準決勝の第一試合は岸田さんが不戦勝でそのまま勝ち上がった。 そして準決勝の第二試合。 武藤さんと俺の勝負が始まろうとしていた。 武藤さんは20代半ばくらいの男性で、第一回戦目の戦いぶりを見る限り俺の楽勝だと思われた。 だが武藤さんもそれは感じていたようで、 試合開始直後、 「スカイハイ!」 と唱えると空高く舞い上がった。 「ふはははっ。木崎くん、きみは相当腕が立つようだからね、わたしのとっておきのスキルで空中に避難させてもらったよっ。こうすればきみの攻撃は届かないからねっ」 上空を見上げる俺に向かって声を降らせる武藤さん。 「でも、それだと武藤さんも俺を攻撃できないじゃないですかっ」 俺は声を響かせるが、 「ふはははっ。それはどうかな」 武藤さんは自信ありげに笑うと両手を胸の前で重ねてみせた。 その手を俺に向けて、 「アイスショットっ!」 と言葉を発した途端、氷の弾丸みたいなものが飛んできた。 「うおっ!」 予期していなかった攻撃だったが、それを俺は紙一重で避ける。 「ほう、さすが木崎くん。あれを避けるとはやっぱりたいしたものだよ。でも次は連続でいくからね。アイスショットっ!」 言うなり、氷の弾丸が雨のようになって降ってきた。 俺はそれをすべてかわしつつ、どうしようかと逡巡する。 跳び上がって倒すことも出来るとは思うが、空中ではさすがの俺も思うように動けない。 そこで俺は先日会得した、対象の重力を重くするという新たなスキルを使うことに決めた。 上空を見上げて、 「グラビティハント!」 と俺は口にした。 その瞬間「うがっ……!?」と小さく奇声を発した武藤さんが地面に勢いよく落ちてくる。 そして、 ドゴッ! そのままの勢いで地面に衝突した武藤さん。 近寄っていったスーツ姿の男性がそれを確認して、 『しょ、勝負あり! 木崎さんの決勝進出決定です!』 そうアナウンスをしたのだった。 ◆ ◆ ◆ あれよあれよという間に、気付けば俺と岸田さんとの決勝戦の時がやってきていた。 俺は正面に立つ岸田さんにそれとなく棄権を勧める。 「あのさ、俺結構強いんだけど、岸田さん降参する気ない?」 「わたしも結構強いので気にしないで全力でかかってきてください」 岸田さんは棄権などする気は一切ないようで、俺をじっとみつめてくる。 まいったな、岸田さん相手に全力なんて出せるはずがない。 岸田さんにはバイト時代にかなり世話になっているから、出来ることなら勝たせてやりたいと思う気持ちもあるし……さて、どうしたものか。 などと、考えていると、 『では、決勝戦初めっ!』 試合が始まってしまった。 俺は仕方なく、極力手加減して気絶させてしまおう、と前に向き直った。 とその時だった。 「ナイトドリーム」 岸田さんが俺の目を見てそうささやいた気がした。 ――そこまでしか憶えていない。 なぜなら俺の記憶はそこでぷっつりと途絶えたからだ。
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