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「そっか……もう12時間経っていたのか……」 肩を落としひとりごちる俺に、ベビーと名乗った小さなドラゴンが話しかけてくる。 『ねぇねぇ、マスター』 「……ん? なんだ?」 俺が力なく返事をすると、 『元気がないけどどうしたの?』 つぶらな瞳で訊ねてきた。 「使い魔の卵を売るつもりだったのに、お前がその卵を割って出てきちゃったから売れなくなったせいだよ」とはさすがに言えないので、俺は、 「そりゃ、疲れているからな。ダンジョンに入ってからずっと迷子になっていたんだ」 ととっさに答える。 まあ実際、迷子なのは事実なのだが。 『えっ、マスター道に迷ってるの?』 「ああ。情けないことに出口が見当たらなくってな」 『ふーん。じゃあさ、おいらが出口まで案内してあげるよ!』 「なに、本当か!?」 『うん! だっておいらはこのダンジョンのことならなんでも知ってるもん! まかせてよ!』 そう言ってベビーは小さな翼を広げてみせると、俺の正面に浮かび道案内するように移動し始めた。 ◆ ◆ ◆ ダンジョン内をベビーの後ろに続いて進む俺。 どうでもいい会話をかわしつつ、歩くこと30分。 『ほら、見えてきたよ!』 ベビーが前方を指差しながら、嬉しそうに声を上げた。 「おおっ、本当だっ」 ベビーの指差す方には、たしかに地上への階段と、外から差し込む光が見えていた。 「サンキュー、ベビー。助かったよ」 『えっへへ。どういたしましてっ』 とはにかむベビー。 俺はそんなベビーの頭を撫でてから、出口へと駆け出した。 「じゃあ、俺行くから。本当にありがとな」 地上への階段を前にして俺は再度ベビーに感謝の言葉を述べる。 ベビーがいなかったらマジで遭難していたかもしれないので、俺はモンスター相手だが深々と頭を下げた。 だが、それを受けベビーは、 『何言ってるの? おいらも一緒に行くよ』 とさも当たり前のように口にする。 「え? 行くって、地上にか? 俺と一緒に?」 『うん。だっておいらはマスターのそばを離れるつもりないもんね』 そう言うとベビーは俺の肩に飛び乗った。 え……マジで? 俺は内心、戸惑う。 たしかモンスターはダンジョンの外には出られないシステムのはずだが、ベビーはモンスターだよな? そもそも出られるのだろうか? というか仮に出られたとして、俺はそのことで国から罰せられたりはしないだろうか? 心の中で自問自答する俺をベビーは子どものような無邪気な顔でみつめている。 『どうかしたの? マスター』 「あー、いや……なんでもない」 正直言って面倒事は避けたいのだが、ベビーは俺の命の恩人と言っても過言ではない。 そんなベビーの願いを断り、ダンジョンに置き去りにしていくのはさすがに気が咎める。 『だったら早く帰ろうよ。おいら、マスターの家に行くの楽しみだなぁ』 肩を見ると、ベビーが喜びを表現するかのように目を細め体を左右に揺らしている。 それを見て俺の気持ちは固まった。 まあ、多分大丈夫だろう……。 そう結論付けた俺は、 「よし、じゃあ一緒に行くか」 肩に乗っていたベビーを手で包み込み、ぬいぐるみのごとく腕の中に抱えると、そのまま地上を目指し階段を上がっていった。

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