「あぁ……やっぱり……」 俺は嘆息した。 ネットで集めた情報ではステータスには個人差が存在するということだった。 たとえば同じレベル100のプレイヤーであっても、人によっては攻撃力の数値が1000を超える者もいれば200にも満たない者もいるらしいのだ。 それでいうと、俺は決してステータスに恵まれているとは言えない。 運の数値を除いてはだが。 「……まあ、いいか」 それを嘆いたところでどうなるものでもない。 ステータスが低いのならば、その分レベルを上げればいいだけだ。 幸運なことにこのダンジョンに生息しているゴールドメタルスライムとやらは、かなりの獲得経験値が期待できるようだし、このダンジョンに入れる人間は俺だけだ。 ここでレベル上げをしながら、有用なアイテムをみつけて国に高く買い取ってもらえれば、俺の人生はバラ色に一変する。 「ふふ、ふふふっ……」 捕らぬ狸のなんとやら。 そんなことを考えていた俺は、自然と笑みがこぼれていた。 ぎゅるるる~。 とそんな時、お腹が空腹を訴え出した。 「あ、そういえば」 そこで俺は、バイト帰りだったことを思い出す。 「スライムを追いかけるのでだいぶ疲れたからな、今日は帰るとするか……」 本当はダンジョンの探索をしたい気持ちで一杯だったが、疲労と眠気と空腹が同時に襲ってきていたので、俺はひとまずダンジョンを出ることにした。 ◆ ◆ ◆ ダンジョンを出るとそこには人だかりができていた。 夜とはいえ、公園のど真ん中にダンジョンが突如として現れたのだから当然といえば当然か。 集まっていた人たちはスマホ片手に、 「あんたが一番に入ったのかっ?」 「それ、やっぱりダンジョンなのかっ?」 「なんかアイテム拾いました?」 俺を質問攻めにする。 「あ、ええ、まあ……」 人気者になったようで悪い気はしなかったものの、勝手に動画を撮られていたので、俺は適当に返事をしてその場をあとにする。 それでもまだ何人かは俺のあとをついてきていたが、しばらく無視して歩くと彼らも諦めたのか、散り散りにいなくなっていった。 ――翌朝。 俺は普段通り、朝早くに目が覚めた。 そしてバイト先の制服に袖を通していたところで、ふとその手を止める。 「あー、そうか。もうバイトに行く必要はないんだったな」 そんなことをひとりごちる。 そう。 俺はもうダンジョンの所有者になったのだ。 あのダンジョンさえあれば、俺は働かなくても大金が稼げるはずなのだ。 店長の言葉でわざわざ嫌な思いをしてまでバイトを続ける必要はない。 そうと決まれば善は急げだ。 俺はバイト先に辞職をする旨の電話をかけることにした。 『はい、もしもし。ファミリーレストラン、ガーデンフロアです』 電話をすると、向こうから岸田さんの平坦な声が聞こえてきた。 「あ、岸田さん。おはようございます、木崎です」 『どうも、おはようございます木崎さん』 「えーっと、言いにくいんですけど、俺、そこのバイト辞めようと思いまして……もしよかったら店長にそう言っておいてもらえますか?」 『辞めるって……今日、ですか?』 「はい、そうです」 当日の電話で辞めるというのも礼儀がなっていないとは思ったが、これまで店長にはさんざん嫌みを言われてきたんだ。 これくらいしてもバチは当たらないだろう。 『……そうですか。わかりました。じゃあ木崎さん、お元気で』 岸田さんはそれだけ言うと一方的に電話を切ってしまう。 岸田さんにはこれまでのお礼くらい言おうと思っていたのだが……。 「まあ、いいか」 気を取り直し、 「さてと、朝ご飯を食べたら、ダンジョンに行くかなっ」 自身を鼓舞するように発すると、俺は朝支度を始めた。 ――俺には、夢のダンジョンライフが待っている。
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