作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

気付けば俺は白金の大迷宮がある公園にいた。 「ふぅ~……今のは我ながらナイスな判断だったな」 俺のスキルである緊急脱出を発動したことで、ミノケンタウロスの投げ放ったヤリから間一髪のところで地上へと逃げおおせることが出来たわけだが。 「とはいえ、惜しいことしたなぁ……」 悔やまれるのは入手していたアイテムの数々。 「高く売れそうなアイテムを持ってたのにな……ちっ」 緊急脱出は全MPを消費して地上へと一瞬で帰還するという便利なスキルなのだが、その代償として所持アイテムをすべて没収されてしまうのだった。 なのでせっかくダンジョン内で手に入れていたエリクサーなどのレアアイテムもすべて消え去ってしまっていた。 「特にさっきのエリクサーによく似たアイテムはもったいなかった気がするな」 つい先ほど裏ダンジョンでみつけていたエリクサーと色違いの液体は、見たことのないアイテムだったので、かなり高値で買い取ってもらえると思っていた。 それだけに非常に残念でならない。 「まあ、命があっただけマシか……でも、少しだけ楽しかったな。ははっ」 自分に言い聞かせるようにつぶやいた俺は、ボロボロの身体を引きずるようにして帰路へとつくのだった。 ◆ ◆ ◆ ミノケンタウロスから受けた傷は一晩寝て休むと全回復していた。 俺の最大HPが高いことによる恩恵だろう。 「さてと、今日はどうするかな……」 骸骨から譲り受けた黒いホイッスルは俺の部屋の机の中にしまってある。 今の俺の強さではまだ裏ダンジョンは早いのかもしれない。 そう考え、当分は裏ダンジョンへ行くことは控えておこうと思っている。 俺のレベルは現在3500だが、ゴールドメタルスライムを1匹倒せば1レベルくらいは上がるはずだ。 なので裏ダンジョンへ行くとしてもしばらくはまた白金の大迷宮でレベルを上げることになるだろう。 とはいえ最近は戦ってばかりいた。 少しは休暇を取ってもいいのかもしれない。 俺はすでに人が生涯に稼ぐことの出来る額の大半をもう稼いでしまっているのだから。 「たまにはどっか遊びに行くか」 そうひとりごちたところ、 ピリリリリ……ピリリリリ……。 スマホの着信音が鳴った。 誰だろう。 俺はスマホを手に取り、その画面を確認する。 とそこに表示されていた名前にびっくり。 「――き、岸田さん!?」 それは岸田さんからの電話だった。 俺は意味もなくそわそわしつつ、電話に出る。 「あー、もしもし。岸田さん?」 『おはようございます、木崎さん』 相変わらずの平坦な声。 「どうしたの? 珍しいね、俺に電話なんて。っていうか初めてだよね?」 『そうですね』 岸田さんとはバイト時代に、シフト調整のため携帯番号を交換したことがあるのだが、連絡を取り合ったことは今までにただの一度もない。 そのため、突然の岸田さんからの電話に俺はつい構えてしまう。 「えっと、それで用は何かな?」 『……』 俺が訊くとなぜか黙ってしまう岸田さん。 「……岸田さん?」 『……』 返事がなくどうしていいかわからない俺もついつい黙り込む。 「……」 『……』 沈黙の時間が流れる。 とその時だった。 やっと受話器の向こうから岸田さんの声が聞こえてきた。 『……あの、今から変なこと言いますけど勘違いしないでくださいね』 「ん? うん」 『木崎さん。少しの間だけでいいので、わたしの恋人になってもらえませんか?』 「うん…………えぇっ!?」

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません