破壊されたくなければ1億円を払え、というものだった。 才川さんのお父さんはただのいたずらだと思ったようだが、才川さんと才川さんのお母さんが気味悪がったので、俺に相談することにしたようだった。 そして、二通目の脅迫文が今朝届いたという。 それもみせてもらったところ、その脅迫文には、明後日の午前4時、指定の場所に1億円を置いておけ。もし置いてなかった場合、速攻でダンジョンを破壊してやるからな、覚悟しろ。と書かれてあった。 話の最後に才川さんのお父さんは俺にこう言った。 「私はこんな奴に1億円など払う気は毛頭ない。そこでだ、明後日、私の所有するダンジョンを見張っていてもらいたいのだ。そしてその犯人を捕まえてもらいたい。そうすれば私がそいつを警察に突き出してやる」と。 俺は隣に座る結衣さんの顔を見た。 すると結衣さんは俺に対して申し訳なさそうな顔をしていた。 いつもポジティブな結衣さんには珍しい表情だった。 「……わかりました。いいですよ」 俺はそう答える。 「本当かいっ? いやあ、ありがとう賢吾くん。感謝するよ、この通りだ」 そう言って才川さんのお父さんはテーブルに手をつき頭を下げた。 「明後日だけで構わない。もし犯人が現れなければ、やはりただのいたずらだったと思えばいいのだからな。ではよろしく頼むよ、賢吾くん」 「はい、わかりました」 こうして俺は才川さんのお父さんを脅迫してきた犯人を捕まえるという大役を任されたのだった。 ◆ ◆ ◆ 「ありがと賢吾くんっ。ほんとにほんとにありがとっ」 才川さんの実家を出た途端、結衣さんが人目もはばからず俺をぎゅっと抱きしめてきた。 俺は「いえ、気にしないでください」と返しながら、それとなく結衣さんから離れる。 「でも大丈夫? 犯人がもし凶器を持ってたら賢吾くん危なくない? それに犯人が一人とは限らないし。やっぱりわたしも一緒についていった方がいいんじゃないかな?」 「大丈夫ですよ、俺一人で。俺の今のレベル聞いたら、結衣さんきっと驚いて腰抜かしますよ」 俺がそう言うと、 「何よそれ~。わたし腰抜かしたりなんてしないわよ。これでもまだまだ十分若いんだからねっ」 結衣さんはおどけた様子でウインクをしてみせた。 俺は「それに結衣さんが来ると足手まといになりそうなんで」と続けようと思ったが、一瞬考え、やはり口にはしないでおいた。 「じゃあそういうわけなんで、あとは俺に任せてください。何かあったらこっちから連絡しますから、結衣さんは仕事に行っていいですよ」 俺は結衣さんを見送ると、自宅へと引き返した。 ――そして二日が過ぎ、脅迫文に書かれていた日の朝を迎えた。
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