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「モンスター、全然出てこないね」 「そうですね。なんか、こんなこと言ったらあれですけど、ちょっと拍子抜けですね」 俺たちは地下100階を一通り歩き回ってみたが、モンスターは一体もいなかった。 さらにアイテムも一つもなく、正直肩透かしをくらっていた。 俺は、内心どんな強力なモンスターが待ち構えているのかと胸の鼓動を高鳴らせていたのだがな……。 しかも残念なことに階下へ続く階段も見当たらず、それ以上先へ下りる道はなかった。 つまり岸田さんが所有するダンジョンは地下100階がすべてだということのようだった。 「どうする? もう地上に戻る?」 岸田さんに声をかけると、 「そうですね。ここにいても何もなさそうですし、帰りましょうか」 岸田さんはそう答えた。 「だったら帰還テレホンを使おうか。そうすれば一瞬で地上に出られるんだからね」 「わたしのを使いますか?」 「いや、大丈夫。俺もこのダンジョンで手に入れたから、それを使うよ」 言って俺はポケットにしまっていた帰還テレホンを取り出してみせる。 「さてと……」 俺は帰還テレホンの電源を押そうとして――ふと、手を止めた。 「木崎さん、どうかしましたか?」 「しっ、静かにっ」 何かの気配を感じた俺は岸田さんにそう言うと、耳を澄ます。 つい今しがた、ほんのわずかだが、物音が聞こえたような気がしたのだ。 俺と一緒になって岸田さんも周囲に気を配る。 すると、岸田さんが、 「あっ、あれ見てくださいっ」 天井を指差し声を上げた。 俺はその方向に顔を向け、唖然とする。 なんと俺の視線の先には体長1メートルほどはある大きなスライムがいて、そいつが天井にへばりついていたのだ。 「な、なんだあれっ!?」 しかもスライムのようではあったが、色は銀で光り輝いていて、頭の上には天使の輪っか。 さらに背中には天使の翼のようなものを生やしていた。 「ぜ、全然気付かなかった……あんなモンスターがいたのかっ」 「わたしも今まで気付きませんでした」 『……』 その銀色に光り輝く大きなスライムは俺たちにみつかってしまった、というような顔を見せていたが、次の瞬間、俺たちの視界からふっと消えた。 「き、消えましたよっ」 と岸田さんが驚きの声を上げる中、俺にはその動きがなんとか見えていた。 とはいえ、そのスピードはゴールドメタルスライムよりもさらに速く、あの裏ダンジョンにいたミノケンタウロスよりももっとずっと速かった。 見渡した限りではほかにそのモンスターの姿は見えない。 どうやらこの地下100階にはあのでかい銀色のスライムが1体いるだけらしかった。 「あんなモンスター、速くて倒すどころじゃありませんね……」 俺の隣で岸田さんはそうつぶやくが、俺は今の銀色のスライムを逃がすつもりはなかった。 なので、 「岸田さんはここにいて。俺はあのモンスターを倒してくるからっ」 そう言い置くと、俺は岸田さんをその場に残し、地面を蹴って駆け出した。

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