『……ふむ。人間よ、うぬはだいぶ強くなったようだ。それでは約束通り、我が冥界へといざなってやろう』 「ちょ、ちょっと待てっ。お前は何者なんだ? モンスターなのか?」 骸骨を前にして、俺は気になっていたことを思い切って口にする。 『……我は冥界よりの使者なり。冥界は強い者は誰であろうと歓迎する。うぬは選ばれたのだ、誇るがいい』 そう言うと骸骨は黒いホイッスルを俺に差し出してきた。 「な、なんだそれは?」 『……これを吹けば冥界への扉が開かれる。そこは裏ダンジョンとも呼ばれている場所だ』 「う、裏ダンジョン……?」 『……さあ、受け取るがいい』 俺は訝しがりながらも、それを手に取る。 すると骸骨は『……では、さらばだ人間よ』とささやいたかと思った次の瞬間、音もなくその姿を消した。 俺はその場に立ち尽くしたまま、手の中のホイッスルをただただみつめる。 「……よ、よくわからないけど、これを吹けば裏ダンジョンとやらに行けるってことなんだよな、多分」 俺は迷った末、意を決してそれを口に当て、息を吹き込んでみた。 ピーッ。 と甲高い音が辺りに響き渡る。 しかし特に何かが起きる様子はない。 「…………」 俺が首を傾げていると、突然、地面が揺れ始めた。 「な、なんだ!?」 動揺しているうちに、突如として足元に現れた魔法陣によって、全身がまばゆいばかりの光に包まれていく。 俺は思わず目を閉じて、腕で顔を覆った。 どれくらいの時間そうしていただろうか。 次第に光が弱まっていき、ゆっくり目を開けると、 「……えっ?」 俺は先ほどまでいた白金の大迷宮ではなく、見知らぬ石造りのダンジョンの中にいた。 ◆ ◆ ◆ 「こ、ここは……?」 白金の大迷宮は基本、土と砂で出来ていたのだが、俺が今いるダンジョンは周りを見渡すと壁も床も天井も、すべて石で出来ていた。 「ここが裏ダンジョンってことなのか……?」 どうにもまだ実感がわかない。 俺は本当に骸骨が言っていた裏ダンジョンとやらに来てしまったのだろうか。 そもそもあの骸骨はなぜ俺をこんな場所に……? 疑問は尽きない。 「とりあえず進んでみるしかないか……」 考えるより行動だと思い、俺は一歩足を踏み出す。 だが、すぐに足を止めた。 なぜなら前方に巨大なモンスターの影が見えたからだ。 「お、おいおい、かなりでかいな」 黒い影は俺の正面にぬうっとその姿を現した。 体長10メートルを超える巨体に、頭には2本の角、そして牛のような顔のそのモンスターは、ミノタウロスによく似ていた。 だが下半身は馬のようで、まるでミノタウロスとケンタウロスを合体させたようなモンスターだった。
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