俺は両手を上にあげ、降参のポーズを取った。 すると、それを見たゴールドメタルスライムたちが鳴き声を上げるのをやめた。 俺はその隙に何か役に立ちそうな物はないか、と辺りを見回す。 だが目に入ったのは壁にかけられた松明だけ。 この際、何もないよりはマシか……。 そう思い、両手を上げたままそろりと壁に近寄っていく。 そして松明を手に取ると、 「このやろっ!」 それをゴールドメタルスライムの群れの中に放り投げた。 意図してやったわけではないが、ゴールドメタルスライムたちは火が苦手だったのか、急に取り乱し始めた。 俺はこれ幸いとばかりに、回れ右をして一目散に走り出す。 後ろを振り返る余裕などなかった。 とにかく無我夢中でダンジョン内を駆け抜けた。 ◆ ◆ ◆ どこをどう走ったか、自分でもわからないくらい無心でダンジョンの中を走った。 その甲斐あって、ゴールドメタルスライムの大群をなんとか振り切ることに成功したようだった。 「ぜぇ、ぜぇ……つ、疲れたっ……もう走れないっ……」 走っていて気付いたが、どうやらこのダンジョンは1フロアしかないらしい。 その代わり、その広さはとてつもなく広大だと思われた。 「はぁ、はぁ、はぁ……逃げ切れたはいいけど……こ、ここ、どこだ……?」 一難去ってまた一難、俺はダンジョン内で迷子になっていた。 しばらくするとようやく呼吸が落ち着いてくる。 「ふぅ、でもまいったぞ。どうやって戻ればいいんだろう」 この時の俺はまだ知らなかったが、実はこのダンジョン、東京都がまるまるすっぽり入るくらいの大きさがあるのだった。 それを知らない俺は、ただやみくもに地上への出口を探してダンジョン内を歩く。 だが、いくら歩き回っても一向に外に出られる気配がない。 しかも、ゴトッ。 遠くの方で物音がした。 もしかしたらモンスターがいるのかもしれない。 俺は慌てて壁にかけられていた松明を手にすると、身構えながら音のした方にゆっくりとそれを向けた。 とそこには、剣を持った骸骨が見えた。 身長は俺と同じぐらい。 全身が真っ白な骨格だけでできている。 手には錆びついたロングソードを持っていた。 そいつは俺を見るなり、頭を揺らしてカタカタと音を鳴らし、こちらに近付いてくる。 初めて遭遇するモンスターだった。 見た限りでは動きはのろいようだが、油断は出来ない。 俺は注意深く骸骨の動きを目で追う。 だが次の瞬間、 「――えっ!?」 突然、目の前にいたはずの骸骨の姿が消えた。 そして直後、背後に強烈な殺気を感じた。 反射的に振り返ろうとするも、時すでに遅し。 骸骨の持っていた錆だらけの長剣が、俺の首筋にピタッと当てられていた。 俺は死を覚悟した。 だが――驚くべきことにその骸骨は剣を止めたまま、 『……弱い。弱すぎるぞ、人間よ』 と人の言葉を発したのだ。 俺は骸骨に背後を取られたまま、 「お、お前何者だ……? なんで喋れるんだ……?」 口を動かす。 『……我は冥界の使者なり。人間よ、貴様はこのダンジョンに選ばれし者だ』 「め、冥界? ダンジョンに選ばれし者って……?」 『……もっと強くなれ人間よ。さすれば我が冥界へといざなってやる』 「そ、それはどういうことだ……?」 『……』 骸骨はその問いには答えようとはしなかった。 「お、俺を殺さないのか……?」 『……』 骸骨はなおも無言のまま。 「な、なんとか言えよ。おいっ……」 『……』 らちが明かないので、俺は生唾をごくりと飲み込むと、意を決してゆっくり後ろを振り返ってみた。 すると、もうそこに骸骨の姿はなかった。
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