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ベビーがこの世から消滅した翌日の朝。 俺は部屋を出ると一階にあるキッチンへと足を運ぶ。 その途中、 「あら、おはよう賢吾。今日は起きるの遅かったわね」 階段を下りたところで母さんの声が背中にぶつけられた。 「ああ、今日はダンジョンには行かないつもりだから」 振り返り言うと、 「あらそう――ってどうしたのっ? 目の周りが腫れてるわよあんた」 「えっ? ね、寝不足かな、ちょっと顔洗ってくるよっ」 俺はそそくさと洗面所に駆け込んだ。 鏡を見て自分の顔を確認し、「はぁ……我ながら情けない顔だな」とひとりごちる。 こんなことでは天国のベビーに笑われてしまう。 俺は昨晩泣き腫らした顔を水で冷やすと、 「……よしっ」 両頬を叩いて気合いを入れ直した。 そして洗面所の外にいる母さんに向かって、 「ごめーん! やっぱりダンジョン行くことにしたからっ!」 そう声を飛ばした。 ◆ ◆ ◆ 俺はベビーの大好物だったメロンパンを持って、昨日ベビーが消えた場所まで電車で向かった。 最寄り駅で降りるとベンチに腰掛け、ベビーのことを思い出しながら、それを頬張る。 そういえば、昨日の黒ずくめの男だが、そいつは今朝殺人の疑いで逮捕されたらしい。 昨日、俺が通報したことにより、電車内で気絶しているところを警察署に連行されていったところまではこの目で直接見ていたが、家を出る際にテレビで女性キャスターがそう言っていたのでまず間違いないだろう。 俺はスマホを取り出し、ネットで『ダンジョン所有権の放棄』と検索をかける。 するとかなりヒット数は少なかったが、昨日の男が話していたことが事実のようであることが書かれていた。 つまり、俺が知らなかっただけで、一部の人たちの間では、ダンジョン所有者が死ぬとその所有権も失われるということは周知の事実だったのかもしれない。 世間的にはそのような話はこれまで一切聞いたことはなかったので、もしかしたら国や政府が意図的に隠そうとしていたのだろうか。などとつい邪推してしまう。 「さてと、ダンジョンに向かうか」 メロンパンを食べ干すと、俺は立ち上がり快晴の空を見上げ一つつぶやいた。 「……ベビー、見ていてくれよな」

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